第2話 飼育
「いやぁ、儲かった儲かった」
目の前には大きな道具箱に詰め込まれた金貨の山。
さすがは国家規模の予算だ。この調子で稼いで行けば迷宮の拡張にも手を付けられそうだ。
「では、私は情報の整理がありますので失礼します」
「俺も後で合流するよ」
ソファに横になる。
慣れない頭脳労働をして疲れていた。
こういうのはメリッサが得意なのだから彼女に全てを任せてしまいところなのだが、俺が主だと知られてしまっているので国王と直接交渉するのなら立場的に俺が交渉しなければならない。
「いいんですか? このような稼ぎ方をして」
「ん?」
人の弱味に付け込むようなやり方をシルビアは気にしていた。
もう妊娠7カ月目なのでお腹も非常に目立ってきた。あまり心労を掛けたくないのでレンゲン一族の事には関わらせないようにしていたのだが、一区切りついたので報告を兼ねて成果を見せていた。
「いいんだよ。せっかく手に入れた情報は有効利用しないと」
レンゲン一族の隠れ里を壊滅させてから2カ月。
里から押収した情報があまりに膨大だったため情報の精査と整理に時間が掛かってしまったがようやく人に売れるまで整理することができた。
まずは、最も仲の良いイシュガリア公国。
国と仲が良いというよりは『聖女』であるミシュリナさんがいるから友好的と言えるが、『聖女』を通して情報を売らせてもらった。彼女には友情価格と情報の取扱いについて色々と教えて貰ったということで値引きさせてもらった。
それでも国家予算から報酬を引き出すことに成功した。
これで素材分の魔力を補填することに成功した。
そして、自国であるメティス王国から報酬を引き出した。
ここでも国家予算に匹敵する報酬が貰えたので利益をあげられた。
「あいつらも随分と役に立ってくれたじゃないか」
それでも不死帝王を【召喚】する為に消費した魔力を取り戻せていない。
そっちについては量が多すぎるのでゆっくりと取り戻して行くしかない。
「それで、肝心のレンゲン一族はどうしているんですか?」
「見に行くか?」
もちろん直接見に行く訳ではない。
迷宮の最下層へと【転移】する。
ここが迷宮内の様子を最も監視し易く、最も安全な場所である。
迷宮操作を使用すると半透明な板が表示され、地下61階の様子が映し出される。
「……随分と様変わりしましたね」
以前の地下61階は、手の入っていない平原が広がっているばかりで何もない場所だったのだが、今は畑が耕され、地面からは芽が出ていた。まずは農具と短期的に収穫できる作物を与えた結果そろそろ収穫できる物まである。
「さすがは迷宮。本格的な農業をしたら収穫までの期間が短いな」
元々は避難施設だった迷宮。
迷宮内は魔力が豊富にあることもあって作物の成長が早い。
「大丈夫なんですか?」
「栄養的にも味的にも問題はない。けど、俺も異常な速さで成長したのを知った後だと食べるのを遠慮するな」
問題がないと分かっていても異常だと知ると遠慮するのが人間だ。
それは、迷宮内に取り残されたレンゲン一族も同じだ。
「……」
それでも彼らは黙々と収穫する。
嫌悪感はあっても食べずにはいられなかった。
理由は、単純に他の食べ物が少なかったからだ。沼地フィールドには地面を掘れば食べられる物が埋まっていたり、木に成っていたりするので食物には困らない。もっとも数人の話だ。さすがに100人以上を養うほどの力はない。
結果――彼らは異常な物でも口にしなければならなかった。
生きる為には仕方ない。
『頑張らないと。犠牲になったあいつらの為にも……』
使命感のような物に駆られて一心不乱に食べ続ける。
「どうして……」
「今、迷宮に何人のレンゲン一族がいるのか分かるか?」
「えっと……」
シルビアは把握していない。
それでも迷宮核に尋ねれば正確な数を教えてくれる。
返って来たのは『134人』という数字。
「あれ、増えている?」
里から迷宮へ連れて来たのは『131人』だ。
「違う。増えても減ってもいるんだ」
「へ?」
131人しか連れて来ていない。
しかし、その前にアリスターへ潜入していた11人の生き残りも合流させたことで142人になった。
その後、実力に自信のある者が迷宮からの脱出を目指して地下60階を目指すことになった。しかし、帰って来た者は一人もいない。彼らは戻って来る事に希望を抱いて待ち続けた。
けれども、出発から10日経っても帰っても来ない頃には諦めてしまった。
それは決して間違いではない。
彼らは地下60階へ到達するどころか一族の人たちが縄張りにしている場所から5キロほど離れた場所で魔物の襲撃を受けて死んでいた。
里を出発してから1時間も経過していない。
その時に出発した8人が犠牲になった。
これが134人になった理由。
「最初の予想だとここから十数人は脱落すると思っていたんだけどな」
迷宮の閉鎖的な環境は人間にとって苦しい。
それに急激な変化によって体調を崩して倒れる事だってある。
そういった複数の事情があって脱落する者が何人かいると思ったが、予想に反して全員が迷宮の環境に適応していた。
「やはり、間諜として色々な場所へ潜入できるよう日頃から訓練を積んでいたおかげでしょうか」
間諜を育成する為のマニュアルなんて物まで里から押収することができたので確認してみたが、あまりに厳しい修行の為に途中で読むのを諦めてしまった。
少なくともマニュアルを再現しようとは思えない。
しかし、そういった修行のおかげで迷宮に適応できているのも事実だ。
レンゲン一族は収穫した野菜を使って鍋を煮込む。
収穫ができるようになったが、100人以上が自給自足で生きて行くためには協力して節約しながら生活しなければ保たない。
できあがった煮込みスープを食べる。
「美味しいね」
「うん!」
何も知らない二人の少女が無邪気に笑い合っている。
スープに使われている食材が自分たちの手で一生懸命育てた作物だと知っているからこそ今まで食べたどんな物よりも美味しく感じられる。
「でも、足りないよ……」
育ち盛りの子供たちには足りなかったらしく不満を述べていた。
「ごめんね。これぐらいしかないの」
『え~』
子供たちからブーイングが上がるが母親たちには何も言い返せない。
これが自分たちで何も選択しなかった結果であり、受け入れるしかないと諦めている。
実際、こんなに都合のいい物を手放す気は俺にはなかった。
「さすがは間諜として厳しい修行に耐えて来たような奴らだ。得られる魔力量が高ランクの冒険者並だ」
子供たちはさすがに一般的な子供と変わらないが、大人たちからは全員が1日に魔力100~200も得られていた。
普通は消耗したところで迷宮から帰ってしまう事を考えれば迷宮に居続けてくれるのでぼろ儲けもいいところだ。
「さすがにあんな子供の無邪気な表情を見ていると可哀想に思えてきますね」
「ま、たしかに可哀想だとは思うが迷宮から出すメリットがないからな。自力で脱出できるようなら許してあげるつもりだけど、自分から出すような真似をするつもりはない」
彼らがいるだけで数年もすれば迷宮の拡張に着手できそうなのだから手放す理由には至らない。
それにそろそろ手助けも止めにするつもりだ。
食べられる木の実や野菜などをそれとなく見つかり易い場所に置いて自給自足ができるようにしていたが、初めての収穫を迎えることができたのだから今後は自然の流れに任せても問題ないはずだ。
「少し、よろしいでしょうか?」
随分とレンゲン一族の様子を確認していたらしくメリッサが戻って来ていた。
「どうした?」
「グレンヴァルガ帝国皇帝から招待状を預かって来ました」




