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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第23章 霊峰秘薬
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第13話 道具の価値

「報告を聞かせてもらおうか」

「は?」

「ワシの予想ならばフリートの到着は数日も先の話だったはず。それが、こんなに早く帰って来た。後ろに目的の人物がいる事から任務に失敗した訳ではないようだが、あまりに早過ぎる。事を起こしてから2、3日といったところじゃろう。一体何があった?」

「かしこまりました」


 アリスターで何があったのかを語る若。

 俺の身内を誘拐して脅迫しようとしたが優秀な護衛が付いていた為に失敗してしまった事、そこで止む無くターゲットを変更してミリアムさんを毒で苦しめるようにした事。

 そして、その過程で仲間が全員捕まってしまった。


「そうか」


 全ての報告を聞き終えた族長は一言だけ呟いた。


「それだけですか!? 彼らは私を助ける為に犠牲となりました。何卒早急な救助をお願いします」


 必死に訴える若。

 若にとっては自分を助ける為に犠牲となった者たち。少しでも早く助けようと必死になっていた。

 こちらとしても人質を解放する程度の事で何らかの譲歩が得られるのなら安い物だった。


「別に必要ねぇだろ」


 しかし、族長にとっては全く興味のない事のようだった。

 族長だけではない。左右にいる里の幹部と思しき連中も気にした様子がない。


「どうしてですか!?」

「人質を解放するなら何らかの譲歩をしねぇとならねぇ。だが、ワシはそんな事をするつもりはない」

「……!」


 族長の言葉に何も言えなくなる若。


「いいか。里に住む連中の為に里があるんじゃない。里の為に人がいるんだ。人がどれだけ犠牲になろうとも里の存続を優先させねぇといけねぇ。悪いが、駒程度に構っていられる時間はねぇんだよ」

「……分かりました」


 若が唇を噛み締めながら引き下がる。


「いいのかよ」

「この里では族長の言葉が絶対だ。族長が考慮しない、と決めてしまったのなら私がどれだけ言葉を並べたところで無意味だ」


 あれだけ食い下がっていた割に族長の決定には従う。

 族長の隣に座る連中も同じ考えらしい。


「あんたたちは反対したいのか?」

「そう言えば自己紹介がまだでしたな。私共は、里にいる者をまとめる役割を担う頭領衆です。それなりの権限を有しておりますが、族長の決定を覆せるほどではありません」

「そう言う訳なのよ」


 右端に座った男と左端の女が言う。

 4人の頭領によってまとめられていたと言うのならば俺に捕らえられた者たちもこの中の誰かの部下だという事になる。


 部下を簡単に切り捨てる。

 このままだと捕まえた事に対するメリットがないというのもあるが、それ以上にそんな考えが気に入らない。


「……捕らえた連中は、寿命が尽きて死ぬまで牢の中に閉じ込めて1日1個のパンだけを与える事にします。魔力を搾取し続けられて満足に体を動かす事も出来ない状況、それでも空腹には耐えられなくてパンを手にしてしまう。そんな生活になってもいいんですね」

「もちろんだ。それが族長の決定だ」


 動揺した様子もなくこの屋敷まで案内した頭領が頷く。


『主、無意味です』

『どういう事だ?』

『彼らは本気で族長という人物に従っています』


 念話でメリッサが語り掛けて来る。

 彼女が言うにはまだ若い世代である若はそこまでではないが、若の親世代には族長の決定に従う事に対して迷う素振りが一切見られないとの事。

 これは、洗脳に近い教育が施された結果らしい。


『つまり、あの人質は使えないっていう事か?』

『そうなります。あるいは、族長が決定を覆してくれれば』


 中央で座る老人を見る。


「ふぇふぇふぇ……」


 族長は自分が見られている事に気付いて笑っていた。

 こちらの心情を見透かしている。


『それは無理。今まで強欲な貴族とかにも会って来たけど、目の前にいる爺さんからは同じような気配が感じられる。あの爺さんは自分の利益になるような事の為なら不要になった物を切り捨てる。たとえ、それが以前の自分の部下だったとしても』


