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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第25章 東方神生
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第17話 アルサムの神殿

 狩猟神アルサムを祀った神殿。

 神殿そのものは、都市の至る所にある。

 しかし、エストア神国の首都であるエレンテには総本殿が存在する。


 首都の中心に作られた総本殿。


「うわ、結構な人がいるな」


 思わず零してしまった。

 総本殿の前には何十人という人が列を成していた。列を作っているのは、狩猟神の神殿なのだから狩人が中心的かと思えば、都市で普通に生活していると思われる一般人も含まれている。


「たしかに昔は狩猟神に祈りを捧げるとその日の成果が良くなる、なんていう噂があったから信仰にはあまり熱心じゃないはずの狩人が多く列を作っていたとは聞いていたかな」


 近隣国の『巫女』だったノエルには最低限の情報ぐらいは伝わっていた。

 彼女の話によると、やはり狩人から人気の高い狩猟神。それでも狩人だけに信仰されている、という訳ではない。

 エストア神国に多くの富を齎したことから一般人にも人気だった。

 それでも普段から神殿に赴いて祈りを捧げるほどの信仰心ではなかった。


「それだけ今の状況が信仰に繋がっている、という事でしょ」


 アルサムに祈れば多くの作物が手に入る。

 農夫でない人たちも少しばかりでいいから恩恵に授かろうと祈る。


「神っていうのはそういう存在じゃないんだけどね」


 思わず溜息を吐いてしまっている。

 たしかに救われたい想いから信仰を捧げている。

 けれども、救いは二次的な物であって救われる為に信仰を捧げるべきではないと考えている。

 まあ、神様自身が気にしていないなら問題ない。


 俺たちも列に並んで神殿の中に入る。


「おい、寄付金が必要なのか?」


 今まさに神殿へ入ろうとしていた人が聖職者に金を渡していた。


「……神殿も慈善事業じゃないからね」


 目を逸らしながら言うノエル。

 ノエル自身は『巫女』という立場だったため直接寄付金を貰ったことはないが、それでも貰った寄付金で生活する立場だったため寄付金を渡すことに対して否定的な事を強く言えない。


 寄付金は一種の気持ちでしかない。

 僅かばかりの気持ちとして銀貨1枚をシスターに渡した。


「こ、こんなに……!」

「いいんですよ。これから迷惑を掛けるかもしれませんから」

「あの、それはどういう……」


 銀貨を渡されたシスターが困惑している。


 こんな場所で詳しく説明する訳にもいかないため神殿の奥へ向かう。

 神殿の一番奥には祭壇があり、男性と思われる大きな像が置かれていた。おそらく、あの男性が神殿で祀っているアルサムだろう。

 祭壇の前では両手を合わせて一心不乱に祈りを捧げている人の姿がある。


 そこまでの信仰心がある訳ではない。

 むしろ、これからやろうとしている事を考えれば神の敵に等しいため祈るのはどうかと思う。


「さすがに神殿まで来て祈らずに帰るのは……」


 耳元でノエルが囁く。

 至近距離まで近付いたことで彼女のサラサラな髪の感触と吐息が伝わって来る。


「……っ!」


 ノエルの方も理解したらしく顔が真っ赤になっている。

 俯いて表情は見えないが、獣耳と尻尾が正直にピクピク動いている。これはノエルの癖みたいなもので意識しても治せないらしい。


「神様の御前で何をしているの?」


 イリスから注意とジト目が向けられる。

 たしかに彼女が言うように神聖な場所でそういう事をするべきではない。

 祈りを捧げている人々に倣って祭壇の前で膝を突くと祈りを捧げる。


「これで合っているのか?」


 初めての祈り。

 見様見真似でやってしまったので合っているのかどうか分からない。

 デイトン村には、祀っている神様などいなければ神殿や教会すらもなかったため祈りを捧げるのは初めてだ。まだ『巫女』だった頃のノエルを護衛する為に神殿には出入りしていたけど、あの時は仕事だったから祈りを捧げるようなことはしていなかった。


