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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第4章 奴隷少女
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第13話 窃盗依頼

「父さん!」

「シルビア!?」


 ラルドさんが駆け寄る娘の姿を見て驚いていた。なにせ相手は王都にいないはずの娘だ。訳が分からないまま娘に抱き付かれていた。


「どうしてこんな場所に?」

「父さんを探して王都の貧民街にあるここまで来たんだよ」


 俺たちが今いるのは王都の外れにひっそりとある貧民街の民家の一つ。


 振り子(ペンデュラム・ダウジング)を使用して見つけたラルドさんが貧民街に身を隠していたので俺たちもそこへ駆け付けた。


「本当に、心配したんだから」

「すまない……」


 抱き付いたシルビアが泣き出し、ラルドさんが頭を撫でて落ち着かせていた。


「父さんが帰ってこなくて不安になった母さんが体調を崩し出すし、心配したオリエが母さんから離れなくなったからわたしが王都に来て、王都に来たら父さんが犯罪者ってことになっていたし、そうしたら……」


 そこから先の境遇は娘の立場からは言いにくいだろう。

 俺から説明しようか、と思ったところでラルドさんがシルビアの首に付いた首輪に気が付いた。


「これは……奴隷の首輪じゃないか!? まさか……!」


 ラルドさんがようやく離れた場所で待っていた俺の存在に気付いてキッと睨み付けてくる。いや、俺が主人だけど、酷い待遇とかにはしていないですよ。


「ま、待って……マルスさんはたしかにわたしの主人だけど、とってもいい人なの。彼がいなかったら父さんのところに辿り着くことはなかったし、わたしはもっと酷い立場に追いやられていたから」

「どういうことだ?」


 少し話が長くなりそうなので、朽ち果てた民家に入ってテーブルの前に置かれた椅子に座る。収納リングからお茶やお菓子を取り出す光景を見て、少しばかり驚いていたが、シルビアの話が始まるとすぐに落ち着いていた。


 それから王都に来てからの出来事をシルビアが語って聞かせると壁抜けのことや幼い頃は盗賊だったことを知られて落ち込んでいたもののラルドさんが俺に対していきなり頭を下げた。


 なんだ、いきなり!?


「この度は娘が大変お世話になりました。あなたには感謝しても返し切れない恩ができてしまいました」

「頭を上げて下さい。俺は金を貸しただけで、そのお金もいずれは返してもらえればと考えていますから……」

「もちろんあなたが娘を購入する為に支払ったお金はいずれ返したいと考えています。だが、娘から話を聞けば娘を購入した者があなたでなければ私がこうして娘と再会することはできなかったと考えております。私が隠れている場所を見つけられた魔法道具(マジックアイテム)をあなたが持っていてくれてよかった」


 魔法道具――振り子のことだ。

 振り子(ペンデュラム・ダウジング)は、探したい物を頭に浮かべながら使用することで鎖の先端に付いた水晶が探し物の方向を指し示し、使用者の頭に目的地までの距離を教えてくれるという魔法道具だ。ただ、欠点としては魔力を常に大きく消費してしまう。その欠点を補うためにシルビアに振り子を持たせて使用させ、その手の上に俺が手を乗せて魔力を送り続けることで使用することができた。後は、要所で使って目的地を確認しながら辿り着いた。


 ここは、貧民街の中でも建物が入り組んでおり、迷路のようになっていた。振り子は、目的地までの方向と距離を教えてくれる物なので、迷路からの脱出方法までは教えてくれない。おかげで俺たちも朝に宿屋を出発したにもかかわらず、昼過ぎに到着してしまった。


 ただし、壁抜けというスキルがあるラルドさんにとってはこれほど隠れるに適した場所はない。もしも見つかったとしてもたった1枚の壁をすり抜けるだけで追手から追いつかれない場所まで移動できるのだから。


 ま、ラルドさんが言ったように振り子がなければ辿り着けないような場所だ。


「ただ、今回のことで学びました――」

「――窃盗などの犯罪には手を染めない方がいい。ですか?」


 ラルドさんが一瞬だけ驚いた表情をするが、すぐに真面目な顔になると首を縦に振って肯定する。


 その姿を見てシルビアが歯を噛みしめていた。

 シルビアにとっては、たった数日のこととはいえ、父親の無実を信じて奴隷状態にも耐えていたのだから。事前に俺から父親が犯人である可能性が濃厚であることを教えられても認めたくはなかった。


 にもかかわらず当の本人である父親が罪を認めてしまった。


「ラルドさんは誰かに依頼されて前フレブル子爵を殺害したのですね」

「はい。金を工面する方法に頭を悩ませていた私に依頼を持ち掛けてきたのはフレブル子爵の隣にある領地を治めているボーバン準男爵です」


 準男爵。また一気に貴族の格が下がったな。


「ボーバン家は前当主が戦場での活躍を認められて陛下から騎士爵を受勲され、前当主が準男爵規模まで領地を発展させた家系なのですが、息子である現当主が褒められた貴族ではない、と言いますか……生まれを鼻にかける貴族なのです」


 本人だって騎士爵から準男爵になっただけの家系なら大したことないだろうに。


「そんな者ですから領地経営は上手くいかず、性格から自分の失敗を省みるようなことはせず、すぐ近くで上手くいっているフレブル子爵へと向けられたのです」


 は?


