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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第23章 霊峰秘薬
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第8話 砂喰い

「ここは……?」


 地面に倒れていた3人の男の内の一人が目を覚ました。

 彼らはエルマーたちを誘拐しようとしたところをシャドウゲンガーによって失敗させられ影の中に引き摺り込まれた後は脱出も叶わずに体を圧迫する謎の力に意識を失わされた。


「ど、どこだここは!?」


 そして、目を覚ました彼は目の前の光景に驚いた。

 驚いた彼は仲間に縋るべく近くで意識を失って倒れていた仲間の体を揺すって起こそうとする。


「う、うぅん……」


 仲間がゆっくりと体を起こす。

 一人が起きた事を確認するともう一人も起こす。


「なっ……!?」


 意識が覚醒した男が言葉を失う。

 3人ともが同じような反応をしている。


「砂漠、だと……」


 見渡す限り砂の海が広がっていた。

 空には灼熱の大地を作り出している太陽が燦々と輝いており、地平線が揺れているように見える。もちろん太陽や空は壁や天井に映し出された光景であり、ここは迷宮の内部だ。


 状況が呑み込めたみたいなのでそろそろ姿を見せる事にしよう。


「ようこそ、迷宮の地下53階へ」


 【転移】で男たちのすぐ傍まで移動すると男たちが一斉に警戒して腰にある武器へと手を伸ばす。しかし、腰に武器はなく空振っていた。拘束した時に武器は回収させてもらっている。

 3人の男も武器がない事には気付いて諦めた表情になる。


「どういうつもりだ?」

「それはこっちのセリフだ。人が保護している子供を誘拐しようとした。一体、何が目的なのか喋ってもらおうか」

「……」


 男たちは無言。

 迷宮へ連れて来て【鑑定(アナライズ)】を行った結果、ある程度の情報は既に入手している。しかし、迷宮で生まれた魔物ほどの情報を手に入れられる訳ではないので、目的や背景などについては分かっていない。

 だからこそ情報を吐かせる為に迷宮まで連れて来た。

 けれども、男たちの様子を見る限り素直に情報を吐いてくれるようには思えない。


「仕方ない、か」


 こうなると脅す必要が出てくる。


「素直に喋った方が楽になれるぞ」


 【召喚】を使用して魔物を喚び出す。

 現れたのは砂で作られた人型の魔物。体は頭の上から流れ出て来る尽きる様子のない砂で覆われており、人の形をしているもののシャドウゲンガーと同じように顔のない魔物――砂喰い(サンドイーター)。


