第5話 盗賊退治の報酬
気絶させた盗賊たちを拘束する。
今度は彼らに使い道があるため迷宮へ連れて行くような真似はせずに縄で拘束するのみ。万が一にも逃げられることがないように俺たちのパーティの中で誰かが見張っている必要はあるだろうけど、その苦労に見合った報酬がある事を願う。
「ど、どうして……」
「ん?」
拘束作業を行っていると呆然と立ち尽くしていた兵士の呟きが聞こえてきた。
その目は恨んでいるように俺たちへ向けられていた。
「何か?」
「アンタたちが最初から本気で戦ってくれていればあの二人だって……」
あの二人、というのは犠牲になった二人の事だ。
たしかに瞬殺することが可能だったならば、犠牲を出さずに勝利することは可能だった。
兵士の目が盗賊を倒したイリスとノエルへ向けられる。
彼女たちに害意を向けさせる訳には行かない。
「たしかに俺たちが出て行けば誰の犠牲も出さずに盗賊を討伐することができた」
「だろ……!」
「けど、そんな事を俺たちがいない時にまで言うつもりか?」
今回はたまたま居合わせただけだ。
なによりもウィリアムの要請がなければ後からでも出て行くつもりもなかった。
「村を守るのは兵士であるアンタたちの仕事だ。俺たちはアンタたちみたいな人がいてくれるから安心して村の中で休むことができる。だから、事の次第をアンタたちに委ねていただけなんだ」
ところが状況は兵士たちの手に負えるようなものではなかった。
結局、護衛対象であるウィリアムを守る意味でも自分たちの力で解決した方が楽だと分かったからこそ行動を起こした。
「くっ……」
悔しそうに歯を噛み締める兵士。
俺の言葉に打ちのめされることなく気持ちを奮い立たせているなら大丈夫だろう。
「悔しかったら自分の故郷ぐらいは守れるだけの力を付けるんだな」
☆ ☆ ☆
「ようこそクラーシェルへ」
「街への入場許可が欲しい。それから――」
クラーシェルの門の前で身分証明を行うウィリアム。
帝国に最も近い都市ということで変な人が入ってこないよう入念な審査が行われる。
身分証を提示しながら馬車の後ろを見る。
そこには縄で拘束された盗賊たちが馬車に引き摺られていた。
逃げられないよう両腕を拘束し、縄を馬車に繋げる。馬車はそのまま走り続けるため盗賊たちの取れる選択肢は馬車に置いて行かれないよう走るしかなかった。ただし、全員が付いて行けた訳ではなく何人かは脱落して引き摺られていた。おかげで負傷者が出てしまっている。
「彼らの引き渡しを行いたい」
「また、随分と連れて来ましたね」
総勢50人近い盗賊。
彼らをクラーシェルまで態々連れて来たのには理由がある。
「犯罪奴隷として売るつもりですか?」
犯罪者と遭遇した場合、相手に懸賞金が懸けられていれば死体であっても報奨金が出されることになっている。
逆に言えば懸賞金すら懸けられていない相手だった場合にはタダ働きになる。
だが、こうして生かして連れ帰った場合には奴隷として売ることができる。
もちろん冤罪の可能性があるような相手の場合には即座に売ることができないようになっているが、盗賊――それも村を襲っていたところを拘束した現行犯の場合には問答無用で犯罪者とすることができる。
さらに言えば……
「彼らは、帝国から流れてきた商人を襲うことで有名な『銀の牙』を名乗る盗賊団です。構成員もそれなりに多いうえに手練れが数人いたので我々も苦労させられたんです」
おかげで団長に懸賞金が懸けられていた。
ちょっと手を出しただけなのに想定していなかった報酬が手に入った。
「よく討伐できましたね」
「ああ、それは彼らがいたからですよ」
ウィリアムが俺たちを紹介してしまった。
無用な騒ぎを避ける為に隠れていたのだが、紹介されてしまった以上は出て行かない訳にはいかない。
「どうも……」
「なるほど。貴方たちなら納得ですね」
兵士は俺たちの事を知っていた。
