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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第25章 東方神生
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第9話 追い出し

 翌日、ウィリアムが市場に食料品が必要以上に出回っている理由を調べに出掛ける。

 他のアルケイン商会の従者たちは、店舗として使えるような建物を借りに出掛けるため単独行動だ。

 従者たちの仕事は商売だが、ウィリアムはレジェンスでノウハウを学ぶのが仕事だ。

 本来なら商業組合の手も借りて傍で色々と学ばせて欲しいところなのだが、既にそれはできない状況になっている。


「俺たちだけで本当によかったのか?」

「必要以上に護衛を連れても街中では動き難くなるだけだ。一人を守るだけなら2、3人もいれば十分だ」


 ウィリアムの護衛に就いているのは俺とメリッサのみ。

 魔法使いであるメリッサを派手に戦わせる訳にはいかないので実際に襲われるようなことになれば俺が戦うしかない。


 宿から近い場所にある干物店に入る。

 そこでも相場より低くなった値段で売られていた。


「値崩れを起こしている理由は簡単だ」


 需要以上の在庫を抱えてしまったために売りたい。

 しかし、人々もそこまでの品を求めている訳ではないので相場通りに売ってしまうと売れない。

 そこで、相場よりも安くして売ろうとする。

 そんな事が続いているせいで安くなり続けている。


「う~ん。在庫を抱えなければいい話なんじゃないかな?」


 ウィリアムからの説明を聞きながら頭を抱える。

 いつまでもなくならない在庫。安くしてまで売っているのだから在庫はとっくに消費していてもいいはずだ。


「そこに悪循環が続いている理由がある。僕たちが調べないといけないのはその理由の方だ」


 それよりも調べないといけない事がある。

 レジュラス商業国で扱われている品物についてだ。

 本来ならそういう事を調べる為に訪れている。


 小麦粉を固焼きしたお菓子をカウンターへ持って行く。先ほどから観光客が買って行くのを見ていたが、近くにある厨房で作られたお菓子でお土産として親しまれていた。

 これも加工に手間が掛かっているものの1枚で銅貨1枚という値段になっていた。このまま続けていると複数枚で銅貨1枚になるのは時間の問題だった。


「これを貰おう」


 お菓子を10枚。

 銅貨を10枚取り出す。


「へい、しめて銀貨1枚です」

「……おかしいな」


 銀貨1枚=銅貨100枚。

 どういう訳か値段が10倍になっていた。


「おかしいですか? これが適正価格ですよ」

「そんなはずがない!」


 ドンッ、とカウンターを叩く。

 とはいえ、店主の言葉も間違っている訳ではない。


「残念ですけど間違っている訳ではありません。ウチは材料を吟味させたうえ、手間暇かけて作っているんだ。これぐらいの値段はしますよ」

「それは値崩れする前の話だろ」


 原材料が値崩れを起こしている状況で普段通りの値段で販売できる訳がない。

 現に商品を見ている間にお菓子を買って行った人々は銅貨1枚で買って行った。

 俺たちにだけ通常通りの値段で販売するなど割に合わない。そんな事をすれば、客によって値段を決めているとなって信用を失うことになる。


「悪いんですが、後ろもつかえているので買うつもりがないなら出て行ってくれますかい」

「くっ……」


 舐められた態度に唇を噛み締めながら店を出る。

 その後も何軒か回るが、どの店もウィリアムにだけは通常通りの値段で売ろうとする。


 そして、7軒目――


「どうして売ってくれないんだ!?」

「だから、こっちが提示する値段でしか売らないと言っているんだ!」


 エストア神国から流れてきた特殊な茶葉を売っている店で普段通りの値段でしか売ってくれない事に対してウィリアムが突っ掛かってしまった。


「悪いがこっちにも事情があるんで帰ってくれないかね」

「……あなたたちは客によって値段を変える最低な商人だったんですね」

「……そうだよ」


 ウィリアムの言葉を肯定する店主。

 しかし、悔しそうな表情を見る限り店主にも何らかの事情があるように見える。

 けれども、怒って頭に血が上っているウィリアムは店主のそんな態度にも気付かない。


「しつこいよ!」


 水の入ったバケツを持った女性が店の奥から出て来る。

 バケツの口はウィリアムへと向けられている。


 ――バシャア!


