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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第25章 東方神生
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第16話 首都エレンテ

 エストア神国の首都――エレンテ。

 街の入口近くにある店に馬車を預ける。盗まれる可能性が全くない訳ではないがこういう商売は信用が第一になっているため店側が自らトラブルを起こすような真似はしない。


 首都の大通りを歩く。

 エストア神国は、緑豊かな国で首都の中であっても大通りの中央に木々が並んで植えられている。それらが往来の方向を定めることになっていて人々の歩みが整理されている。


「随分と活気に溢れていますね」

「俺はもちろん来たことがないけど、ここに来たことがある奴はいるか?」

「ははっ、わたしはすぐ近くの国にいたけど、神殿からほとんど出たことがなかったから来たことはないかな」

「私もさすがにエストア神国まで来たことはない」


 そうだよな。

 ノエルもイリスもさすがにエストア神国まで来たことはない。


 境遇や距離もそうだが、最大の理由は立地にある。東を海、南を山、北を森に囲まれているエストア神国は言わば行き止まりに等しい。


 そんな場所だが、気候が安定しているという利点があるおかげで農業には適している。だが、平原が少ないために開拓が難しい土地になっている。

 そういった理由によって外から訪れる人は少ない。

 外からの助けに頼ることができない現地の人たちは神に縋った。


「この国って何が有名なんだろうな」

「やっぱりアレかな?」


 イリスが指差す先には串焼きの露店があった。

 海で獲れたばかりの魚に串を差して焼いていた。

 他にも肉や野菜を使った串焼きが目立つ。


「この国って獣や魔物が多くいるけど、火属性の魔石はけっこう簡単に手に入るらしいからああいう串焼きが多いの」

「へぇ」


 屋台では細長い魚が焼かれている。

 せっかくなので全員分購入する。


「……ちょっと独特な歯応えだけど美味いな」

「私はこれ好きかも」


 イリスにも気に入られたみたいだ。

 他にも食欲を誘う食べ物が売られているが、今は冒険者ギルドへ向かうのが先だ。


「ようこそ、冒険者ギルドへ」


 いつもの定型文で正面にいた受付嬢が迎え入れてくれる。

 そして、同時に向けられる冒険者からの視線。まあ、女性冒険者を4人も連れていれば注目を集めてしまうのも仕方ない。


 なるべく目立たないよう端の方にいる受付嬢の前へ行く。


「どうしましたか?」

「実は、依頼で来たんですけど情報が欲しいんです」

「魔物の情報等でしたら奥にある資料室で閲覧することが可能になっています」


 冒険者と言えば魔物を狩る存在。

 初めて訪れた土地で魔物の情報を求めていると勘違いされてしまった。


「いえ、こちらが知りたいのはレジュラス商業国から来た冒険者たちに関する情報です」

「……! 何者ですか?」


 冒険者になるには過去の経歴などは詳しく聞かれない。実力さえ成り上がれるのが冒険者だ。

 だが、過去の経歴は気にしなくても冒険者になって以降の情報に関しては徹底的に秘匿される。たとえ国からの命令であろうとも国を揺るがすような問題でも発生していない限り情報を漏らすようなことをしない。


 けれども、今回は事情が違う。


「レジュラス商業国、商業組合の副会長から依頼を受けてこの国で起こっている問題の調査に来ました。解決する為にも以前にこの国へ調査に赴いた魔法使いを探しています」


 スッとゲイツさんからもらった依頼書とノエル以外の全員が冒険者カードを出す。

 これで俺が依頼を受けたのは間違いなくなる。何よりも冒険者カードに記載されている『Aランク冒険者』という言葉が受付嬢に衝撃を与えた。


「しょ、少々お待ちください……!」


 慌てた様子で受付の奥へと引っ込んで行く。

 奥にいる上司と相談している。が、相談された方の上司は落ち着いた様子で手元にあったいくつかの資料を渡している。どうやら上司の方は近い内に俺たちみたいな存在がギルドに来ることを見越していたらしい。


