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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第4章 奴隷少女
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第17話 自白

 屋敷の中から警備の兵士をぞろぞろと引き連れてきたボーバン準男爵だが、出てきた兵士の数は3人。騒ぎが起こっている間に屋敷から出てきた兵士が4人。門番だった男性を含めても8人しかいない。

 え、貴族の屋敷なのにたったそれだけの兵士しかいないの?


「お前たち、何をしている!?」


 動かない兵士4人に対して声を上げるボーバン準男爵。


 屋敷の中から連れてきた兵士は動こうとしていたが、先に出てきていた4人の兵士が動こうとしなかったので、動けずにいる。


 半数の兵士が動けずにいるのは単純だ。主人であるボーバン準男爵が護衛として高い金を払ってまで雇った凄腕の暗殺者があっという間に倒されたことから自分たちでは戦いにすらならないと判断してしまった。


 いくら兵士として雇われているとはいえ、自分の命は惜しい。


「ええい、お前たちだけでも行け!」


 屋敷の中にいてシルビアの戦いなど見ていない4人の兵士が庭を駆ける。


「まったく、馬鹿な連中だ」


 ステータスを全開にして庭の中を駆ける。行き先は、向かってきた兵士たちではなく、護衛が離れたことによりがら空きとなったボーバン準男爵の背後だ。襲撃中に自分から護衛を外すなんて馬鹿のすることだ。


「動くな」

「ひっ」


 後ろから首元にナイフを持った手を回して静かに告げる。


 急に凶器を突き付けられたボーバン準男爵は小さく呻くだけで何もできない。こいつは、親の功績にすがるだけで大したことのできない傲慢な貴族だからな。戦闘能力など大したことがないどころか、ないものと考えていいだろう。


「お、お前たち!」


 それでも兵士に助けるよう指示するぐらいの力はあったらしい。

 ただ、この状況になってしまった段階でチェックメイトだ。


「全員動くな! 動いた瞬間にこいつの首を斬り落とすぞ」

「う、動くんじゃないぞ!」


 俺の言葉を受けて兵士の全員がその場で固まる。

 これで、ゆっくりと話ができる。


「も、目的は、なん、何だ?」

「3つ聞きたいことがあるだけだ」

「聞きたいことだと!? 金ではないのか……」


 オークの死体を欲しがるほど落ちぶれた家から得られる金貨など微々たるものだろう。


「俺の質問に正直に答えてくれたならあんたは解放してやる。ただし、1つでも嘘を吐いたなら……」

「わ、分かっている。正直に答えよう!」


 自分の命が懸かっているから焦っている。


「フレブル前子爵を殺害した犯人だけど、そこに転がっている暗殺者デイビスの犯行で間違いないか?」

「ああ、そうだ」

「暗殺者デイビスを雇って、フレブル前子爵を殺害するように指示を出したのは?」

「……私だ」


 認めたくないのか奥歯を噛みしめながら答えてくれた。

 怒りたいのはこっちだっての。


「どうして、そんなことをしたんだ?」

「全てはフレブル家が悪いのだ。奴ら、前当主が国王陛下の友だからと言って大きな顔をしやがって、おまけに私の領地と同じようなことをしているせいで、こっちは売れるはずの物が全く売れないではないか!」


 こいつは何を言っているんだ?


「私たちが苦しい思いをしているのも全ては奴が悪い!」


 村長たちと同じだ。

 親に甘やかされて育てられた子供が癇癪を起しているだけだ。

 そして、親が貴族だったせいで暗殺者を雇ったりできるだけに尚悪い。


「どうして、宝石を盗むよう依頼した冒険者まで殺した?」

「ふん。冒険者如きに金貨30枚も払ってやる義理などないわ。むしろ私のような尊い存在の為に仕事をして死ねたことを本望に思って欲しいところだ。それなのに奴め、逃げ出してこちらに要らぬ手間まで掛けおって! おかげで、また王都に戻って来ることになってしまったではないか」


 質問に4つも答えてくれたが、もういい。


「あなたたちもフレブル子爵家が悪いと本気で思っていますか?」


 主を助けようとチャンスを窺っていた兵士たちに尋ねる。

 ボーバン準男爵のわがままっぷりは領民の間でも有名で、彼らも今回の一件がおっさんになった子供の癇癪だということは理解している。それでも自分たちの住む領地の主であるだけに肯定するわけにはいかない。


「……ボーバン準男爵は素晴らしいお方だ。そのお方の下された決定に我々も従うだけだ」


 人の好さそうな門番さんが代表して答えてくれた。


「それを領民全員の意思と判断していいですね?」

「……もちろんだ。君の質問には答えたのだから、主を解放してくれないだろうか?」

「もちろんいいですよ」


 ボーバン準男爵の首元からナイフを外して解放する。


 解放されたことに安心してホッと一息ついているところへ『迷宮魔法:麻痺(パラライズ)』を浴びせる。

 これは、デイビスを拘束する為に使用した麻痺毒の素となった物よりも強力な毒で、すぐに解除する為には最高級品の回復薬を使用する必要がある。だが、落ち目のボーバン準男爵家にはそんな回復薬があるはずもなく、時間経過によって回復するのを待つしかない。


