第22話 カルテアの魔石―前―
魔法を使っての掘削。
真っ直ぐに進む訳ではなく、少しだけ上の方へ向かっている。
魔法を叩き付けて砕いた岩を道具箱の中に収納する。
「近いぞ」
5分ほど掘り進んでいると向こう側に空洞があるのが分かる。
最後の岩盤を砕く。
「ここは……」
「凄く広い所ね」
掘り進んだ先は広い空洞だった。
上を見れば空が見え、30メートルほど下に地面があった。
緩やかなすり鉢状になっていることから、どうやら頂上にあった噴出孔へと到達してしまったらしい。
「ここが目的の場所?」
「ああ、下りるぞ」
ほとんど壁に近い斜面を下りる。
火山のような形をしたカルテア。実際は魔物なのだから火山のはずないのだが、本物の火山だったならばマグマがあるはずの場所。
硬い地面の上を歩く。
「ここだ」
「ここ?」
噴出孔の中央。
そこの地面の下から気配を感じる。
「ああ、下にある」
魔石の気配を確かに感じる。
「じゃあ、さっさと終わらせましょう」
アイラが剣を振り上げる。
そのまま振り下ろせば斬撃が地面すらも貫いて魔石を斬る。
そんな事は狙われている方も分かっているらしく地面が揺れる。
「ちょ……」
「また、地震!?」
「離れるぞ!」
壁際まで後退する。
揺れているのは空洞の中央部分のみ。先ほどの教訓を活かして揺れている場所からはすぐさま離れる。
そうして、震源地から地面を砕きながら姿を現したのはカルテアの魔石。
「あれが、カルテアの魔石?」
アイラが魔石を見て呟いた。
気配からして魔石なのは間違いない。ただし、これまでに多くの魔物を討伐していくつもの魔石を見て来たが、そのどれとも違う。
魔石は基本的に球体をしている。
常に魔物の体内にあり、魔石が抜き取られると数秒後には魔物の肉体は機能を停止させる。
そういった形状と特性を考えると目の前にある魔石は異常だ。
形は細長い立方体の菱形をしており、地面から飛び出してフワフワと浮いている。
「それは間違いない」
遠く離れた場所で見ていた時から感じていた気配と同じ物を感じる。
間違いなくカルテアの魔石だ。
「破壊するぞ」
アイラとノエルが頷く。
同時に魔石が怪しく光り出す。
――ギュン!
光の線が迸る。
咄嗟に体を屈ませると後ろにあった壁を貫いて穴に開けていた。
「今のって……」
「ああ、カルテア自身やカトブレパスが使っていた光と同じ物だ」
大きさはカトブレパス以上に収束されている。
だが、収束されているだけあって速さはカトブレパスが使っていた時以上だ。
魔石が再びレーザーを放って来る。
「はっ!」
アイラの飛ばした斬撃がレーザーを斬る。
そのまま魔石へと襲い掛かるが、魔石は意思を持って左へ逸れる。
「アイラ、斬れるな」
「斬ることはできるけど、とんでもない量の魔力が収束されているわよ。あたしも一撃に力を込めないと魔力不足で押し切られる可能性があるわ」
「なら、お前はそのまま魔石を狙い続けろ」
問題はノエルの方だ。
彼女の攻撃力ではレーザーを防ぐのが難しい。
「……何か来る!」
「なに?」
ノエルを見ていると彼女が叫んだ。
頂上にある噴出孔を見上げると岩の塊がいくつも降って来る。ただの岩のように見えたが、よく見れば転がり岩だ。
降って来た転がり岩の落下先にはアイラがいる。
そのまま落ちればアイラを潰すことができる。しかし、同時に転がり岩も砕け散ってしまうことになる攻撃方法。いくら魔物とはいえ、自分の命が惜しいのだから普通はこんな方法は取らない。
しかし、カルテアの支配下にあるため自分の命を惜しむような真似はしない。
彼らの最優先目標は魔石を狙う俺たちの排除。
「ていっ!」
跳び上がったノエルが1体目の転がり岩を錫杖で叩いて砕く。
そのまま体を回転させながら上を振り向くと錫杖を投擲する。投げられた錫杖が2体目、3体目の転がり岩を貫いてバラバラにする。
ノエルの魔力を受けた錫杖は、小環の能力もあって風を操作して空を飛びながら彼女の手元へと戻って来る。
ノエルが地面に着地する。
すると、狙っていたかのようにノエルの着地地点のすぐ傍に土で作られた人型の魔物が出現する。
人型の魔物は剣と盾を持っている。
まるで騎士のようなゴーレムが剣を振るう。
着地したばかりで迎撃が間に合わないノエル。
ノエルと魔物の間に割り込むと魔物の剣を自分の剣で受け止める。
「はっ!」
魔物に向かって剣を振るう。
左右に両断されたことによって魔物が倒れる。
――ギュン!
