表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第26章 悠々自適
662/1458

第1話 双子

 春も近くなった頃。


「いやぁ、無事に生まれてくれて良かったよ」

「ありがとうございます」


 シルビアが慈愛に満ちた表情で自分の腕の中にいる男の子――アルフを見る。

 この子は数十分前にシルビアが生んだばかりの子だ。生まれた瞬間は大きな産声を上げていたが、今は母親に抱かれてスヤスヤと眠っている。


「それに迷惑を掛けずに済んで良かったです」

「気にしなくていいって」


 シルビアの出産はアイラの時のように一人の負傷者を出すようなこともなく終えることができた。

 アイラの時は出産時の苦痛から高すぎるステータスを制御することができずに周囲にある物を壊してしまう有様だった。その被害を抑える為に励ます意味も含めて俺が手を握っていたのだが人生で最も負傷したのではないかと思えるほど負傷してしまった。

 だが、迷宮主仲間であるリオから眷属のステータスを下げる魔法道具を貰っていたおかげで負傷者を出すことなく無事に終えることができた。

 そんな代物を使う以上、自宅は使わず俺の家で出産をすることになった。

 今は自分の部屋でゆっくりしてもらっている。


「本当によく頑張ったわね」

「え、ぇぅ……!」

「ああ、ごめんね」


 部屋の中にはシルビアが疲れていることもあって大勢で詰め掛ける訳にもいかず母親であるオリビアさんだけが同席していた。


 その腕の中には女の子――ソフィアが抱かれていた。

 オリビアさんにとっては待望の女の子だ。

 姿を見た瞬間から溺愛してしまっている。


 ただ、子供まで懐いているとは限らない。


「もう返して」


 シルビアが自分の娘を受け取る。

 母親に抱かれていることを理解できたのかぐずっていたのが止まる。


「本当に女の子も生まれて来てくれてよかった」

「私の事なら気にしなくてもよかったのに」

「何を言っているの? アルフが生まれて来た後でやっぱり男の子だっていう事が分かった瞬間にお母さんがガッカリしていたのを見ていたんだからね」

「……っ」


 痛いところを突かれてオリビアさんが落ち込む。

 オリビアさんは以前から女の子を所望していた。それというのも俺の母がアイラの産んだシエラを自分の育児経験から可愛がり、アイラにも様々なアドバイスを与えていた。

 近くでその光景を見ていたオリビアさんは羨ましくなった。


 だが、母と違ってオリビアさんが育てたことがあるのは女の子だけ。

 やはり自分の経験を活かしたいと思ったオリビアさんは自然と女の子の孫を望むようになった。


 そんな時に発覚したシルビアの妊娠。ただ、魔法による妊娠中の検査で分かったのは『子供が双子であること』と『男の子の反応がある』事だった。この場合で考えられるのは『両方とも男の子』か『男の子と女の子』の可能性。残念ながら魔法も万能ではないのでそれ以上の結果は分からなかった。

 結果はオリビアさんが望んだものだった。


「私が望んでいたのは事実よ。けど、そこまで責任を感じる必要はないのよ」

「そうなんだけど……お父さんの分までお母さんには幸せになって欲しいから」

「そう」


 素っ気なく言うとシルビアから片手で抱いていたアルフを受け取って背を向けてしまった。

 やはり、慣れていない状態では二人を同時に抱くのは難しい。

 そんな娘を気遣って母親であるオリビアさんが率先して手伝っている。


 今は顔を見せてくれていない。

 それと言うのもシルビアの言葉に感動してしまったものの平静を保とうとしているからだ。母親として弱いところは見せられない。


 バン! と大きな音を立てて扉が開けられる。


「もう、いい?」


 部屋の向こうから来たのはシエラを抱えたアイラ。

 それにメリッサやイリス、ノエルまでいる。

 今まではシルビアの体調を慮って自重していた3人だったが、さすがに我慢できなくなってしまったらしい。


「いらっしゃい」


 気丈に振る舞うオリビアさんが出迎える。

 アイラとノエルに気付いた様子はなかったが、メリッサとイリスはオリビアさんの精神状態が不安定なことに気付いた。が、自分ではどうすることもできない事を察したらしく何も言って来ない。