戦争時にはかなり派手に暴れたので顔まで知っている者がいたとしても不思議ではない。
サラサラと必要書類に記入して行く。
盗賊たちを兵士に引き渡せば報酬が手に入る。
他の場所から応援に呼ばれた兵士が盗賊たちを次々と街にある牢へと連行して行く。さすがに人数が多すぎたせいで、この門にいる兵士だけでは対応し切れなかったみたいだ。
代わりに俺たちへ渡されたのは金貨の詰まった袋。
中には50枚の金貨が詰まっていた。
盗賊団そのものに10枚、団長に懸賞金が懸けられていたおかげで10枚、団員の中にも重犯罪者が3人いたらしく7枚、残りの団員44人で22枚、最後に1枚はサービスしてくれたらしい。
かなりの高額だが、それだけ盗賊団に困らされていたということの証拠でもある。
どうやら縄張りにしている場所が問題だったらしく、帝国との間で商売を行っている者が襲われているせいで信用問題になりかけていたため懸賞金の額が少し前に跳ね上がったらしい。
盗賊と言えば逞しく生きてきたので奴隷として過酷な労働環境の場所へ送り出されることになる。
盗賊団の捕縛に関しては俺たちだけの力で行ったので全て俺たちの手元へ渡って来た。
「今、僕から渡せる報酬はないがアリスターへ戻ったら個人的に出させてもらうことにする。君たちの手を煩わせてしまったことには変わりないからね」
「ありがとう」
ウィリアムからも報酬が貰える。
もっとも臨時報酬はこれだけではない。
ウィリアムの護衛をフレディさんたちに任せて俺たちは近くのレストランに入る。どこのお店がいいのかはイリスに聞けば分かる。店に入った途端、イリスの顔を見たウェイトレスから握手を求められる事件があったが、今は戦利品の確認が優先だ。
「で、どんな物があったんだ」
「溜め込んでいた金貨や宝石なんかの財宝、それから武器がかなりの数あった」
イリスには別行動をして盗賊から聞き出したアジトへ向かってもらっていた。
多くの商人を襲って金目な物を奪い、予備とは思えないほどの武器が貯蔵されていた。
「どうして、そんな大量の武器を溜め込んでいたんだ」
「それは、戦争があまりに早く終わってしまったことに原因がある」
目敏い商人は戦争の気配を感じ取って武器を大量に製造させた。
本来なら王国の深いところまで侵入して何カ月にも及ぶ長い戦争になるはずだった。ところが、実際には数日で終わってしまった。
それにより武器が消費されることなく大量に残ることになった。
在庫の処分に困った商人はどうにか売り捌こうとした。
あまりに強い武器は国外へ持ち出すことができなかったが、量産品の槍みたいな武器は外国でも売ることができたため様々な場所で売ることにした。
そんな武器が盗賊に奪われてしまった。
利益を上げられないどころか馬車を馬と一緒に失ってしまったので完全な赤字になってしまった。
「とりあえず武器関連は迷宮の財宝として消耗することにして、金貨や宝石もいくつかを宝箱の中に入れて提供すれば満足してもらえるだろう」
1年は迷宮運営に困らないだけの財宝が手に入った。
今後の迷宮運営を考えながら盗賊団についての疑問を口にする。
「それにしても、あの村はよく無事だったよな」
近くに盗賊団がいながら無事でいられた。
イリスとノエルによって瞬殺されてしまったが、それなりの実力があったのは間違いない。
「それは簡単です。盗賊にとっては、あの場所に村があった方が助かっていたからです」
盗賊団の標的はあくまでも金を持っている商人。
村を襲うよりも村を訪れる商人を襲い続けていた方がよほど利益をあげられる。
「なるほど」
「それよりも暗殺の依頼人についてはいいのですか?」
「いいんだよ。依頼者を捕らえたところで俺たちに利益があるか?」
報酬を出して頼まれれば捕まえに行くのも吝かではないが、無報酬で働けるほど暇ではない。
情報はきちんと渡しているので後は兵士や商会の仕事だ。
「よし。臨時報酬が出たことだし、全員好きな物を注文していいぞ」