「マルス!!」
両断された魔物を貫通してレーザーが迫る。
神剣を盾にして受け止める。が、衝撃を完全に消し去ることができずに後ろへ吹き飛ばされて壁に叩き付けられる。
「チッ……威力ありすぎだろ」
膝を突きながらも立ち上がろうとすると口の端から血が流れる。
壁に叩き付けられた時にどこか痛めてしまったらしい。
「侵入者はどんな手段を用いても排除、っていう訳か」
カルテアにとって山にいる魔物は全て自分にとって都合のいい捨て駒でしかない。
口の端に流れた血を腕で拭いながら睨み付ける。
魔石も自分が睨み付けられていることが分かるのかレーザーを放つ前とは違う黄色い光を放つ。
宙に浮いている魔石の下にある地面が盛り上がって腕が現れる。
岩の腕。ただし、崖を登っている最中に襲って来た物とは比べ物にならない大きさがあり、腕だけで人と同じくらいの大きさがある。
地面を滑りながら岩の腕が襲い掛かって来る。
「跳んで!」
ノエルに言われて上へ跳ぶ。
錫杖が地面を滑る岩の腕の正面にある地面に突き刺さった瞬間、地面が揺らされて根元からポッキリと折れる。
地面に落ちて砕ける岩の腕。
「……」
その光景を喋る機能を持っていないにも関わらず魔石が何かを考え込んでいるように見える。
――ブゥン!
魔石が嫌な音を立てながら怪しく光る。
「何だ?」
地面が再び揺れる。
震源地は浮いている魔石の下。
地面から岩の腕が再び姿を現す。ただし、地面と繋がっていた腕の先から胴体が現れる。胴体の上部には人の頭部があり、目があるべき場所から黄色い光が放たれている。
上半身だけの体長5メートルのゴーレム。
ゴーレムの背中が開いて、胴体に魔石が収まる。
ゴーレムに守られた魔石。
岩の腕と同じように地面を滑るように移動すると壁際にいた俺に向かって拳を振るう。
「マルス!」
「そこを動くな」
巨体に遮られて見えないが、今にも駆け寄りそうな向こう側にいるアイラに向かって叫ぶ。
拳が当たる直前に【転移】で逃げる。
移動先は、アイラの傍だ。
迷宮主である俺は、迷宮眷属の傍ならば自由に移動することができる。
とはいえ、緊急用の移動方法。使用するだけで大量の魔力を消費することになる。
ゴーレムに叩かれた壁が吹き飛んでいる。あの攻撃をまともに受けるのは迷宮主である俺でも危険だ。
力がありながら、移動も地面を滑ることによって申し分ない。
「俺たち3人だけだと大変そうだな」
もう探索の必要もない。
【召喚】でメリッサとイリスの二人を喚び寄せる。
「あまり無茶をしないで下さい」
二人ともこちらの様子は【迷宮同調】で視て知っている。
吹き飛ばされた時にダメージを負ってしまっている事を知っているメリッサが俺の腹に手を当てながら回復魔法をかける。
「さて、今回は全く役に立っていないから最後くらいは役に立つことにしましょうか」
「ええ、そうですね」
後は自分の魔法だけでも十分。
探索では全く役に立てなかったメリッサとイリスにやる気が満ちている。