「し、失礼しました! 普段ならば冒険者だけでなく依頼人にも関わって来るためお見せするような事はないのですが、Aランク冒険者5人からの要請ということで特別に許可させていただきました」


 Aランク冒険者5人と言っても全員が同じパーティに所属している。本来なら複数の高ランクパーティからの要請になるため冒険者ギルドとしても頷かずにはいられない。とはいえ、条件を満たしているため情報を開示してもらえた。


 資料に関してはメリッサに渡す。メリッサの方が記憶力はいいし、彼女が見た物は迷宮核(ダンジョンコア)が記録を取ってくれているため後から確認することができる。


「……誰も首都へ到達していない?」


 資料を確認していたメリッサが呟いた。


「はい。調査に赴いた魔法使いの方々がエストア神国へ入国したことは確認しております。ですが、その後の足取りは国境に一番近い街にあるギルドで確認されたのが最も短く、長い方でも3つ先の街までです」


 街に立ち寄って有益な情報がないか確認する為に冒険者ギルドへ赴いた。その時に記録が残るため誰がどこの街まで到達したのかは分かっている。

 しかし、その後の足取りがバッタリと途絶えてしまっている。

 これでは、彼らの足跡を辿るという方法が使えない。


「最近、エストア神国で変わった事がありませんでしたか?」

「変わった事、ですか? そう言われましても……今年は、農作物の異常以外に目立ったことはありませんよ」

「そう、ですか……」

「まったく困ったものです」


 困った?


「農作物が異常に成長する影響なのか魔物も急激に成長するようになったんです」


 魔物の発生には2パターンある。


 一つは、既にいる魔物の番から成長によって増えるパターン。幼体が元になった動物などと同じ方法によって生み出される。

 もう一つは、瘴気によって何もないところから生まれる。その場合でも最初から強い成長した個体という訳ではなく、幼い状態で生み出されるのがほとんどだ。


 そのため魔物でも肉や野菜を摂取することによって魔力を取り込み成長する必要がある。

 普通の獣と同じように成体になるには時間が掛かる。


「それは厄介ですね」


 強力な魔物だった場合には成体になるまでの間に冒険者が討伐を行わなければならないのだが、成長するまでの時間が短いと討伐が間に合わなくなってしまう。


「ええ、今年は冒険者の方々に負担を強いてしまって困っています」


 危険な魔物が出るため商人にも冒険者から護衛を付けなければならない。

 レジュラス商業国へ行く商人が多くなればなるほど護衛に人手を取られてしまって少ない人数の冒険者で魔物に対処しなければならなくなる。


「そう言えば、ギルドにいる人数も少ないですね。エレンテでは、これが普通なんですか?」

「そんな事はありません」


 冒険者ギルドにいる冒険者の人数は10人ほど。

 今が外で冒険者が活動している時間だったとしても資料の確認や時間を問わない依頼の為に人数がいてもおかしくない。

 エレンテへ辿り着くまでの間に立ち寄った街にもギルドはあったが、首都を真っ直ぐ目指していたためギルドに立ち寄ることはしなかった。


「今はレジュラス商業国との取引が大切だとかいう理由で国境付近に人が取られているんです」


 安全な販路を確保する為に魔物退治で首都にいた冒険者も取られている。

 行政の援助金もあって報酬が通常よりも跳ね上がっているため多くの冒険者が向かってしまっている。


「おかげで、こちらは魔物が増えてしまっているんです」


 今の人数でもギリギリ対処できている。

 元々、魔物の発生が少ない場所に首都は作られているため非常事態という訳でもないらしい。


「分かりました。貴重な情報をありがとうございました」


 首都まで来たが失敗だったかもしれない。


「いいえ、そんな事はありません」


 資料を確認していたメリッサが否定する。


「この資料ですが、情報が集まる首都のギルドだからこそあった物です。もしも、他の街で要請した場合には、その街で起こった事件しか知ることができませんでした」

「と言うことは……」

「ええ、少しですが分かったことがあります。ですが、件の現場へ行く前に神殿へ寄ってみることにしましょう」

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