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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第26章 悠々自適
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第3話 開墾

 迷宮地下81階。


「これより開墾を行いたいと思います!」


 スコップを手にしながら眷属5人を前にして言う。

 全員が揃うのは本当に久しぶりだ。シルビアは妊娠や育児によって留守番が続いていたし、他の皆も色々と抱えている事があって長期間街を離れていたこともあってそっちに関わっていた。

 そして、今日は全員を集めた。

 これから行う作業には全員の協力が必要になる。


「あの……」

「何だ?」

「なぜ、ここなのでしょうか?」

「下層だとここぐらいしか開墾できる場所がなかったからだよ」


 メリッサの質問に答える。


 地下81階~85階は廃都市フィールドになっている。

 フィールドの中央に廃棄された都市があり、その周囲に荒野が広がっている。本来なら上の階層から転移して来ると荒野のどこかへ転移させられて都市の中央を目指す、それが廃都市フィールドだ。


 他の冒険者が訪れたことのないフィールドだと『墓地』『沼地』『氷雪』『鍾乳洞』となっている。

 墓地フィールドはアンデッドが徘徊しているフィールドであるため開墾したくないし、沼地フィールドは地面がぬかるんでいるせいで農業には向かない。氷雪フィールドは雪と氷に覆われているし、鍾乳洞フィールドは地面が岩であるためにできない。

 結果、乾いてはいるものの廃都市フィールドの荒野ぐらいしか使えなかった。


「いえ、そういう事を言っているのではなく……」


 メリッサが言いたかったのは廃都市フィールドを開墾する理由。


「それについてはシルビアの願いだったからだ」

「わたし、ですか?」


 言った覚えのないシルビアがキョトンとしている。

 きっかけは昨日の夕方だ。



 ☆ ☆ ☆



 夕方。


 子供たちも疲れて寝静まっている。

 男の子のアルフは起きても大人しく寝ている今は静かだ。逆に女の子のソフィアは起きている間は構って欲しいのか激しく動き、疲れていることもあって寝ている間は静かになる。

 赤ん坊は寝るのが仕事とは言うが、二人が寝ている時間こそ大人がゆっくりできる。


「ふぅ~」


 シルビアが溜息を吐く。

 育児はシエラのおかげで初めてではないが、それでも人数が倍に増えたせいで大変になっていた。


「大丈夫か?」

「これぐらい平気ですよ」


 ベッドで寝ている自分の子供を見て微笑んでいた。

 それでも苦労を掛けてしまっているのには違いないので何かしらの形で報いたい。


「何か願いでもないか?」

「そうですね……今が幸せですから何もいりませんよ」


 そう言ってくれるが、これは俺の個人的なお礼だ。


「ご主人様の方こそ最近はずっと屋敷にいますけどやりたい事はないんですか?」


 エストア神国から帰って来てからはずっと屋敷に居る。

 暇を持て余している訳ではなく、動くべき時に備えて英気を養っている……いえ、ごめんなさい。単純に生まれて来た子供が可愛くて離れたくないだけなんです。だから、こっちをジト目で見ないで。

 とはいえ、やるべき事がない訳ではない。


「やろうと思っている事はある。ただ、その為にはシルビアの協力が必要不可欠なんだ」

「わたしの協力、ですか?」

「いや、正確には眷属全員の力が必要になるんだ」


 シルビア以外を連れて挑んでみてもいい。

 ただ、その場合は危険が伴うので全力で挑むべきだと判断した。

 いくら出産したとはいえ、今のシルビアは体力が落ちている。何よりも生まれたばかりの子供を置いて長期間出掛ける訳にはいかない。【転移(ワープ)】があるからすぐに帰って来ることはできるが、この間のようにちょっと目を離した隙に寂しさから泣かれてしまうと非常に困る。

 せめて、もう少し大きくなるのを待つ必要がある。


「少なくとも2カ月は待機するつもりでいる」

「そうですか」


 ホッと息を吐く。

 やはり、シルビアも生まれたばかりの子供を置いて出掛ける訳にはいかないと思っていた。俺に仕えてくれるのは嬉しいのだが、母親になった今は子供を最優先に考えて欲しいところだ。


