第12話 商業国家からの追跡者
宿の部屋にフレディさんを呼ぶ。
リーダーである彼に話を通しておけば問題ない。
「で、副会長さんとやらの依頼を受けるつもりなのか?」
「はい。フレディさんを信頼して言いますけど、そもそも俺たちはエステア神国へ行く為に今回の依頼を用意しましたから」
「……分かった」
眉間に皺を寄せながらもフレディさんは頷いてくれた。
俺たちが一時的とはいえ離脱するということはウィリアムの護衛はフレディさんたちのパーティだけで行うということになる。
その負担を考えると残って欲しい、と思っている。
ただ、すぐにある事を思い出して了承してくれた。
「護衛依頼を受けた冒険者が護衛対象を放って他の依頼を引き受けるな、そう言いたいところだけど、お前たちには借りがあるからな」
以前、家族旅行に向かった際に護衛依頼を今回と同じように引き受けた。
けれども、グリーソン一家に狙われていながらフレディさんたちのパーティはあまり活躍することができなかった。まあ、俺たちがアルケイン家の傍を離れている間の護衛とかをきちんとしてくれていたからこちらは貸しだとは思っていない。
だけど、フレディさんたちにもベテラン冒険者の意地がある。
いつかは返そうと思っていた借り。
ここで返してもらおう。
「お願いします。ただ、こちらも無責任なまま終わらせるつもりはありません」
水晶の付いた指輪を渡す。
「これは?」
「迷宮の下層で手に入れた魔法道具の指輪です。あらかじめ指定した場所へ使用者と触れている人たちを連れて転移してくれる効果があります。転移先は、万が一の事があった時に備えて俺たちの屋敷に設定してあります。非常事態が起こった場合にはこれを使って避難して下さい」
「へぇ、下層の宝箱だとこんな物まで手に入るのか」
勘違いである。
指輪には【迷宮魔法:転移】の効果が込められているものの自分たちで作った物なので宝箱から出て来た訳ではない。
とはいえ一言も宝箱から手に入れたとは言っていない。
勘違いをしてしまったのはフレディさんの方だ。
この指輪が手元にあるだけでウィリアムの生存率は一気に上がる。
「こっちは任せました。明日の朝には出発するつもりです」
「おう、任せとけ」
☆ ☆ ☆
翌朝、レジェンスの街を出て東へと向かう。
移動手段は急遽レジェンスで借りた馬車だ。
移動時間だけを考えるなら自分たちの足で走った方が速いのだが、目立った行動を控えなければならない理由がある。
「ついて来ているか?」
「ええ」
メリッサが頷く。
レジェンスの中にいた頃から何者かの視線を感じていた。
そして、都市を出て人の少なくなった街道へ出たことで監視者の存在はさらに強く感じられるようになった。
シルビアから借りた【探知】。
メリッサの【魔力感知】。
両方のスキルで反応があるのだから間違いない。
「向こうは商人。利に聡くなるため情報には敏感。けど、そんな人たちでも私たちに関する情報を集めることはできなかった。人は未知に対して恐怖を抱く。私たちの力の秘密を少しでも知りたいと思っても仕方ない」
「またかよ……」
イリスの指摘に思わず溜息を吐いてしまう。
新しい場所へ赴けば俺たちの持つ力の正体について知りたい者と遭遇する。
相手が個人であれば自分の力にしたい。組織だった場合には自分の組織の構成員にも同じ事を与えたい。そのように考えてもおかしくない。
こちらにとっては迷惑以外の何物でもない。
「どうするべきだと思う?」
「選択肢なんて一つしかないでしょ」
「そうだな」
アイラの言う通り選択肢は一つしかない。
放置などできない。
何があるのか分からない。おまけに謎の迷宮主が裏にいた場合には状況次第では全力を出す必要が出て来るかもしれない。
そんな状況を他人に見られる訳にはいかない。
彼らには国境を越える前に退場してもらう。
「人数は……一人、二人、三人……いや、四人だな」
街道を走る場所。
当然、後ろにも同じようにエステア神国へ向けて移動する者がいる。その馬車の中から一見すると前を見ているだけのように見えるが、こちらを監視するように見ている者が二人。
