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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第23章 霊峰秘薬
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第4話 子供たちの奮戦―中―

「こちらが報酬になります」


 依頼を引き受けた時に担当してくれた受付嬢から報酬を貰うエルマー、ジェム、ジリーの3人。

 コボルトを倒した後、真っ直ぐ街へ戻って来るとすぐに冒険者ギルドを訪れて依頼にあった薬草を渡して依頼を完了させていた。


 報酬は銀貨3枚。

 かなり疲れる依頼だった割に少ない報酬。

 それでも子供にとって銀貨3枚は大金であり、初めて自分たちの力だけで稼いだお金。


「ありがとうございます」


 エルマーが受付嬢にお礼を言う。

 3人で稼いだお金なため一人銀貨1枚で分ける。

 もっとも使い道は決めてあるので、あくまでもそれぞれに分けただけだ。同じ目的に使うつもりだったとしてもそれぞれが渡したという事実が欲しい。


「それから途中でコボルトを倒したのですが、買い取りをしてもらえますか?」

「え……」


 受付嬢が呆然としている間に背中のリュックからコボルトの死体を取り出す。

 コボルトは胸を鋭い物で抉られており、確実に絶命していた。傷口からは血が流れてくるような事もなく、きちんと血抜きも成されている。


「どうやって倒したの?」

「僕とジェムが協力して戦って最後にジリーが魔法で仕留めました」


 正直に倒した方法を説明する。

 こんな所で誤魔化したところで得られる物など何もない。


「傷を見る限り最低限の威力の魔法だけで仕留められている。素材の状態も良好だし、これは将来有望そうな子供ね」

「えへへっ」


 トドメを差したジリーが照れている。

 スラム街に居た頃はこんな風に誰かに褒められる事などなかった。


「でも、コボルトと戦うのは危険だから子供がしちゃだめよ」


 受付嬢が諭すように叱る。

 実際、エルマーたちぐらいの年齢の子供だけでコボルトに遭遇した場合には全員が死んでいることだって覚悟していなければならない。

 魔物とは人にとってそれだけ脅威となる存在だ。


「魔物と戦うのは、もっと高ランクの冒険者の仕事。分かった?」

「あ、自分たちから魔物の縄張りに入った訳じゃないんです」


 薬草を採りに行った場所で遭遇した事を告げる。


「……そう。なら、私が怒るのは間違っているわね。ごめんなさい」

「いえ、僕たちを心配して叱ってくれたのは分かりましたから」


 その後、討伐報酬と買取報酬を貰う。

 合わせて銀貨3枚。


 コボルトの体で使えるのは鋭い爪や牙。それに内臓の一部が薬の素材として用いられる事がある。

 全身を持ち帰る必要はなく、必要な部位を持ち帰るだけでよかった。逆に全身を持ち帰ってしまったせいで解体の手間をギルド職員に掛けることになってしまったため査定額から手数料が引かれることになってしまった。しかし、魔物に関して知識を持たない子供たちでは必要な素材を傷付けてしまう可能性もあるため自分たちで解体までしてしまわない方が良かったりする。


「今日は帰ります」

「また頑張ってね」


 受付嬢がカウンターの向こうから手を振っている。

 エルマーたちも自分たちに好意的な受付嬢に対して手を振りながらギルドの出口へと歩いて行く。


 ……後ろを向いたまま。


「へぶっ」


 前を向かずに歩いているとジェムが大柄な男の腕とぶつかってしまった。


「ごめんなさい」

「ごめん、だと……」


 ぶつかった男が呟く。


「謝った程度で済まされると本気で思っているのか? テメェがぶつかったせいでこっちは怪我をしているんだぞ」

「そんなはずは……」


 大柄な男がぶつかった左腕を押さえていた。

 たしかにジェムは大男とぶつかった。だが、軽く接触する程度で、逆にジェムの方が弾かれていた。

 とても怪我をするとは思えなかった。


「これは治療費を要求しねぇといけねぇな」

「治療費――」

「具体的に言うなら金貨10枚ぐらいは必要だな」

「なっ……!?」


 そんな大金が払えるはずがなかった。

 そもそもぶつかったことによる怪我程度の治療にそこまでの大金が掛かるはずがない。


「なんだ。人にぶつかっておいて文句があるのか?」

「そうだぜ。謝るつもりがあるなら金を出せって言うんだ」


 大柄な男の後ろにいた二人の男が囃し立てる。

 二人とも脅している事に対して罪の意識などないように嗤っている。


「ガキに払えないなら親に払ってもらうしかないな」


 最初から保護者に払ってもらうつもりだった。

 依頼を終えてそこそこの報酬を手にしているようだったが、子供が稼げる金額などたかが知れている。


 ――どうするべきか?


