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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第4章 奴隷少女
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第19話 解放

「落としどころとしては、こんなもんだろ」


 一連の事件の結末を俺たちはボーバン家の馬車の上に潜り込ませておいたサンドラットを通して見える視界で見届けていた。


「あいつにはいい報いだ」

「そうですね」


 今朝早くにフレブル子爵家に再び訪れた俺たちは門番に「犯人を捕まえたのでフレブル子爵に面会したい」と願い出た。


 もちろんこちらから報酬の要求を突き付ける為だ。

 そこで事件の真実を語って聞かせ、暗殺犯であるデイビスを引き渡す代わりに金ではなく、あることを2つ要求しておいた。


 1つ目は、窃盗犯であるラルドさんから一切の罪を消すこと。これには暗殺犯であるデイビスを窃盗犯でもあったことに仕立て上げることで了解してくれた。ただ、間違った人間を犯人だと知らしめてしまったので、フレブル子爵家の落ち度となってしまうので、こちらからわずかばかりの慰謝料を渡しておいた。


 2つ目は、事件の裏にいたボーバン準男爵家を徹底的に潰してもらうこと。今後、ボーバン家が残っていて復讐でもされたのではたまったものではない。ボーバン家には跡形もなく退場してもらうことにした。これにはフレブル家も喜々として賛同してくれたので、ボーバン家が関わっていた証拠の1つとして、俺が脅して喋らせた時の音声を記録していた魔法道具(マジックアイテム)を渡しておいた。

 この魔法道具はシルビアを買う前に王都を散策していた時に見つけた物で、面白そうだからお土産にちょうどいいかな? と買っておいた物だが、予想以上に早く使う機会が訪れてくれた。

 おかげで証言が証拠になってくれた。


 他にもいくつか面白そうな物があったので、いつか使う機会があるだろう。


『さすがにこういう魔法道具は迷宮にはないからね』

「そうだな」


 迷宮には珍しい、強力な魔法道具が眠っているが、逆に言えば後から人の手によって造られた金さえ出せば手に入るような魔法道具はあまりない。

 何か面白そうな物が手に入るかもしれないからちょくちょく王都に顔を出すことにしようかな?

 アリスターの街にも魔法道具を売っている店はあるが、ほとんどが生活に役立つ物や魔物退治に使えるような物ばかりで、録音が可能になるような魔法道具は王都でなければ手に入らない。


「ま、今後も依頼で王都に来ることがあるかもしれないし、来た時に考えればいいだろ……ってどうした?」


 正面にいるシルビアを見ると両手で顔を覆っていた。

 フレブル家での説明を終えた俺たちは、事が起こるとしたら昼過ぎだろうと予想してレストランで昼食を摂り、今は昼食後のコーヒーを飲みながらフレブル家とボーバン家の衝突を見ながらまったりと楽しんでいた。


「その……眷属になった時のキスとか覚悟していたんですけど、あんな場所に誰かいると思っていなかったからあんな行動に出られたんですけど……」


 実際、あの場所には騒ぎに関わり合いにならないよう住人が一時的に避難していたので、俺たちの姿を見た者は誰もいなかったはずだ。


「それが、キスだけじゃなくて全部見られていたと思うと急に恥ずかしくなってきて」


 思わずガン、と額をテーブルに押し付けてしまう。

 その姿を見ると「ああ……」としか言えない。


『そんなに気にすることないよ』

「気にします!」


 眷属になったことでシルビアも迷宮同調を手に入れ、迷宮核(ダンジョンコア)の声が聞こえるようになった。最初は混乱させてはいけない、と迷宮同調については教えていなかったが、先ほど教えたところ、恥ずかしさのあまり悶えてしまっている。


「そいつの言うように気にしない方がいいぞ。その気になれば迷宮同調でそいつとの情報共有を拒否すればいいんだから」

『え~、それはつまらないよ』

「いえ、眷属として拒否するわけにはいきません。わたしには何も恥ずかしいところなどないんです。だから、どれだけ覗いていただいても構いません」

「ちょっ、こんなところで『覗く』とかいうセリフを使うな」


 ほら、レストランにいるおば様方からキツイ視線を向けられてしまったじゃないか。

 奴隷であるシルビアが俺に対して覗いても構わない、なんてセリフを言っていたら奴隷に対して無体な命令を出して恥ずかしい思いをさせている主人みたいなものじゃないか。

 それもこれもシルビアが奴隷なせいだ。


「これからの予定だけど、観光をして1泊して明日の朝には王都を出発してお前の故郷に行きたいと思う」

「ありがとうございます。わたしはアリスターの街に付いていくつもりですけど、その前に家族には挨拶をしていきたいですから」

「それとラルドさんの遺体も渡さないといけないな」


 2人ともコーヒーを飲み終わっているので席を立ち上がる。


「観光ですね。最後の王都ですから目一杯楽しみましょう」

「ま、その前にやることがあるんだけどな」

「やること?」




 ☆ ☆ ☆




「そうですか事情は分かりました……」


 翌日、朝の内に出発したおかげで昼頃にはシルビアの故郷であるレミルスという名前の街に辿り着いていた。


 最初にシルビアから話を聞いた時は、1日ちょっと時間が掛かると聞いていただけに野宿することも考えていたのだが、あっという間に着いてしまった。よく考えれば1日ちょっと掛かっていたのはステータスが強化される前の話だ。シルビアのペースに合わせても今の1000を超えた敏捷で走れば時間は短縮される。


