表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第23章 霊峰秘薬
604/1458

第24話 不死帝王

「テメェは若返る薬を作る事に成功したから老いて死ぬことを恐れるようになったんだよな」


 族長の心の根底にあるのも依頼主だった国王と同じ恐怖心だ。

 何百年もの時間を生きたことによって死が恐ろしくなった。

 だから、どんな手段を使ってでも生き延びようとしている。


「なら、安心しろ。今からお前を老いる事のない体にしてやる」

「何を言って――」


 族長を無視して新たな魔物を【召喚(サモン)】する。


「ぅ、あ……」


 現れた魔物を見て族長が恐怖する。

 族長だけでなく頭領や若など屋敷内にいる人間は例外なく怯えていた。


『ほう……儂を呼び出すか?』

「悪いな」

『いや、構わぬよ。こうして新たな生を得られただけでも喜ばしい事だ』

「と言ってもお前は死んでいるんだけどな」

『それもそうだな』


 ハハハッ、とお互いに笑い合う。


 しかし、レンゲン一族側はそんな気にはなれていなかった。


 理由は【召喚】された魔物にある。

 大きな真っ黒いローブを着た大男と思われる人物。ただし、ローブから出た手や足、顔といった部分には骨しかなかった。

 その姿だけを見ると魔法使いのスケルトンのように思える。


 だが、スケルトンのような低級な魔物とは比べるまでもなく強いという事が一目で分かる。

 魔物が纏う圧倒的なまでの死の気配。


 それが言葉にならない恐怖心を与えていた。

 床に伏せた族長は目を合わせることができず、頭領たちの中にはガタガタ震え出す者がおり、中には股間を濡らしている者までいる。はっきり言って醜態以外の何物でもない。


「な、なぜソレがここにいる!?」

「ん?」

「その魔物はかつて災厄を呼び込んだ末に一人の英雄によって討伐された凶悪な魔物。既に存在しないはずの魔物だ!」


 魔物が生まれる源である瘴気。

 それが1箇所に集まり過ぎると強力な魔物が生まれることがある。時には都市では済まされずに国まで滅ぼすようなこともあるため災厄扱いされていた。

 俺が新たに呼び出した魔物も過去にそのような扱いを受けたことがある魔物だ。


「その英雄っていうのはどこの誰なんだろうな」

「それは――」


 無駄に数百年も生きていたから災厄と呼ばれた魔物を実際に目にしたことがあるのだろう。

 だが、英雄の容姿などといった詳しい情報を集めることはできなかった。

 その頃はレンゲン一族の諜報能力もそこまでではなかったのだろう。


「あいつを倒したのは俺の前にいた迷宮主だよ」


 魔物を倒した後で魔石を回収。

 さらに魔石を【魔力変換】したことによって魔物の情報が迷宮に残された。


 これまでは先代の迷宮主だけでなく俺も迷宮の魔力を使って魔物を再現しようとは考えていなかった。


 なぜなのか?

 理由は単純に魔力の膨大な消費にある。

 これまでにコツコツと溜め込んで来たほとんどの魔力を魔物の生成によって消費してしまった。


「この魔物の名前は『不死帝王(アンデッドエンペラー)』。不死の中では最強クラスの魔物だ」

『勘違いしないで欲しい。儂は儂が知る限りの魔物の中では最強だと思っている』


 不死帝王(アンデッドエンペラー)が気を悪くした様子も見せずに訂正した。

 実際、不死帝王(アンデッドエンペラー)は強い。少なくとも地下80階クラスの魔物でなければ対等に戦うことすら不可能なレベルだ。


 けれども、不死帝王(アンデッドエンペラー)の真価は戦闘能力にはない。


「じゃあ、頼む」

『うむ。再びこのように自由に動くことができるようにしてもらえたのだから、せめて報いる事にしよう』

「な、何をするつもりだ!?」


 足元で族長が何か喚いている。

 そんな事を無視した魔物が手を上へ掲げると全身から溢れ出した瘴気が手の先へと集まって巨大な斧の形を取る。人と同じくらいの大きさがある斧。本来なら持つことすら苦労するはずなのに軽々と振り回している。


