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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第25章 東方神生
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第22話 VS狩猟神―後―

 地下55階。

 砂漠フィールドなため見渡す限り砂の海が広がっているだけの場所。

 他の階層と同じように階層のどこかにある転移魔法陣で下の階へ行かなければならないのだが、砂漠フィールドの場合は運が悪いと砂の下に埋もれてしまっていることがあるため見つけるまでの難易度が跳ね上がっている。

 もっとも地下55階だけはボスがいるため見つけるのは比較的簡単ではある。ただし、強烈な日差しの降り注ぐ砂漠を彷徨い歩いた末にボスと戦わなければならないため倒すのも一筋縄ではいかない。


 そんな場所へアルサムを連れて来た。

 俺が欲していたのは砂しかない場所だ。


「ここは……」

「ここでもお前のスキルは使うことができるのか?」

「そういう事か」


 俺の問いには答えない。

 代わりにポケットから取り出した何かの種をばら撒く。


「おっと」


 巻き込まれる訳にはいかないため後ろへ跳ぶ。


 神気を受けたことで種が急激な成長を遂げて茎を上へ伸ばす。


 が、成長はそこまでだった。

 茎を伸ばした植物だったが、自らの重みに耐えることができずに砂の上に倒れてしまった。


 植物は、地中に根を張ることによって自らを支えている。

 しかし、この場にある砂では根を張ることができない。

 そのため植物は成長することができない。


「それだけじゃないさ」


 砂の上に倒れた植物だったが、数秒と経たずに枯れてしまった。

 まるで急激な衰退を見ているようだ。


「このフィールドにある砂には特殊な細工がしてあって砂の中に埋もれた物の水分を吸収する効果がある」


 初めは倒れた冒険者の死体の処理が目的だった。

 このような砂しかない場所では廃棄方法にも困ってしまったため都合のいい方法だった。


 この場所で植物は完全な成長を遂げられない。

 成長したとしてもすぐに枯れてしまう。


「ここでなら、お前のスキルを封じることができる」

「……!?」


 ようやく自分の力が封じられたことに気付いたのか驚いた表情をしている。


 だが、これで終わりではない。

 アルサムが残った攻撃手段である弓を構える。

 弓から矢が放たれる。

 だが、矢に先ほどまでの勢いがない。


「この場所で力を込められるはずがないよな」


 遅くなった矢を神剣で叩き落とす。


 弓から矢を放つ為には下半身をどっしりと構える必要がある。

 しかし、足元は砂地であるため弓矢を放てられるほどしっかりとはしていない。

 もっとも慣れれば放てるようになるだろうが、初めて砂漠を訪れたアルサムに砂上で矢を放つ技術があるはずもない。


 砂の上を駆ける。

 アルサムも鉈剣を構えて迎撃しようとする。

 植物と弓矢が使い物にならない状況では鉈剣による近接戦闘ぐらいしか選択肢がない。


 跳び上がり空中を蹴ってアルサムに襲い掛かる。

 アルサムも鉈剣で受け止める。

 上からの攻撃を受け止めた瞬間、体がグッと沈み込む。


「……!」


 しかし、下は砂地。

 踏ん張ることができず膝を突きそうになってしまう。


「耐えたか」


 神剣から風を発生させアルサムを吹き飛ばす。

 上からの攻撃には耐えることのできたアルサムだったが、突風までは防ぐことができずに吹き飛ばされてしまう。


「砂地の上で戦わない方がいいぞ」


 ゆっくりと立ち上がるアルサムに向けて言う。

 何も遮る物のない砂漠フィールドでは離れた場所であっても相手の姿をしっかりと認識することができる。


 俺とアルサムでは事前の条件が違う。

 お互いに砂の上では走り難いのは同じ。けれども、俺は砂漠フィールドで何度も砂の上を歩く訓練を行ったおかげで「走り難いかな?」程度に抑えられているだけで転倒するような事にはならない。


 それに最初から砂の上を走るつもりはない。

 砂の上を走っているように見えたとしても実際には小型の障壁を足元に張り、その上を走っている。空中を蹴ったのも砂の影響を受けないようにする為だ。


 それに環境的な問題も大きい。


「ハァ……ハァ……」

「どうした? 随分と息が荒くなっているぞ」


 いくら神の一部とはいえ、現世に降神したことによって人間と変わらない肉体を得たことになる。

 当然、疲れもするし、エネルギーの補給も必要になる。


 神気という特殊なエネルギーがあったからこそ耐えられていた。

 しかし、今のアルサムに神気は供給されていないし、降り注ぐ熱気のせいで体力を消耗し続けている。平気でいられるはずがない。


 アイラとイリスが集まって来る。

 マルセーヌやティシュアの護衛の為に残ったノエル、大魔法を使用したばかりで疲労しているメリッサには残ってもらった。


「ど、どういう事だ……?」

「そんなに神気が回復しない事が不思議か?」


 アルサムは回復しない神気に戸惑っていた。

 神の扱う神気は、自らを崇める信仰心によって得ることができる。元々アルサムが信仰されていたところに作物の急激な成長によって信仰が強くなった。そのおかげで膨大な神気が常に補給され続けていた。