「この子がアルフよ」

「で、こっちがソフィア」


 オリビアさんとシルビアが自分の抱える赤ん坊の名前を言う。

 名前に関しては暇な時間を見つけては一生懸命俺が考えた。


「ほら、シエラ。あなたの弟と妹よ」

「……」


 ジッと二人の事を見つめるシエラ。

 シエラが生まれた少し後に兄カラリスにも男の子が生まれた。正確にはシエラにとって従姉弟なのだが、義弟(おとうと)として扱っていた。


 が、目の前にいるアルフとソフィアは腹違いではあるもののシエラにとって父親が同じ弟と妹になる。

 その事が薄らと理解できているのか視線を外さない。


 アイラが抱えているシエラを動かしてアルフとソフィアの前まで交互に移動させる。


「弟、妹」


 今から姉としての自覚を持たせようとしているのかシエラにとってどういう存在なのか必死に言い聞かせている。

 それをシエラも真剣な表情で聞いている。


「おとーと」


 アルフを見つめながら、


「いもーと」


 ソフィアを見つめながら言う。


「そうそう、それで合っているの……ん?」


 抱えるアイラも自分の娘の異状に気付いた。


 この子、今何を言った?


 と言うよりも……


「もしかして喋った?」


 アイラも驚いている。

 これまで「うー」とか「あー」といった音で自分の感情を表現することはあったが、明確な意思を持った言葉を発したことは今まで一度もない。


「そんな……『お母さん』って最初に言わせるのを楽しみにしていたのに」


 アイラが項垂れる。

 母親が落ち込んでいる様子を見てシエラがペチペチと小さな手でアイラの体を叩いて慰めようとしている。


 ただ、アイラの気持ちも分かる。

 密かに俺も『お父さん』と呼ばれることを楽しみにしていた。


 それが最初に発した言葉が『弟』と『妹』だなんて……


「おとーと、いもーと」


 二人を見ながら明確に言葉を発している。

 ちゃんと自分にとってどういう存在なのか理解している。


「ええと……」


 戸惑いながらシルビアとオリビアさんが自分の抱えていた赤ん坊をベッドに寝かせる。


「うぅ……!」


 アイラの腕の中にいたシエラが二人の傍に行きたそうに手を伸ばしている。

 仕方なくアルフとソフィアの間に寝かせると二人の事を見てから自分も眠りに就いてしまった。


「こんな小さいのに姉としての自覚がある」


 生まれたばかりの小さな命を守ろうと必死なシエラ。

 頼れる姉が傍にいてアルフとソフィアも安心して眠っている。


 だから……


「そこ静かにしろ」


 なぜか部屋の入口でじゃんけんをしているメリッサ、イリス、ノエルの3人。

 一応、子供を気遣って静かにはしているものの騒がしくして欲しくない。


「一体、何をしているんだ?」

「決まっている。今までは保留にしていたけど、次は誰が子供を産むのか順番を決めている」

「親から催促されているのは私も同じです」

「わたしも赤ん坊を見ていたら欲しくなってしまって……」


 順番、というよりも妊娠時期が被らないよう調整していた眷属たち。

 シルビアが留守番をしている間は我慢していたが、出産したことによって不満が爆発してしまったらしい。


 ただ、3人ともなかなか勝負が決まらない。


「じゃあ、あたしも参加しようかな」


 じゃんけんに加わろうとするアイラ。


「アイラさんにはシエラがいるでしょう」


 至極尤もメリッサの意見。


「いやぁ、腹違いの弟と妹でさえこんなに可愛がるなら母親も同じ弟か妹を用意してあげたいって思うのが母親の正直な気持ちでしょう。そういう訳で長女の為に順番をあたしに譲りなさい」

「寝言は寝てから言って」

「少なくともわたしたち3人に順番を譲ってからよ」

「上等……! じゃんけんなんてまだるっこしい方法でケリをつけるのは止めましょう」


 迷宮へ【転移】で消える4人。

 いつものように地下57階へ行ったのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