第18話 岩石系魔物
転がって来る岩。
「はっ、ていっ!」
腕が届く距離まで近付いたところで拳を振り抜くと砕いて行く。
隣を見るとアイラも転がり岩を斬っている。
転がり岩は体が一定以上失われると機能を完全に停止させる性質があった。ある程度砕かれれば動かなくなるし、斬られればただの岩に成り果てる。
「これは、わたしの出番はないかな」
後ろで暢気に観戦しているノエル。
そこへ斬られて岩になってしまった転がり岩を踏み台にした岩の鱗に覆われた猿――岩猿が飛び掛かる。
錫杖を振るって1体目の岩猿が喉を貫かれ、2体目が頭を横から叩かれて地面に叩き付けられる。3体目は足を凍らされてしまったせいで重さによって地面に落とされたところを叩かれて絶命する。
残った岩猿が攻撃を躊躇している。
岩猿は賢い魔物ではあるのだが、その知性は非力な魔物なりに人を騙して追い詰める事ばかりに使われている。仲間が簡単にやられる光景を見せられて無策で攻めるのを躊躇している。
「チッ、ウザいな」
次々と頂上から落ちて来る転がり岩。
俺たちにしてみれば大した事のない魔物なのだが、こうも次から次へと落ちて来ると足を止められてしまう。
ちなみに念話で確認してみたところメリッサとイリスも同じように襲撃を受けていた。
「飛んで行け」
落ちて来た転がり岩を蹴る。
すると、蹴った先にたまたま岩猿がいたため潰されてしまった。
『ギィ!』
残っていた岩猿が逃げ出した。
自己の生存を優先させた。
時間制限があるので全ての魔物を相手にしていられるような余裕はない。
「ん?」
てっきりそのまま逃げると思った岩猿だったが、100メートルほど離れたところで足を止めていた。
1体の岩猿が物凄い速さで近付いて来る。
切断作業を止めたアイラが俺の前に出ると近付いて来た岩猿を斬る。相手は硬いことで有名な魔物なのだが、アイラが剣を一振りするだけで岩猿は両断されてしまった。
「なんだったんだ一体?」
直前の逃げ出した行動からは考えられないほどの無策な突撃。
たった1体だけ、というのも気になる。
――カツッ、カツッ!
……ん?
斬られた岩猿を見ていると頭に石が当たった。その石は俺が砕いた転がり岩の破片で、それを拾った岩猿が投げていた。
ダメージは全くないのだが、頭に当たり続けていると地味に痛い。
「どいて」
ノエルが魔法で作り出した岩の槍が岩猿の胸を穿つ。
猿の石像が地面に倒れる。
「何か来る」
「え……」
山の上の方から走って来る音が聞こえる。
現れたのは鋼牛。
鋼のように強固な体を持ち、山のように急な斜面すらも気にせずに暴れているように走り続けている。まともにぶつかる訳にもいかないので冒険者は見掛けた時には見逃してもらえるように祈りながら走るようにしている。
現在の加重状態でも気にせず斜面を走っている。
このままだとここへ突っ込んで来ることになる。
「下がっていろ」
守る為に俺の前に出ようとしていたアイラとノエルを下がらせる。
剣を鞘の中に納めると両手に力を込めて踏ん張りながら突っ込んで来た鋼牛の頭の先端から突き出した角を受け止める。
突進の力に押されて10メートルほど後退する。
「どうした? この程度か?」
鋼牛が叫びながら押し込もうとしているが、俺の体はビクともしない。
「悪いが、付き合っているような時間はないんで最も確実な方法で仕留めさせてもらう」
暴れる鋼牛を持ち上げると頭から地面に叩き付ける。
鋼牛の額に亀裂が走り、倒れてしまった鋼牛が起き上がることはなかった。
「うん。力尽くでもこの手の魔物を倒すのはできるみたいだな」
「そうかもしれないけど、あまり無茶な事はしないでよ」
「見ているこっちはハラハラしているんだから」
とはいえ、一番力のある俺が対処するのが最も確実な方法だった。
気になってイリス組の方を【迷宮同調】で覗いてみると同じように岩猿以外の魔物の襲撃に遭っていた。
相手は天駆鹿。空を飛んでいるように思えるほど身軽に山を飛び回る魔物。基本的には臆病な魔物なので、人を率先して襲うような真似をするはずがないのだが、メリッサとイリスは10体から襲撃を受けていた。
普通では考えられない。
それに一度は逃げ出したはずの岩猿が戻って来たのも気になる。
『そういう事ですか……』
メリッサから念話が届く。
「何か分かったのか?」
『今、襲い掛かって来た魔物からおかしな魔力が感じられます』
おかしな魔力?
『おそらく、長くこの山で生活して……もしくは、この山で生まれたせいでカルテアの魔力の影響を受け易くなっています』
それは俺も考えた。
だからこそ加重状態でも普段通りに動くことができている。
生まれつき加重状態に強くなっている。
『影響を受ける、というのはいい事ばかりではありません。自分たちの根幹を成す魔力の大元になる存在から命令を受ければ彼らは逃げ出したくても立ち向かわなくてはならなくなってしまうのです』
迷宮主と迷宮眷属みたいな関係。
命令されれば眷属は従わなくてはならない。
カルテア山で生まれた魔物は、カルテアの眷属みたいな存在になってしまった。
今、カルテアは俺たちに構っていられるような余裕がないから魔物に簡単な指示だけを出して攻撃させた。ただし、途中で逃げ出してしまったので岩猿には強い指示を与え直したため向かって来た。
「面倒な事をしてくれる」
「どうするの?」
「どうするも何も先へ進まないといけない。向こうにとっては、どうしても先に進んで欲しくないみたいだ。けど、単調なあいつの事だから俺たちの手に渡ると困る代物がこの先にあるから侵攻を阻んでいる」
逆に自分の弱点を知らせているようなものだ。
とはいえ、ものには限度というものがある。
「げっ……」
岩が転がる音が聞こえて山頂の方へ目を向ければ大量の転がり岩が斜面を転がっていた。少なくとも10個や20個といった数ではない。
「斬るのは問題ないんだけど、あんな数を相手にしないといけないのはちょっと面倒なんだけど」
「俺だって同意見だ」
何か効果的な方法はないか?
キョロキョロと視線を左右へ巡らせれば切り立った崖が見える。ほぼ垂直にしか見えない崖。あるのは岩肌ばかりで、手を掛けられるような場所や岩なんてほとんど存在していない。
崖には200メートルほど上に山道が見える。本来の行程としては山をグルッと回り込むようにして移動するべきところだ。
「ここなら行けるぞ」
「行くって……手を掛けられる場所なんてないけど」
「たしかに崖を登れれば転がり岩を相手にする必要はないかもしれないけど」
二人には崖登りなんて無謀に見えるみたいだ。
だが、俺は気にすることなく崖に向かって拳を振り抜く。
――ズボッ!
崖に穴が開いて手を掛けられるようになる。
「へ?」
「悪いが、さっさと頂上へ向かわせてもらうぞ」
敵は頂上の方から来ていた。
そうなると頂上を目指さずにはいられない。
手に力を込めて跳び上がる。すぐに直前まで手を掛けていた場所に足を掛けて崖に腕を突っ込む。
「俺がこのまま足場を作って行くから付いて来いよ」
「ちょ……」
下にいるアイラとノエルに言う。
二人とも聞こえていたので付いて来てくれるはずだ。