 水がウィリアムへ向けて放たれる。

 もっともウィリアムに当たる前に地面から現れた土壁が水を弾いてしまう。護衛としてこれぐらいの事はしなければならない。


「ちょ……!」


 店主が慌てふためいている。

 弾かれた水が商品に降りかかっている。


「客を選び、水を掛けて追い払おうとするから罰が下ったんですよ」


 悪びれることなく土壁を消す。

 実際、水を掛けて来なければ商品が濡れることもなかった。

 残念ながら商品は茶葉だった。濡れてしまった茶葉など売れるはずがないので廃棄処分するしかない。もっとも値崩れを起こしていたということは茶葉も店の奥に在庫が大量にあるのだろう。

 値崩れを起こした商品がダメになったところで店に大したダメージはない。


「行こうウィリアム」

「……そうだな」


 ウィリアムを連れて店を出る。



 ☆ ☆ ☆



 その後は大人しく買い物を続ける。

 しかし、どの店でも通常時の値段でしか売ってくれない。

 適正価格ではあるので大きな声で文句を言う訳にもいかない。


 俺とメリッサは特に気にしていなかったが、商人として真っ当な商売を続けて来たウィリアムには堪えたらしく疲れた表情である店へと入って行く。


「いらっしゃい」


 その店は、昨日初めて入った店。


「あんたかい」


 店にいた女性が目を細めながら見て来た。

 その目には敵意にも似た感情が込められていたが、同時に可哀想な物を見るような感情も込められていた。


「悪いね。そんな疲れた様子でいるところを見るに他の店でも真っ当に売ってくれるような事がなかったんだろ」

「ええ……」

「ま、ワタシも含めて自分の身が大切だからね」


 女性が茶を出して来た。

 普段飲んでいるような物とは違う落ち着いた香りのする茶だ。


「頂いていいんですか?」

「ワタシたちが言われているのは『普段通りの値段で売れ』っていう事だけだよ。決してアンタたちを邪険に扱えって言われた訳じゃない」


 頂いたお茶を飲んでみる。

 お茶の温かさと同時に女性の心遣いが体に染み渡るようだ。


 今の会話で分かった事がある。


「値崩れした値段で売ってくれないのは誰かの命令なんですね」

「あ……」


 ウィリアムの指摘に女性がハッとなる。


「しかも、一軒の店だけじゃなくて多くの店がそのような態度を取るように命令されている。界隈全ての店が特定の客に対して値段を釣り上げるような真似をすれば誰かだけが文句を言われるような状況にはならない。そんな事が可能な方については一つしか思い当たりません」


 俺にも分かって来た。


 命令をしたのは商業組合だ。

 レジェンスにある商店は、商業組合に登録することによって商売が可能になるという説明を受けた記憶がある。

 登録せずに商売をした場合には違法な商店という事になって罰せられることになる。登録には登録料が必要になるのでレジェンスを拠点に商売をするつもりのある商人でなければ加入しない。


 加入したからと言ってデメリットがある訳ではない。

 あくまでも円滑な商売の為に登録が必要だと言った。


 目の前にいる果物屋の女性もそのように説明を受けていた。

 しかし、実際には組合からの命令を聞かなければならない。命令を無視した場合には重たいペナルティとして現在ウィリアムが受けているような迫害に近しい状況に追い遣られてしまう。

 そうなると商売などできるはずがない。


 そんな状態だという事が分かれば脱退したいと思うが、脱退時には多額の上納金を要求されるうえ、脱退した後でも商人として有らぬ噂を立てられている。そのせいで少なくともレジュラス商業国近辺では商売ができなくなってしまう。


「そこまで分かっているのかい」

「相手が商業組合では反抗する訳にはいかないですよね」


 反抗した瞬間に商人としては死んでしまうことになる。


「どうやら上納金を納めなかったことが本当に許せなかったみたいです」

「なるほど。アンタは拒否した訳だね」


 ウィリアムがお茶を飲み干す。

 このお茶を出す行為すら商業組合の連中にとっては許し難いはずだ。


「美味しかったです。ちょっと街をブラブラしてから今後について考えたいと思います」

「そうかい」


 物の購入すらもできなくなってしまった。

 道具箱があるからしばらくの生活には困らないけど、勉強ができるような状況ではなくなってしまった。


「……ん?」


 無言で門のある方へ歩いていると何十台という馬車が走る音が聞こえる。


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