「やれ」

「ま、待て……!」


 タイミングを合わせて後ろへ跳ぶ。

 族長も逃れようと前へ転がるが遅すぎた。


「あ、がぁ……」


 胴体を狙った斧の一撃は少し下へとズレて下腹部で切断することになってしまった。

 先ほど首を斬り飛ばした時と同じように腰を中心に上下に別れた体。


 すぐに『蘇生丸』による再生が始まる。


「ハハハッ、どれだけオレを殺したところで『蘇生丸』があればオレが死ぬことは絶対にない」


 再生中はどれだけ攻撃したところで消費した『蘇生丸』が再生を続けるだけなので無意味に終わる。


『小賢しい物を持っているようじゃな』

「そういう意味もあってお前を喚んだんだ」

『任せろ』


 族長を切断した斧が弾けて瘴気へと戻る。

 そのまま床に倒れている族長の体を覆い尽くしてしまう。


「なんなんだこれは……わっ」


 体を覆う瘴気を払おうともがいていたが、口の中にまで入り込まれてしまうと大人しくなる。

 ピクピクと小さく痙攣するだけで動かなくなる族長。


「族長!?」

「おっとテメェらも動くなよ」

「くっ……」


 切断された当初は『蘇生丸』について知っていたから動かなかった頭領たちや若だったが、全身が真っ黒な瘴気に覆われてしまうと冷静ではいられなくなった。

 今、邪魔されると面倒な事になるかもしれない。

 正確には初めての事なので万全を期しておきたい。


『ふむ。こんなものじゃろう』


 族長の体を覆っていた瘴気が不死帝王(アンデッドエンペラー)の元へと戻って行く。


「族長……うっ!」


 瘴気が消えても倒れたままの族長を心配した一人が駆け寄る。

 しかし、あまりに変わり果てた様子に吐きそうになるのを口に手を当てて抑える。


 族長の体からは生気が消え去って肌がカサカサで痩せこけ、目や口は窪んで向こう側が見えそうになっていた。

 まさにゾンビと呼ぶに相応しい姿だ。


『何があった……?』


 族長と同じ声が周囲に響き渡る。既に発声器官も死滅してしまっていて使えなくなっているので瘴気が周囲に音を疑似的に再現させて族長の意思を伝えている。


 明らかに生きているとは思えない見た目。それでも族長は起き上がった。


「これが不死帝王(アンデッドエンペラー)の能力だ」


 死者を問答無用で不死者へと変える。

 効果だけを見ればイシュガリア公国に現れたアルフレット・ノスワージと同じように思えるが、不死帝王(アンデッドエンペラー)の手によって不死者へと変化させられた者は生前と同じように力を扱うことができ、自我も保ったままでいることができる。

 その証拠に族長はしっかりと自分の意識を持っていた。


不死帝王(アンデッドエンペラー)の能力は『死者を不死者へと変化させる』だ。たしかに『蘇生丸』を飲んでいれば死んだ状態からでも生き返ることができる。けど、死んだ状態なら不死帝王(アンデッドエンペラー)の能力の影響下に置くことができる」


 再生が完全に終わることによって初めて『死者』から『生者』へと戻ることができる。


「良かったな。これで老いる事はなくなったぞ」


 肉体の劣化とは無縁なのが不死者。

 生前と同じ自我を保っている事もできるのだから理想を叶えたとも言える。


『ち、違う……! オレが望んだのはこんな姿じゃ……』


 しかし、肉体の変化に精神が追い付いていない。

 煩く喚いている。


不死帝王(アンデッドエンペラー)

『承知』


 呼ばれた不死帝王(アンデッドエンペラー)が族長を指差す。


『少しは静かにしておれ』

「……」


 口をパクパク動かして戸惑っている。

 実際に口から言葉を発している訳ではないのだが未だ生前の頃の感覚が抜け切っていないので言葉が伝わらない状況を喉に問題があると判断してしまう。


「これが不死者の帝王と呼ばれる所以だ。こいつに不死者にされた者は帝王からの命令には絶対に抗うことができない」


 帝王の命令は絶対。

 そして、不死帝王(アンデッドエンペラー)にとっての民は自らの手によって不死者にされた者全員だ。


「さらに言えば不死帝王(アンデッドエンペラー)は俺が作り出した魔物。つまり、俺の支配下にある魔物の支配下にあるお前は間接的に俺の支配下に置かれたことになる」


 これにより俺の質問には嘘偽りなく答えなければならなくなる。

 しかも、生前の意識をそのままにしているから契約も未だに生きている。


「質問。お前は逃げた後で俺たちに対して何をするつもりだった?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