 イリスには族長がどんな人物なのか分かった。

 強欲な人物が故に一度下した決定は簡単に覆すような真似はしない。


「あんたたちのスタンスは理解した。族長に道具のように使われる事に対して何も思うところはない訳だな」

「……」


 何も答えない。

 無言を肯定として捉える。


「お前も本当にそれでいいんだな?」

「もちろんだ」


 若は、表情は苦々しくはあったものの頷いた。

 ……これで言質は貰えた。


「分かった。あいつらの処分はこっちで適当にやっておく」


 そろそろ本題に入るべきだろう。


「で、俺に何をやらせたい?」


 人を脅してまでさせたい事。

 尋ねると族長が立ち上がって奥にある棚の方へと歩いて行く。

 最初から用意されていたらしく、すぐに目的の本を手に戻って来る。


「これは?」


 俺たちの前に置かれた本を手に取ってみると栞があるページに挟まれていたので本を開いてみる。

 中にはいくつかの素材と思われる名前が羅列されていた。


 問題は、羅列されている素材の貴重さ。

 ・神樹の葉

 ・神獣の髭

 ・ヘスティア鉱石


 他にもいくつか記載されているが、途中で全部を確認するのを諦めてしまった。


「まさか、これを用意しろとか言わないよな」

「その、まさかだ」

「ふざっ……」

「ふざけないで下さい!」


 メリッサが声を荒げた。


「ここに書かれている物のいくつかは既に失われていたり、数年に1度だけ手に入れたりするような物です。とても数日で手に入れるのは不可能です」

「なら、数年も掛けてでも手に入れればよい。それに、迷宮主ならば既に失われた物でも手に入れる方法がない訳だろう」


 たしかに製法が失われた物でも【魔力変換】した事のある物ならば魔力さえ消費すれば手に入れる事ができる。

 そういう理由もあって俺たちを利用したかったのだろう。


「エスタリア王国の迷宮主は、政治にも深く関わっているせいで脅す為に付き合い過ぎるとこっちまで火傷する事に成り兼ねない。グレンヴァルガ帝国の皇帝も同じ理由だな。ガルディス帝国のガルガンチェアにいる迷宮主はワシでもコンタクトすることができなかった」


 その情報に思わず息を呑んでしまった。

 これまでノエルの受けた神託に頼ったり、冒険者ギルドを通して様々な情報を集めたりして他の迷宮の主について調べようとしていたが、全く分からなかった。それがレンゲン一族は既に掴んでいた。


 ちゃっかりメティス王国の王太子が抜けられているが、あの迷宮は浅いので頼りにはしなかったのだろう。


「他にも候補はいたが、最も頼り易そうだったのがお前さんたちだっただけだ」


 族長が本を開いて描かれた7つの素材を示す。


「これらを集めてきたら解毒薬を渡す事にしよう」


 言質はもらえた。

 しかし、素材を集める者として確認しなければならない事がある。


「こんな貴重な代物を何に使うつもりだ?」


 素材が危険な事に使われてしまうのなら何か別の方法を考えなくてはならない。


「悪いが、使用目的について教える事はできない。本気で解毒薬が欲しいなら、お前さんたちは必死に集めればいいだけだ」


 人質を解放する為には目的など気にせず素材だけを引き渡せ。

 ミリアムさんの事を思えば使用目的など気にしている場合ではない事は確かだ。


『これは……』


 迷宮核が素材の一覧を見て気付いた。


『表情に出さないよう気を付けて』


 なるべく平静を装う。

 使用目的に気付いた事を悟られてしまうとこちらのアドバンテージが失われる事になる。


 今は余裕から笑みを浮かべさせておいた方がいい。

 それが油断に繋がる。


「分かった。使用目的については気にしないようにする」

「いいだろう」

『厄介だよ。あの素材で作る事ができる物で思い当たるのは「若返り薬」だよ』


 ……表情に出さないよう注意しないと。

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