「ウチには神気に敏感な奴がいるからお前に補給され続けていたのは知っている」


 神気に関してはノエルが見破った。

 そして、対抗策も彼女が考えてくれた。


「残念だったな。供給に関しては土地に根付いた物だ。だから、あの土地から離れれば供給もされない」


 実際には離れただけだと微々たるもの。

 しかし、ここは迷宮。外の世界とは空間的に隔離されているため神気が届くようなこともない。


「供給さえ断ってしまえば少量の神気しか持っていないお前なんて恐れる必要がない」


 アルサムは肉体にある神気だけで戦わなければならない。

 だが、いくら適性があったとはいえ不完全な状態での降神。その身に宿すことができた神気は微々たるものだった。だから、アルサムはその身に宿すことができなかった分の神気を容れ物に貯蔵しておく事にした。

 それが自らを祀っていた神殿だ。


 神殿と神気なら相性もいい。

 神殿の容量を超えてしまうと暴発してしまう可能性があったが、作物の急激な成長に神気を使っていたおかげで神殿の容量を超えることもなかった。


「迷宮へ連れて来る。それだけで、お前をここまで無力化できるなんて思っていなかったよ」

「くっ……!」


 アルサムが上へ跳ぶ。

 空中で静止すると弓を構える。

 神であるアルサムにとって空を飛ぶ程度の事は造作もない。空中に停止する為には神気を多大に使用することになるが、俺を倒して今の状況を打破しなければならないと判断して攻撃を優先させた。


 矢が放たれる。

 渾身の力が込められた矢は当たれば全身を吹き飛ばされる。


 人差し指をクイッと上へ動かす。

 膨大な量の砂が盛り上がり矢の前を塞ぐ。

 砂の中に埋もれる矢。

 砂に雁字搦めにされて圧し潰される。


「ここは俺の支配する空間だ。魔力は消費することになるけど、できない事なんて存在しない。お前が相手にする事になるのは、砂の海そのものを操る奴だ」


 迷宮まで引きずり込めば勝利したも同然だ。


砂蛇(サンドスネーク)


 アルサムの左右に砂で作られた二匹の蛇が姿を現す。

 蛇と言っても人よりも大きな胴体を持つ全長20メートルの大蛇。人なんて簡単に丸呑みにすることができる。

 ただし、砂蛇(サンドスネーク)に他者を丸呑みにするような機能はない。

 その身を構成する砂の中に取り込んで圧し潰すだけだ。


「覚悟はいいな」


 二匹の大蛇を操ってアルサムに襲い掛からせる。

 攻撃を回避してこちらから離れて行く。


「酷いわね……」

「一方的に嬲っているだけ、というか」

「黙っていろ」


 アイラとイリスから呆れた声が聞こえる。

 砂漠でアルサムは弓矢が使えない。だから鉈剣で攻撃するのだが、砂で構成されている砂蛇(サンドスネーク)が相手では砂が飛び散るだけでダメージはない。


「じゃあな」


 アルサムが襲い掛かって来た砂蛇(サンドスネーク)から逃れる為に後ろへ跳ぶ。


 だが、最初からそこへ誘導したかった。

 そこには3匹目の砂蛇(サンドスネーク)を潜ませている。


「……!」


 足元から飛び出してきた砂蛇(サンドスネーク)

 逃れることもできずに口の中へ放り込まれてしまう。

 奪い合うように二匹の砂蛇(サンドスネーク)がアルサムを呑み込んだ砂蛇(サンドスネーク)に体当たりをする。体当たりをした砂蛇(サンドスネーク)だったが、体当たりをした瞬間にただの砂になって呑み込んだ砂蛇(サンドスネーク)に取り込まれてしまう。


「大量の砂に圧し潰されて死にな」


 丸呑みにした砂蛇(サンドスネーク)も弾ける。

 3匹分の砂が球体を形作り、アルサムが閉じ込められている。


 やがて、球体も崩壊して砂漠に落ちる。

 そこには神像の欠片と思われる物体があるだけで誰もいなかった。


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