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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第23章 霊峰秘薬
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第23話 逃走

 宙を舞った族長の首が床に落ちて転がる。


 ……異様だ。

 首を切断された死体なんてこれまでの冒険で何度も見て来ているから見慣れてはいる。


「き、貴様……!」


 若が突然の行動に対して詰め寄ろうとしている。

 しかし、頭領たちは全く動揺していない。絶対的な支配者であった者が明らかに死んだ光景を見せられているにも関わらず落ち着き払っていた。


 これは何かある。


「よくもやってくれたな」

「え……」

「族長!?」


 床に転がった頭が言葉を発する。

 あまりに異様な光景にこういった事態に慣れていないノエルが言葉を漏らし、何も聞かされていなかったらしい若がさらに驚いていた。


「フリート、少しは落ち着け」

「ですが、父上……」

「族長はこの程度で死ぬような方ではない」


 父親から宥められて若も少しは落ち着きを取り戻したらしい。

 頭部を失ったはずの胴体が起き上がって転がっていた頭を持ち上げる。そのまま頭部のあるべき場所へ持って行くと切断面が綺麗に修復される。


「どうやらズレもないみたいだな」


 首を撥ね飛ばす前と同様に喋る族長。


「いきなり人の首を刎ねるとか失礼な奴らだ」

「……どうして生きていられる?」

「コイツだよ」


 懐から虹色に輝く飴玉のような物を取り出す。

 あの宝珠には覚えがある。


 蘇生丸――迷宮で膨大な魔力を消費することで生み出すことができる宝物の一つで、他者に使用してもらうことで死んでから1分以内ならどんな状態からでも蘇生させることができる。


 俺も万が一の場合に備えて用意することはできないかと考えた。けれども、今の魔力に余裕がある状態でも俺では用意するのは難しい。


「いや、誰かに使ってもらった様子はなかったぞ」

「使ってもらう必要なんてないんだよ」


 手に持っていた蘇生丸を口の中に放り込んでしまう。


 ――ゴクッ!


 そのまま飲み込んでしまった。

 蘇生丸は決して食べられるような代物ではない。


「こうして体内に入れておけば万が一の場合にオレが死んでも自動で生き返ることができるっていう仕組みだよ」

「そういう事か……」


 色々な事が判明した。

 【迷宮魔法:鑑定(アナライズ)】は迷宮主(ダンジョンマスター)迷宮眷属(ダンジョンサーヴァント)といった迷宮に関連する人物や物に対して使用することができない。

 にも関わらず族長を鑑定することはできた。


 何故なのか?

 迷宮の外で得られる情報では理由までは分からなかった。


 だが、今になって分かった。

 族長は体内に迷宮から得られた『蘇生丸』を入れており、『蘇生丸』の影響下にあったために【鑑定(アナライズ)】の対象下にあったという事だ。


 そして、俺たちみたいな強者を相手に交渉を自信満々にできた理由。

 交渉が決裂した場合には殺されても文句を言えない事をしてきた。万が一の場合を考えるのなら殺されない方法を考えるべきである。

 だが、族長は殺されても問題がなかった。

 殺されても生き返ることができるのなら恐れる必要などどこにもない。


「だったらもう一度殺すだけだ」

「それぐらいの対策はしているに決まっているだろ!」


 新たに取り出した真っ白な宝珠。

 それを握りしめると砕いてしまった。


「今のは――」

「これも迷宮から得られた物だから知っているだろう」


 転移の宝珠――所持品を含めて使用者を予め設定しておいた場所へと空間転移してくれる魔法道具。

 迷宮の下層ともなれば1階層を攻略するだけでも何日も掛かってしまう場合も考えられ途中で食糧が尽きたり、予想よりも強い魔物やお互いの相性などによって魔物に襲われたりして窮地に陥ることもある。

 そんな緊急事態などによって拠点へ帰らなければいけない時に使用する魔法道具。


 魔法道具が砕かれたことで発動して族長の体が淡い光に包まれる。

 光に包まれることこそ魔法道具が発動された前兆であり、この状態になってしまうと物理的にも魔法的にも干渉することができなくなってしまう。


「しばらくおさらばさせてもらおうか」

「自分だけ逃げるつもりか!?」

「いいや、オレたちだ」


 転移の宝珠は使用者しか移動することができない。

 里にどれだけの人間がいるのか知らないが、少なくとも100人以上はいるはずだ。いくら『若返り薬』の素材や『蘇生丸』に比べれば入手難易度が低い『転移の宝珠』とはいえ、それだけの人数に渡せるはずがない。


