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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第23章 霊峰秘薬
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第19話 クレバス

 キョクレイ山七合目。


 昨日までの間に降り積もった雪により腰まで到達しており、雪を掻き分けながら進まなければならなくなっていた。

 メリッサが炎で溶かし、イリスが溶けて流れた水を横へ押し流している。

 ここまで深くなると魔物も出現しなくなるらしく、途中からは全く襲撃がない。


 ……いや、気のせいだったみたいだ。

 雪の上を飛び跳ねるように移動している大男がいる。全身を白い毛に覆われた全長3メートルを超えるオッサン。明らかに人ではないが、見た目は間違いなく人間そのものだ。


 雪男(ビッグフット)

 そういう魔物が実在しているとは聞いた事があったが、迷宮にはいない魔物だったので見た事はなかった。


「そろそろ俺が戦う」


 目的地の近くまで来ているはずだ。

 全ての戦闘を眷属たちに任せてしまうと「働いていないのでは?」という気分になってしまう。


 剣を抜く。

 すると、こちらの戦闘意思を確認した雪男(ビッグフット)が腕を地面について身を低くすると口を大きく開ける。


 ……なんだ?


「ボゥッ!」


 雪男(ビッグフット)の口から咆哮が放たれる。

 空気が振動し、地面に積もっていた雪の表面を吹き飛ばす。


「悪いが付き合ってやるつもりはないぜ」


 斬撃を飛ばして咆哮をまとめて斬り飛ばす。

 咆哮と斬撃によって俺と雪男(ビッグフット)の間にあった雪のほとんどが消失している。

 浅い雪の上を一気に駆け抜けると雪男(ビッグフット)の体を上下に両断する。


「雪の上で戦うことにさえ気を付けていれば雪山でも十分に戦えているな」


 雪男(ビッグフット)から離れて剣を鞘に納める。


「がぁ!」


 両断されたはずの雪男(ビッグフット)が吼える。


「チッ、まだ生きているのか」


 咄嗟に鞘へ手を掛ける。

 しかし、雪男(ビッグフット)は既に息絶える直前で出来る事は何もない。それでも最後の力を振り絞って咆哮を放つ。けれども、方向を定められていない咆哮は地面へと落ちて行く姿勢のまま地面へと放たれる。

 雪が吹き飛ばされ地面に穴が空いていた。


「驚かせるなよ……」


 地面に落ちた雪男(ビッグフット)の上半身はそれっきり動かなくなる。

 杞憂に終わったと警戒を解く。


「大丈夫だった?」


 急な攻撃だったため心配したアイラが近付いて来る。


「ああ、問題な――」


 地面がグラグラと揺れている。


「まさか、地震!?」


 足場が覚束なくなる。


「いいえ、そうではありません!」

「全員耐える」


 後ろでメリッサとイリスが叫んでいる。

 突如として足場が消失した。


「は?」


 谷底へと真っ逆さまに落ちて行く。

 どうやら谷の上に雪が積もっただけの場所で戦闘をしてしまったらしく、戦闘の影響で崩落してしまったらしい。


「これがクレバスっていうところか。後で迷宮にも追加しておこうかな」


 上層の方に設置することで探索者の警戒心を強めることができるかもしれない。


「……って、今はそんな事を言っている場合!?」

「そうよ!」

「仕方ないな」


 クレバスの上である事にも気付かずに派手な戦闘をしてしまった自分にも落下の責任はある。

 腕を伸ばして近くにいたアイラとノエルを抱える。


「お前ら二人は自分たちでどうにかしろよ」


 上の方にいるメリッサとイリスに声を掛ける。

 あの二人は落下中であっても余裕があるらしく、既に魔法を駆使して減速に入っていた。二人の間でもメリッサの方に余裕があるらしく風で揺れるスカートを手で押さえていた。対称にイリスはそこまで気が回っていないらしくスカートの内側が見えていた。