 もしかして、と思っているとラルドさんが懐に隠し持っていた宝石をテーブルの上に置いた。これが盗み出した宝石か。


「これは前フレブル子爵が若い頃に国王陛下から賜った宝石です。これそのものには、宝石としての価値はそれほどありませんが、前フレブル子爵は社交界などのパーティでは必ず身に着けていたようです」

「つまり、国王陛下から賜った宝石を盗み出してフレブル子爵家に恥をかかせるのが依頼主の目的だったと?」

「その通りです」


 依頼内容に怒りを通り越して、呆れるほかない。

 だって、そんなのただの八つ当たり。フレブル子爵は何も関係がないじゃないか。


「フレブル子爵家の領地と私の依頼主であったボーバン家の領地では、同じように芋を使った特産品を売り出していたので、フレブル家の名声が落ちれば自分の領地の特産品が売れるとも考えていたようです」


 領主の名声が少し落ちたからといって、そこに住む人々が作った特産品の価値まで下がるわけではない。

 何を考えているんだ、そのボーバン準男爵は。


「では、前フレブル子爵を殺害したのはどうしてですか?」


 いくら肌身離さず持ち歩いていると言っても就寝中は外していたはずである。


「そこが分からないんです。たしかに宝石を盗み出したのは私です。だが、私は絶対に殺人まで行っていない! 宝石を盗み出した後、逃げる時に見つかってしまうという失態を演じてしまったせいで殺人の犯人まで私に被せられてしまいましたが、断じて私は殺人にまで手を染めてはいない」


 一応隠れているのだから声は抑えてほしい。

 だが、本気で怒鳴っている姿から本当に殺人には関与していないという想いが伝わってくる。


「報酬の受け取りは次の日になっていたので、ボーバン家の屋敷に行くまでの間に私が殺人犯に仕立て上げられていることに気付きました。私が窃盗の罪まで犯してしまったのは事実です。それで裁かれるのは仕方ありません。しかし、このままでは殺人犯の濡れ衣まで着せられてしまう。どうにかして私が殺人犯でない証拠を探している内にこんな事態になってしまった。申し訳ない」


 再び頭を下げるラルドさん。

 窃盗をしてしまったのは褒められたことではないが、犯してもいない罪で裁かれるのも問題だ。


「何か契約書でも交わしていないんですか?」

「それが契約した時に契約書は作っていたんですけど、報酬を貰いに行って文句を言っている間に奪われてしまいました。私も秘密にしたかった依頼でしたので、他にボーバン家との繋がりを示すような物は残っていません」


 せめてボーバン家が裏にいることをフレブル家に示すことができればまだ違ったんだろうけど、物的証拠がないんじゃ難しいな。


「あなたはこれからどうしますか?」

「どう、とは?」

「俺も空間を転移する魔法が使えます。それを使えば移動先は限られていますけど、王都から脱出することができます。ただ、その場合は犯罪者として一生追われることになりますし、状況次第では……」


 シルビアや他の家族が狙われる可能性だってある。

 それでもラルドさんを『迷宮魔法:転移』で迷宮へと逃がすことはできる。


 自分と同じように移動系の能力が使えると聞いてラルドさんが驚いているが、シルビアを見て何かを考えてから自分の意見を言う。


「いいえ、少なくとも家族に迷惑を掛けない形で今回の事件を収束させたいと考えています。少し時間を貰えませんか?」

「分かりました」


 今日は、それで解散することになった。




 ☆ ☆ ☆




 貧民街から戻ってくる頃には陽も暮れ始めていたので、王都を少し散策して気分転換をしてから宿屋へと戻ってきて2人で夕食を摂る。


「それで、これからどうする?」


 シルビアに尋ねるとしばらくの間俯いてから、


「……分かりません」


 それだけしか言わなかった。

 まあ、気持ちは分からなくもない。事情があったとはいえ、父親が窃盗をしてしまっていたのは事実だ。


 ちょっとした気持ちから始めた手助けだったが、さすがに馬鹿貴族が相手とはいえ、貴族まで敵に回していいのか微妙なところだ。


 色々考えなければならないことが……チッ!


「ど、どうしたの?」


 食事中にもかかわらず、大きな音を立てて立ち上がった俺にシルビアがキョトンとした表情をしていた。幼い顔立ち故にかわいらしいが、今はそんな場合ではない。


「ラルドさんが襲われている!」


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