「使うのはオレ一人だ」


 屋敷内にいた頭領と若が淡い光に包まれる。

 人だけではない。屋敷そのものが淡い光に包まれてしまっている。


「いや、屋敷だけじゃないな」

「その通り。里そのものが転移対象だ」


 おそらく里の中で光に包まれていないのは俺たちだけだろう。


「この里はオレが一人で作り上げた。里にいる連中も里にある物も全てがオレの所有物だ!」


 普通ならそんな理屈は通用しない。

 いくら使用者が他者を自分の所有物だと認識したところで相手は自我がある歴とした生きた人間である。相手の認識に阻まれて魔法道具の対象とすることができない。


 だが、この里の特殊性が可能にした。

 里にいる人たちは全員が族長に道具のように扱われる事に対して何の疑問も抱いていなかった。若のように反抗したい若者はいるのかもしれないが、命令されればすぐに収めてしまうような認識だ。大半がさっきあった女性のように命令されれば子供ですら捨てられる人間。


 所有している側だけじゃない。

 所有されている方も所有物だと認識している。

 だから、魔法道具の効果対象になることができた。


 このままだとどこにあるのか分からない別の拠点へ逃げられる。


「切り札っていうのは用意しておくものだ」

「クソッ……!」

「ハハハッ、さらばだ!」


 ……そろそろいいかな?


「喰らい尽くせ、次元喰い(ディメンジョンイーター)


 床に描かれる魔法陣。

 そこから人の顔ほどの大きさをした黒い球体の魔物が出て来て浮かび上がる。


「何だ、その魔物は……? だが、今さらどんな魔物を出したところで!」


 ――アヒャヒャヒャヒャヒャ!


 不気味な笑い声が響き渡る。

 黒い魔物の前面が縦に割れて口のようになっている。


 ――パリン!


 まるでガラスが割れるような音と共にレンゲン一族を包み込んでいた光が消失してしまう。


「どういう……」

「こいつの仕業だよ」


 次元喰い(ディメンジョンイーター)が甘えるペットのように顔の近くへ移動してくる。

 生理的嫌悪感を抱かせるような見た目をしているが、本人は至って無害な魔物なため慣れればじゃれることだってできる。


次元喰い(ディメンジョンイーター)は、攻撃力は皆無だけど結界なんかは問答無用で噛み砕く事ができる能力を保有している。結界っていうのは空間魔法の一種だ。だから、こいつに掛かれば空間を強制的に移動する魔法道具も意味をなさなくなるのさ」

「まさか……」

「ああ、『転移の宝珠』に使われていた全てのエネルギーは次元喰い(ディメンジョンイーター)が喰った」


 喰った結果――別拠点への移動は強制的に中断された。


「クソッ……!」


 族長が恥もなく屋敷の奥へと逃げる。

 逃げる為の魔法道具が他にもあるのか、単純に追い詰められた事から逃げ出してしまっただけなのかは分からない。

 しかし、逃げ出した事からこの場でできる事は何もないと判断できる。


「逃がすか!」


 逃げ出した族長を追う。

 それを阻むように4人の頭領が立ち塞がるがアイラとイリスによって弾き飛ばされていた。

 それなりには強いのだろうが迷宮眷属の敵ではない。


「ぐべっ!?」


 背中を足で押さえ付けて床に叩き付ける。


「お前が言ったように切り札は残しておくものだ。最初にお前自身を【鑑定】した時に屋敷も【鑑定】させてもらっていたんだよ。で、屋敷のそこら中に魔法道具が置かれていた」


 どの魔法道具を使われてもいいよう事前に対策を考えていた。

 だからこそ『転移の宝珠』を使われてすぐに次元喰い(ディメンジョンイーター)を【召喚(サモン)】することができた。


「あれだけ手間をかけさせられたんだから簡単に死ねると思うなよ」

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