「ひっ……!」


 突如現れた謎の魔物に誘拐犯たちが後退る。


「もう一度聞く。お前たちの目的を言え」

「……」

「そうか」


 無言の答えを受け取る。

 次の瞬間、砂喰い(サンドイーター)が一番近くにいた誘拐犯に覆い被さる。


「な、何だ……がぁ!」


 最初は覆い被されても平気な様子だった誘拐犯。しかし、覆い被された数秒後には苦しみ始めた。

 やがて、砂喰い(サンドイーター)の体から溢れる砂が誘拐犯の体を覆い尽くして姿が見えなくなってしまった。


「俺の要求が聞き入れられなかった時、あんたたち二人もこんな風になってもらう事になる」

「……!」


 砂喰い(サンドイーター)に退いてもらう。

 すると、誘拐犯のいた場所に何かが倒れていた。

 いや、それは砂喰い(サンドイーター)に襲われた者の成れの果て。


「砂喰い(サンドイーター)が喰らうのは水分だ。触れた水は蒸発したように一瞬で消え、相手が生物なら触れるだけで干からびるまで水分を吸い尽くす」


 ミイラのように枯れ果ててしまった誘拐犯。

 たった数秒間だけ覆い被されただけで全身の水分を吸い尽くされて死んでしまった。


 邪魔なのでミイラを適当な場所に投げ捨てる。

 柔らかい砂地は上から降って来たミイラを呑み込んで砂地の中へ引きずり込んで行く。


「こんなゴミみたいに扱われたくなかったら正直に話した方がいいぞ」

「悪いが、それでも言えない」

「ほぅ」

「オレたちは裏切るような真似はしない。任務に失敗した際には殉じる覚悟が既にできている」

「なるほど」


 こいつらはこいつらで覚悟を持って任務に臨んでいる。

 そして、その任務の内の一つが誘拐だった訳だ。


「お前らの事情は分かった」


 だから、尋問の方法を変える。


「連れてこい」


 迷宮に現れるイリス。

 その手には一人の青年の服が握られていた。


「若!」


 青年と誘拐犯たちは知り合いだった。


「実は、お前たちの所属組織は分かっているんだ」

「え……」


 迷宮へ連れて来てから【迷宮魔法:鑑定(アナライズ)】を行えば誘拐犯たちのステータス欄に『職業:レンゲン一族間諜』という文字が見えた。

 間諜――敵の様子を探り、味方に情報を伝える者。時には潜入したまま情報操作や破壊工作なども行う裏方に徹する人物の事だ。


 そんな人物がどうしてアリスターにいるのか?

 以前、戦争で活躍し過ぎた際に相手国だった帝国だけでなく、他の国々からも間諜が忍び込む事があった。

 その時は、迷宮の力もあって退ける事ができ、皇帝との約束もあって排除する事に成功した。その後は、定期的に迷宮と都市を繋げて間諜が紛れ込んでいないか調べていたが、最近では全く見掛けなくなっていた。少なくとも最後に確認した1カ月前には間諜の姿はなかった。


 ところが、誘拐騒動があった直後に迷宮と繋げて緊急に確認してみたところ街に10人もの間諜が紛れ込んでいた事に気付けた。

 明らかにこれまでとは違う系統の間諜だ。


「若、なぜこのようなところに!?」

「まさか出て来たんですか!?」


 誘拐犯たちから『若』と呼ばれる青年。

 誘拐犯たちのステータスには『職業:レンゲン一族間諜』があるが、青年のステータスだけには『レンゲン一族族長の孫』という文字まで見えた。


 誘拐の実行犯たちも含めて多くの間諜が街中で様々な情報を集めている中、青年だけは街の宿屋で集められてくる情報を整理・精査していた。精査できる立場にいる人物――間違いなく実行犯たちよりも上にいる人物だ。

 という訳でステータスの事もあって拉致させてもらった。


「悪いが、街の中にいた間諜については全員捕縛させてもらった」

「まさか……」

「もっと言うなら『レンゲン一族全員』だ」


 ステータスを偽装するのは特殊なスキルや道具が必要になる。特別に必要もないのに普段から偽装し続けている訳もないので自分たちのスキルを信じて拉致する。

 後ろに回り込んで触れて【転移】するだけで迷宮まで移動する事ができる。


「さて、俺のスキルで得た結果を信じるならこの青年はお前たちにとって守らなければならない相手だ。次は、こいつに犠牲になってもらおう――」

「――待て!」


 イリスから受け取った青年を砂喰い(サンドイーター)の近くまで運ぼうとする俺を誘拐犯が止める。


「止せ!」

「で、ですが若……」

「任務に失敗した以上、覚悟はできている」

「そいつは本気であなたを処分するつもりでいます」


 先ほどの誘拐犯のようにゴミみたいに処分する。

 というよりも今回の処刑方法。今まで試した事がなかったのでシエラを誘拐しようとした犯人を使って既に試している。

 こいつら二人が話さなくても他の連中に喋らせればいい。


「問題ない」

「ですが……」

「既に私は目的を達成している」

「なに?」


 今度は俺が足を止めてしまった。


 目的を達成している?


 そもそも、こいつらの目的とは何だ?

 それを知る為に尋問をしているのだが、こいつらの覚悟を知ると口を割りそうにないという事ばかり確信してしまう。


「あのような化け物みたいな護衛がいた事に気付けなかったのは失敗だった。だが、このような所で私たちを尋問しているような余裕が本当にあるのかな?」


 護衛のいない人物が襲われている。


 誰だ?

 屋敷にいる人間は全員に護衛を張り付かせている。そうなると屋敷外の人間が対象という事になる。


「チッ……」


 思わず舌打ちしてしまい持っていた青年を放り捨てる。


『ご主人様、ミリアムさんが――』


 シルビアからの念話。

 既に手遅れだったらしい。

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