 普段はそれ以上の光景を見ているはずなのだが思わず視線が引き寄せられる。


「イリス、マルスが邪な目を向けているわよ!」

「落下中にどこを見ているの?」


 アイラが上にいるイリスに注意を促し、ノエルが俺の頬を抓る。

 二人とも余裕があるな。


「そろそろ着地するぞ」


 風が靴の裏に渦巻き、谷底に衝突する直前に俺たちの体を押し上げる。

 抱えていたアイラとノエルを下ろす。アイラは魔法に対して相性がいいとは言えないし、ノエルは使える魔法が特殊なので咄嗟に使えたかは怪しい。


 メリッサとイリスも着地する。

 すぐにイリスから脛を蹴られる。


「……んんっ! 随分と落ちて来た」


 イリスが見上げながらそんな事を言った。

 脛を蹴った事と理由に関しては言及するつもりがないらしく俺からは目を逸らしていた。


「そうだな」


 目測で100メートル。

 魔法を駆使すれば登れない訳ではない。


「だけど、この道がどこへ続いているのか気にならないか?」


 谷底は前と後ろに道が続いていた。

 幅は10メートル。

 かなり蛇行しているらしく、少し進んだところで道が曲がっており、その先がどのようになっているのかは分からなくなっていた。


 先の見えない道。

 思わず冒険心が擽られる。


 何よりも道の先からは得体の知れない魔力が感じられる。


「ちょっと見てみないか?」

「時間の方はいいのですか?」

「今日の内なら毒についても問題がないはずだ。それにそろそろ目的地に着いてもおかしくないんだから隅々まで探索した方がいいだろ」

「……ええ、私は特に反対しません」


 アイラやイリス、ノエルからも反対の声は上がらなかった。

 谷底の道を北へと進んで行く。


「こういう時こそシルビアさんがいればいいのですが……」

「いない奴を強請ったところで仕方ない」


 留守を任せているシルビア。

 こういった探索においてはシルビアが最も実力を有しているのだが、妊娠している者を雪山へ連れて来る訳にもいかないので屋敷で留守番をさせていた。


 もちろん留守番をしているシルビアにも仕事がある。

 アリスターにいた間諜は周囲に潜んでいたのも含めて全て排除した。

 しかし、新たに追加で派遣されて来ないという保証もない訳で継続して監視させていた。


『今のところは怪しい人物はいません』

「なら、いいんだよ」


 既に20人近い敵を捕らえている。

 どれだけの利益を見込んでいるのか知らないが、これ以上の派遣は無駄に犠牲を出すばかりで無意味だと理解しているはずだ。


「ただ、監視作業はそれほど負担にはならないとはいえ疲労を感じるようならすぐに休めよ」

『ありがとうございます』


 アイラと違って妊娠時の影響が強いシルビア。

 最近では味覚の方にも影響が出て来てしまって料理を作る時が大変だとボヤいていた。できれば助けになりたいところだが、男の俺が本当に協力してあげられる事は少ない。


 何よりも……


『あ゛ああ~~~~』

『あ、ごめんね』


 シエラが泣き出してしまったので駆け寄る。

 すぐに泣き出した理由を判断するとオムツを変える。既に母親であるアイラに代わって何度もしている作業なので手慣れたものだ。


「大丈夫だった?」

『ええ、オムツを変えたらすぐに寝たわ』

「よかった」


 アイラも母親としてシエラの傍にいたいのだが、今は俺の護衛を優先させてシルビアに全てを任せていた。

 シルビアも数カ月後に備えて必要になる作業なので率先して手伝っている。


『すみません。そちらへ行けなくて』

「気にするな。お前に頼れない事は以前から分かっていた事だ」

『ですが……』

「いくら母さんたちがいるとはいえ、シエラが最も安心できるのは両親である俺たちだ。傍にいられない俺たちに代わってお前が傍にいてくれるだけで十分に助かっているんだ」


 実際、家族だと認識している祖母たちであってもシエラは時折不安になってしまう事がある。

 そうなると母親の誰かに抱かれるまで泣き止むことはない。


「そっちは任せた」

『はい』

「それに、どうやら終点に辿り着いたみたいだ」


 谷が終わり、洞窟のような洞穴がポッカリと空いていた。


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