「今だって何もしていない訳じゃないんだぞ」


 冒険者ギルドへ行って情報を集めている。

 Aランク冒険者という立場を利用すれば手に入らない情報はない。


「それに依頼が貼ってある掲示板を見て必要とされている素材を確認したり、掘り出し物がないかあちこちに顔を出したりしているし」


 需要の確認は迷宮を運営するうえで欠かせない。

 掘り出し物があれば迷宮の糧になる。【鑑定】があれば掘り出し物を見つけるのも難しくない。

 とにかくやれる事はある。


「アイラだって暇を見つけては討伐依頼を受けてストレス発散をしている。お前にも何か楽しめる事が必要なんじゃないか?」

「そうですね……」


 シルビアが悩んでいる。

 その視線は二人の赤ん坊に向けられている。討伐依頼を受けている時のアイラは母たちにシエラを預けていた。同じようにアルフとソフィアの面倒を見てもらったとしても母たちなら拒絶するようなことはないだろう。


「あの庭にある家庭菜園はどうだ?」


 いつまでも答えが出ないようなので俺の方から言う。

 シルビアは屋敷に住み始めた頃から庭の一部でハーブなどを育てていた。時折、彼女の作る料理に華を添える為に使われているのを覚えている。


「あれですか。最近はずっと屋敷にいたので世話をしていますよ。ただ、庭の一部を使っているだけでは育てられる量に限界がありますね」


 シルビアとしてはもっと色々なハーブを育ててみたいらしい。

 だが、広さを考えると3、4種類の育成が限界になる。



 ☆ ☆ ☆



「という訳でハーブに限らず色々な物を育ててみたいと思う」

「あの言葉をそんな風に捉えていたんですか」


 シルビアがどこか呆れている。

 だが、俺は本気だ。


「そもそも迷宮主なんだったら最初から畑を用意すればいいんじゃない?」


 ノエルがもっともな疑問を口にする。

 迷宮の力を使えば畑を用意するなど簡単だし、いっそのこと植物まで用意してしまえる。


 その方法を選ばないのは……


「魔力が勿体ないだろ」


 環境的に畑があってもおかしくない廃都市フィールドだとしても何も無い状態から畑を用意するなら迷宮の魔力を消費してしまうことになる。迷宮の魔力は、迷宮に侵入した冒険者から吸収したものなのでなるべくなら節約したい。

 こういう趣味の範囲で行うことなら自分たちの魔力で行うべきだ。


「大丈夫。魔法を使えば開墾なんてあっという間だから」


 去年の春には開墾する子供たちを見守る側だった。

 一般人の魔力では魔法が使えたとしても狭い範囲の開墾にしか利用できないため魔法での開墾は避けるべきだ。なによりも魔法に頼ってしまうと維持し続けるのが難しい。

 けれども、俺たちの場合は気にせずバンバン使うことができる。


「ねぇ」


 今度はアイラからの質問だ。


「この間、地下84階と85階を造ったわよね。どっちも廃都市フィールドを造った訳だけど、その時に草原フィールドみたいな場所を造る訳にはいかなかったの?」

「覚えていないのか」


 数日前にカルテアやアルサムの騒ぎで手に入れられた報酬から階層の追加を行ってみた。追加したが、細かい部分は順次造って行く事になっているため現在は地下83階をそのままコピーした階層になっている。


 アイラが言っているのは、魔力に余裕があるならそこを農作業に適したフィールドにすれば良かったのでは? という事だ。


 ただ以前にも説明した事を忘れているため呆れるしかなかった。


「よくよく思い出してみろ。他のフィールドだって5階層毎に環境が変わっているだろ」


 5階層毎というのにはきちんと理由がある。

 その辺り、シルビアも忘れてしまっているらしい。まあ、そもそも説明していなかったノエルが知らないのは仕方ない。


 きちんと覚えているイリスが道具箱から黒板とチョークを取り出し、指示棒まで手に取っていた。

 メリッサは彼女のサポートだ。


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