 マルスたちに知られて迷惑を掛けたくない。


「待ちなさい!」


 ジェムが悩んでいると一人の女性職員が割って入って来た。


「ルーティさん!」


 その女性は、ギルドに入って来たばかりの時にパレントにある冒険者ギルド以上に大きな建物と大勢の人に困惑していたところを担当してくれた受付嬢の所まで易しく案内してくれた女性だった。


「冒険者ギルドでの冒険者同士の諍いは厳禁ですよ」

「おいおい……俺たちは被害者だぜ。治療費を請求するぐらい当然の権利だろ」

「貴方たちは……」


 ルーティが男の言い分に頭を抱えている。

 これ以上は迷惑を掛けられない、とエルマーが前に出る。


「何だ、お前は」

「貴方たちは怪我をしたから治療費を払って欲しい、そう言っているんですね」

「さっきからそう言っているだろ」

「いえ、あくまでも確認です。『自分の半分以下の体重しかない相手とぶつかって怪我をしてしまうような貧弱な体をしているから治療費を払って欲しい』そういう事で間違いないですね」

「なっ……!」


 あまりに馬鹿にしたような言い方に男たちが言葉を失う。


「ぷっ」


 そして、エルマーの言葉を聞いたルーティは笑いを堪えていた。


「そうですね。そういう事情なら仕方ありません。ですが、その場合はマードックさんたちの筋肉が見掛け倒しだったという事になるので冒険者ランクは何かの間違いだという事になります。DランクからGランクへの降格でよろしいですね」


 最低ランクのGランクへの降格。

 それは、冒険者にとって死を意味していた。最低ランクまでの降格など事実上の追放処分に等しい罰でも受けなければこれまではなかった事だ。


「それはないだろ!」

「だってGランク冒険者よりも弱いという事ですから最低ランクでも問題ありませんよね」

「ぐっ……」


 反論しようとしていたマードックが言葉に詰まる。

 彼らの意識は正論を唱え始めたルーティへと向いていた。ここで子供が何か行動を起こしたところで何ができる訳でもない。


 だから、誰もエルマーが跳び上がった事に気付かなかった。


 その手から鞘に納まったままの剣が振られる。


「エルマー君!?」

「この野郎!」


 迎え撃つには間に合わない。

 咄嗟に左腕を掲げて防御する。

 剣で叩かれたマードックは平然としていた。


「これがDランクとGランクの差だ。どれだけ攻撃したところでオレにダメージを与えることはできないぜ」

「痛くないんですね?」

「当然だろ」


 マードックが低い位置にいるエルマーに向かって手を伸ばす。


「止めなさい!」


 しかし、ルーティの叫びが止める。


「悪いが大人としてこいつらを教育してやらねぇといけねぇ」

「結構です。教育係ならきちんとした人が付いていてくれています」


 キッパリと断るエルマー。

 するとマードックの顔がさらに険しくなって行く。


「分かっていねぇようだな」

「分かっていないのはそちらです。どうやら教育が必要なようです」

「あ?」

「あなたは治療費が必要なほどの怪我を負った腕で僕の攻撃を防いだ。たしかに僕が全力で攻撃したところで普段のあなたなら平気なのも頷けました。けど、凄い怪我を負っている状態で叩かれたのに全く痛くない?――さすがにおかしくありませんか?」

「……っ!」


 追い詰められ言葉を失うマードック。

 そうなると暴力に出るしかなくなる。


「エルマー君!」


 ルーティがその後の惨状を予想して叫ぶ。

 いくら凄腕の冒険者に鍛えられているとはいえ、子供が大人の手によって攻撃されればひとたまりもない。


「こんなものですか?」

「どうなってやがる!?」


 そこには平然とマードックの拳を手で受け止めているエルマーがいた。

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