馬車のさらに後ろの方で走っている冒険者風の男。馬車に置いて行かれないよう貧相な装備で必死に走っている姿は節約を心掛けているように見えるが、彼の役割は馬車の中から監視している二人に何かがあった時に救援として駆け付ける、もしくは逃げ帰って少しでも多くの情報を持ち帰る事だ。
そして、目には映っていないが何者かの気配を馬車の近くに感じる。
「じゃ、行って来る」
「わたしたちがやろうか?」
「いや、いいよ」
相手は人間だ。
彼女たちには人を殺める事は極力避けてもらいたい。
椅子から立ち上がると後ろを振り向く。
御者をしていた一人と目が合う。
「え……?」
その男も俺と視線が合うとは考えていなかったのか驚いたものの自然な動作で手を振っている。とはいえ、表情がぎこちないので怪しい。
こいつはそのままでもいいだろう。
俺たちに気付かれている事を知ったことで馬車の中から監視していた奴の警戒心が上がった。
「【跳躍】」
「……!」
視界内ならばどこへでも一瞬で移動できる【跳躍】を使用して馬車の中へと移動する。
男も馬車の中に忽然と現れた気配に気付いて振り向こうとする。
そのまま流れる動作で腰に差していた剣を抜こうとする。
が……
「悲しいかな実力差があり過ぎる」
剣を抜く前に男の首が飛んでしまった。
「何も……!」
「何者!?」と叫ぼうとしていた御者をしていた男を後ろに惨状に気付かせることなく胸に剣を突き刺して静かにさせる。
御者を失っても馬車は走り続ける。
馬車の後ろから顔だけ出して走っている冒険者の姿を見る。
どれだけの惨状になっているのか気付いた様子はない。
『アイラ御者を頼む』
『分かった』
俺たちが使っている馬車の御者はイリスがしている。
残ったメンバーの中で御者ができるのはアイラぐらいしかいないので彼女に御者のいなくなった馬車を頼む。
馬車の後ろを走っていた奴はいい。
問題は――
『俺は姿を消して確認していた奴をどうにかしてくる』
どうやら馬車の中で起こった惨状に気付いたらしく冒険者の男を放置して逃げ出していた。いや、3人目を囮にして自分は遠くへ逃げるつもりだ。姿を消している自分は見つかっていないと思っているのだろう。
相手の位置は【探知】頼りだ。あまりに離れてしまうと位置が分からなくなってしまう可能性が高い。
姿を消していた相手の頭上へ跳ぶ。
「ぐふっ」
そのまま上から踏み潰してやると動けなくなってしまった。
「な、何だ……?」
「さて、お前たちには聞きたいことがある。だから生かしてやったんだ」
風を起こして馬車の幌を動かす。
「……!」
冒険者風の男も馬車の中がどのようになっているのか見えた。
馬車の後ろからノエルが下りて来る。
これで前後を塞がれてしまったことになる。
「お前たちは何者だ? 誰に雇われたんだ?」
レジェンスから来たのは間違いない。
しかし、今のレジェンスでは会長と副会長によって二つの派閥ができあがっている。
男たちがどちらの派閥に雇われた者なのかによって今後の対応が変わって来る。
「……ギブソン副会長に雇われた冒険者だ」
「なるほど。そっちだったか」
依頼を出しておきながら信用していなかった。
冒険者にとって自分のスキルは貴重な命綱と言える。それを暴くのは……暴こうとする行為自体が禁忌とされている。そのルールは依頼を出した者だったとしても変わらない。
商人ならばその程度の事は知っていなければならない。
だが、結局は好奇心に負けてしまった。
「依頼が終わったら相当の報いが必要になるな」
「ま、待ってくれ……!」
「ん?」
「たしかに俺はギブソン副会長から依頼を受けた。けど、依頼の内容はあんたたちのサポートだ。急な依頼だったから準備が整っていなくて俺だけが先行したんだ。けど、すぐに仲間も合流する予定になっている」
「そいつらは……?」
既に事切れた連中と気絶している奴を見ながら言う。
こいつらも男にとっての仲間になるはずだ。
「し、知らない……俺の仲間じゃない」
勝手に仲間だと思い込んでいた3人を見ながら困惑したように否定する。
どうやら副会長の思惑とは別の意思が働いていたみたいだ。
そうなると気絶している奴からも事情を聞く必要がありそうだ。