「俺たちが無事に逃げ出せるように麻痺させていただきました。安心して下さい。麻痺していたことによる後遺症もないですし、明日の昼過ぎには回復するはずです」

「分かった。信じよう」


 麻痺の恐怖からボーバン準男爵は既に気絶してしまったらしく、わずかな反応すら見せない。

 準男爵家の面々をその場に置いて暗殺者デイビスを担いで回収すると宿のある街へと戻ることにする。




 ☆ ☆ ☆




 宿に戻ると担いでいるデイビスの姿を幻術で見えないようにして部屋に運び込み、クローゼットの中に閉じ込める。麻痺が効いているので、ボーバン準男爵と同様に明日の昼過ぎまでは動けないはずだが、暗殺者ということもあるので朝には動けるようになっているかもしれない。ま、その時には別の方法で動けなくするだけだ。


 その後、色々とあって疲れていた俺たちは泥のように眠った。

 窓から差し込んでくる朝陽が眩しい。


「もう、朝か……」


 体力的には全く問題なかったのだが、シルビアとの間にあった色々なことが俺に精神的な疲労を蓄積させていた。

 キスすらしたことがなかった身としては、契約時のキスは色々と刺激が強すぎです。


 そして、そのシルビアは今、横になっている俺の腕の中で安らかに眠っている。一応、注意しておくと2人とも服は着ている。ただし、俺は収納リングに入れて持ってきた就寝時用の薄着を着ているし、シルビアには母へのお土産として購入した寝間着を貸している。

 大きさはそこまで問題ではなかったのだが、胸が少しだけ苦しいと貸した初日の日に言われた。せっかく交易の盛んな王都にいるんだから後で買ってあげようかな。


 これから一生の付き合いになるんだし、寝間着をプレゼントするぐらいは問題ない。


「父さん……」


 俺の背中に手を回して胸に顔を埋めているシルビアの目は涙で濡れていた。

 やっぱり父親を亡くしたばかりで心細いのだろう。

 いくらステータスが強化されたといっても心まで強くなったわけではない。甘えられる相手が必要だというのなら胸を貸すぐらいで安心するというのならいくらでも貸そう。


 だが、そんなゆっくりとした時間は突然終わる。

 シルビアが眠そうにしながらも目を開いて自分がどんな体勢でいるのかを確認して目を見開くと、俺から離れる。


 ちょっと寂しいと思ってしまった。


「ご、ごめんなさい。わたし……」

「いや、気にする必要なんてないよ」


 実際、女の子と密着して寝られたおかげで俺にとっては役得だった。


「いえ、今のような行為は主人に仕える眷属として相応しくありません」


 キッパリと言い切ると眼も醒めたのか部屋の隅の方へと行って着替える。

 そういう目的でも使用されることのある部屋なので着替える為の仕切りなどない。


 それよりもちょっと気になっていたことがあったので着替えているシルビアに背を向けながら尋ねる。


「そういえば少し前から敬語になっているけど、眷属だからって気にする必要はないぞ」


 俺自身あまりそういうことを気にしない。

 その辺り、迷宮主よりも村人だった頃の感覚が残っているのかもしれない。


「いえ、主に仕える者として言葉遣いあたりから改めていきたいと思います」

「でも……」


 気にしなくていい、と伝えようとする俺の背に昨日渡した冒険者風の服に着替えたシルビアが抱き付いてくる。


「眷属になって分かったことがあります。この契約は、どんなことがあろうと決して破棄されることのない契約です。だからわたしは生涯を共にしなくてはなりません。いずれ、一緒にいるのが自然になった時は、言葉遣いも改まっているかもしれませんが、今は眷属として傍にいさせて下さい」


 彼女も彼女なりに考えていたということだろう。


「分かった。契約を解除することはできないんだし、好きにするといいよ」

「はい!」


 満面の笑顔を浮かべているシルビアを置いてクローゼットにある着替えを取り出そうとするが、シルビアが俺の着替えを差し出してきた。

 いつの間に用意した。


「ありがとう」


 服を着替えてコートに袖を通そうとするとシルビアが手伝ってくれる。その後、服の状態までチェックしてくれる。

 これでは、眷属というよりはメイドではないか?


「さて、今日は忙しいのですから朝食を食べたら早速行動に移りますよ」

「分かっているよ」


 ボーバン準男爵には反省してもらうことにしようか。反省できればいいけど。


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