 と、俺の呟きが聞こえたのか後ろからクスクスと笑う声が聞こえる。


「大丈夫ですよ。祈りを捧げる為に最も必要な神への感謝の心です。その心を忘れていなければ作法など問題ありません」


 むしろ、その心の方が問題だったりする。

 狩猟神アルサムに対して信仰心など欠片も持ち合わせていないため祈っている最中は眷属や家族の無病息災を祈らせてもらった……絶対に狩猟神に祈るような内容ではない。


「ありがとうございます」


 とはいえ、お礼を言う。

 振り向くと後ろには法衣を着た女性が立っていた。


「あっ……」


 女性の顔を見たノエルが思わず呟いてしまった。

 ここで何も知らない振りをすれば人違いで押し通すことができたかもしれない。しかし、既に気付かれてしまった。


「もしかして……」


 そして、頭の上から猫耳の生えた女性も気付いたみたいだ。


「『巫女』様でいらっしゃいますか!?」


 女性――マルセーヌが大きな声を上げて驚く。

 まるで幽霊でも見たような……いや、マルセーヌにとっては死んだと思っていた相手なのだからそんな表情になってしまうのも頷ける。


 マルセーヌ。

 以前はメンフィス王国で『巫女』をしていたノエルの補佐を行う巫女で、神託通りにノエルが死んだ場合において次の『巫女』として目されていた内の一人だ。実力はあるのだが、父親が金持ちだったため教会に賄賂を流して次の『巫女』になれるよう手を回していた。その事実を知っているが故に俺たちの印象は良くない。


 そんな彼女がどうしてこんな所にいるのか?


 そして、非常にマズいことになった。


「生きていらしたんですね」

「うん……」


 気まずい空気が流れる。

 『巫女』は表向き死んだことになっている。その『巫女』が生きていたと知られれば面倒なことになる。


「安心して下さい。私は『巫女』様が本当は生きていたなんていう事を言い触らすような真似をしませんから……もっとも私のような者が言ったところで説得力などありませんよね」


 自責の念からマルセーヌの表情が暗くなる。

 聖職者なので質素な格好をしているが、可愛らしい顔をしているため落ち込ませてしまうと罪悪感が酷い。


「おい、どういう事だ……?」

「マルセーヌさんが泣いているぞ」

「……あいつら何者だ?」


 俯いたマルセーヌは泣いているようにも見える。

 そんな姿を見せられた祈りを捧げていた信者たちから咎めるような視線が向けられる。


「とりあえず落ち着きましょ」

「いえ、『巫女』様は私の事を咎めに来たんですよね」

「どういう……」


 その姿はノエルにマルセーヌが責められているように見える。

 この神殿にいるマルセーヌは、狩猟神アルサムの信者から慕われているようで責めているノエルの事を睨み付けていた。


「うっ……」


 不特定多数の人から睨まれる。

 その光景はノエルのトラウマになってしまっているメンフィス王国の人々から向けられていた憎悪を思い出させるには十分だった。


「と、とりあえず場所を移そう!」



 ☆ ☆ ☆



 今にも泣き出しそうなノエルとマルセーヌを連れて近くにあったレストランに入る。昼食には早い時間なので飲み物を注文する。今は美味しい物でも飲んで気分転換をした方がいい。

 マルセーヌが運ばれて来たジュースに手を付ける。彼女も彼女で緊張状態だったため水分を欲していた。


「それで、咎めるっていうのはどういう事なのですか?」


 メリッサが優しく、それでいて問い詰めるような気持ちを込めて問う。

 その言葉にマルセーヌがビクッと反応している。

 本来ならノエルが聞くべき事なのだろうが、今のノエルはトラウマを再発させてしまっているので尋問ができるような状態ではない。


「……私がいけなかったんです。神罰を受けた私は、巫女であったにもかかわらず老いた体を隠すようにメンフィス王国を捨ててエストア神国へ来てしまいました。その旅の過程で思うように体が動かず疲れていたとはいえ、あのような愚かな行為をしてしまうなんて――」


 マルセーヌがジュースを一気に飲み干し、コップをテーブルの上に大きな音を立てて置く。


「それは?」

「――神の降臨です」


マルセーヌ登場話数

第19章18話

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