 故郷、と言っても病気の治療の為に設備の整った街で生活しており、本来は近くにある村で生活しているとのことだ。

 シルビアの母と妹は、街で部屋を一室借りて病院に通うという生活を送っていた。


 シルビアと一緒に借りている部屋に訪れるとおっとりとした長い金髪を三つ編みにした30代ぐらいに見える女性が迎え入れてくれた。部屋の中にはもう一人、10歳のぐらいの少女がいた。母親がオリビアさんで、妹がリアーナだと紹介された。

 そんな病弱な人に追い打ちをかけるような話をしなくてはならないと考えると胃が痛くなってきたが、娘であるシルビアから語って聞かせた。王都に行った夫が犯罪者にさせられていたり、そこから娘が奴隷になってしまったりしたことなど。


「娘だけでなく夫まで救っていただきありがとうございます」

「いえいえ、本当に成り行きでそうなっただけですし、結局お父さんを連れて帰ることはできなかったんですから」


 あの時、路地裏を走るシルビアを迷宮核が見つけていなければシルビアが帰ってくることはなかった。


「それでもお礼を言わせて下さい」


 オリビアさんが何度も頭を下げる。

 ラルドさんがいなくなった今、家族は自分が支えていかなければならないと考えているのだろう。母は強いな。


「ただ、1つだけ確認しなければならないことがあります」

「なんでしょう?」

「シルビアの首には奴隷の証である首輪がないようですが、シルビアは奴隷から解放されたということでしょうか?」

「はい、奴隷商で正規の手続きを経て解放しました」


 奴隷が解放される為には、奴隷と主人が奴隷商の下を訪れて特殊な魔法によって首輪を外してもらう必要がある。両方がいる必要があり、これによって主人が死んでしまっても奴隷が解放されることはない。さらに解放の為にはお金が必要であり、奴隷が解放される機会は本当に少ない。

 奴隷が解放される為には、奴隷と主人の両方が本当に解放されることを望んでいなくてはならない。


 王都の観光をする前に真っ先に奴隷商を訪れてシルビアを奴隷から解放したため、彼女の首にもう首輪はない。

 正直言って、もう奴隷でいる必要などなかった。


「娘を解放してくれてありがとうございます。娘を購入するために支払ったお金については……」

「あ、気にしないで下さい。その事については彼女が一生かかってでも払ってくれると約束してくれたので」

「どういうことなの?」

「ご主人様はアリスターの街に帰るんだけど、私もついていって身の回りのお世話とかして借金を返すことにしたの……」


 おおい、ご主人様って何だ!?

 たしかにアリスターの街へついてくることは了承したけど、そんなセリフを頬を赤く染めながら言ったら、勘違いさせてしまうだろうが!


「そう、おめでとう」


 ほら、結婚でもすると思われたのか祝福されたじゃないか。


「本当なら心配だから私も付いて行きたいけど、病弱な私じゃ馬車で数日の旅も難しいのよね」


 オリビアさんの病気は、一応落ち着いたと言っても体力などが落ちていて長期間の旅ができるような体ではなかった。それに幼い妹を連れての旅も危険だろう。

 それでも母として娘が心配なのか付いて行きたそうにしていた。


「わたしも母さんに付いて来てほしいけど……」


 シルビアも母と離れ離れになるのが寂しいのか付いて来て欲しそうにしていた。

 仕方ない。


「数日の旅は無理でも3~4時間ほど歩くぐらいならどうですか? 荷物は全てこちらで持ちます」


 持つと言っても道具箱(アイテムボックス)に収納してだが。


「ええ、それぐらいなら大丈夫だと思いますが、アリスターの街は辺境にあるんですよ。どんなに頑張っても数日は掛かりますよ」

「大丈夫です。俺の転移魔法でアリスターの街の近くまで行くことができます」

「なるほど。転移で迷宮まで行くんですね」


 迷宮から街まで冒険者の足なら1~2時間で辿り着くことができる。病人であることを考えれば、もしかしたら3~4時間かかるかもしれないが、数時間でアリスターの街まで辿り着くことができる。迷宮魔法について知られてしまうことになるが、家族同然の相手には隠し事はなしで行きたい。


「どうしますか?」

「ご厚意に甘えてばかりですが、お願いします。荷物や挨拶があるので、村の方にも帰らなければならないですが、私たちも付いて行きたいと思います」

「分かりました。今後もよろしくお願いします」


 こうして、シルビア一家もアリスターの街へ帰ることが決まった。

 さ、帰ることにしよう。




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