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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第23章 霊峰秘薬
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第3話 子供たちの奮戦―前―

今回と次回は3人称視点です。

 3人の子供たちが草原を歩く。

 彼らの名前はエルマー、ジェム、ジリー。

 以前から冒険者として……と言っても街中でもできるような雑事やベテラン冒険者たちの荷物持ちをメインにしている下っ端で登録しているだけの冒険者だったがジェムとジリーに誘われてエルマーも冒険者になった。


 最初の依頼は、薬草の採取。それもかなり簡単な部類だ。

 対象の薬草は街からそれほど離れていない場所にある草原まで行けば簡単に手に入れることができる。

 しかし、そこへ行くためには整備されていない草原を進む必要がある。

 その道のりはかなり疲れる。

 おまけに薬草そのものは安価で取引されるため報酬が安く、体力のある上位の冒険者は引き受けてくれない。


 そのため、こういう依頼を引き受けてくれるのは新人の冒険者だ。

 新人冒険者は苦労の割に少ない報酬に表情を暗くしながら道を歩く。


「こんな自分たちだけで依頼を引き受けるなんて初めて」

「これまでは誰かの手伝いばかりだったもんね」


 ジェムとジリーは陽気に目的地へ向かっていた。

 誰かに扱き使われる事もなければ、横暴に僅かばかりの報酬しか与えられないという事もない。依頼を終えれば報酬はそのまま彼らの手元に残る。


 もっとも、自分たちの懐に全てを入れるつもりはない。


「二人とも、僕たちは少しでも早くマルスさんたちに恩を返す為に依頼を引き受けたっていう事を忘れないで下さいね」

「「はい」」


 エルマーが言うように報酬は彼らの借金返済に充てるつもりだった。

 エルマーは犯罪奴隷として売られそうになっていた時に引き取ってもらった時のお礼として、ジェムとジリーは自分たちの傷を治療してくれた代金。

 事情は違えど借金を抱えていた。


 とはいえ、借金はそれだけではない。


「みなさんには本当にお世話になりっぱなしだもんね」


 ジリーがしみじみと呟いた。

 3人が生きて行くうえで必要な食事や服、屋根のある住む場所などといった物は全てマルスたちが提供していた。屋根のない場所を転々として仕事がない日はゴミを漁る日々だった事を思えばジリーにとっては楽園のような生活だった。


 少しでも恩返しをしたい。

 そう考えた3人は依頼を受ける事にした。


 得られる報酬は僅かだ。

 それでも今の自分たちにできるのはこれぐらいだった。


 3時間ほど歩くと目的地に辿り着いた。


「わぁ!」


 そこには色とりどりの花が咲き誇っていた。

 魔力の関係からこの場所では昔から様々な植物が成長し易く、採り尽くしたとしても数日で元通りになってしまうという驚異的な場所だった。


 今まで見た事がない綺麗な光景にジリーが目を輝かせている。

 こういう所は幼くとも女の子。綺麗な物に対して心が奪われてしまっている。


「ジリー」

「はっ、そうだった! 目的の薬草はどれだっけ?」

「ちょっと待って」


 尋ねられたエルマーが背中のリュックから1枚の紙を取り出す。

 紙には薬草の絵が丁寧に描かれていた。依頼を受ける子供たちの為に冒険者ギルドの受付嬢が手作りで用意してくれた物だ。


 エルマーが屈んで紙に描かれた絵と見比べながら目的の薬草を探す。


「あった」


 薬草には特徴的なギザギザがあったためすぐに見つかった。


「依頼の内容は、これを20束。見つけられる?」

「当然。誰が多く見つけられるか競争しようよ」

「あ、ちょっと……」


 ジリーが止める前にジェムが駆け出してしまった。

 少しでも多く稼ぎたいなどといった自尊心からではなく、単純にやる気に溢れていた。


「よし、こんな物でいいな」


 3人で手分けして探せば数十分もあれば終わる依頼だった。


 だが、ここから再び3時間も掛けて街へ帰る。

 それだけで1日のほとんどが終わってしまう。


「むっ……」


 エルマーが近付く気配に気付いて顔を上げる。

 気配の読み方に関してはアイラに剣術と同じくらいにみっちりと鍛えられていた。


 果たして、姿を現したのは犬の顔をした人型の魔物――コボルトだった。


「どうして、こんな所に……」


 ベテラン冒険者の小間使いとして働いていたジェムには魔物の恐ろしさが分かっていた。


「わたしたちが油断していたね」


 魔物が出没する場所からは離れている為に安全な依頼だとされていた。しかし、その縄張りも絶対ではない。現にこうして魔物は現れた。

 コボルトは基本的に複数体の群れで行動する魔物だ。しかし、3人の目の前に現れたコボルトは1体のみ。おそらく、群れから逸れてしまったために普段は魔物が近寄らない場所へ来てしまったのだろう。


 コボルトとエルマーの視線が合う。

 次の瞬間、コボルト鋭い牙と爪を出して駆け出す。


「ジリーは魔法の準備。僕とジェムで迎え撃つ」

「命令すんなよ!」

「リーダーは僕です。緊急事態にはリーダーの命令に絶対に従うようにってマルスさんからも言われていたはずです」


 いざという時の行動方針については事前に決められていた。

 エルマーは年齢に似合わず賢く、冷静に物事を見られる力があった。対してジェムは魔剣に簡単に手を出してしまった事からも分かるように少しばかり短気なところがあり、あまりリーダー向けではないと判断されてしまっていた。

 そのため保護者であるマルスからエルマーがリーダーに任命されていた。


「二人とも、喧嘩はそこまでにして」


 ジリーの喝が飛ぶ。

 真正面から近付いて来るコボルトに対してエルマーが剣を左から右へ振るう。

 とにかく後ろにいるジリーへ近寄らせない事が大切。そう考えての攻撃だった。


 コボルトが剣を跳び越えて回避する。


「何やっているんだよ!」


 跳んだコボルトに対してエルマーの後ろに隠れるようにしていたジェムが剣を振るう。狙いは腹だ。ジェムに剣を教えてくれたイリスは時間がなかった事もあってとにかく相手に剣を当てる事を優先させるように指導していた。

 イリスの指導の甲斐あって剣がコボルトの腹に当たる。


 斬られたコボルトが地面をゴロゴロと転がる。


「やった!」


 初めて魔物を斬った。

 憧れた冒険者という仕事に少しばかり近付けたような気がした。


 しかし……


「そんな……!」


 斬られた腹を押さえながら立ち上がるコボルト。

 エルマーとジェムが持つ剣はマルスが買ってくれた安物の剣。新人冒険者が持っていてもおかしくないレベルの剣だった。実力のない内から性能の強い剣を持ったせいで剣に振り回されるような事がないようにとの配慮だった。


 ところが、その配慮が仇となった。

 安物の剣ではコボルトを仕留めるには至らなかった。もっともアイラだったなら安物の剣でもコボルトを簡単に斬る事ができていた。それでも、コボルトが生きているのは純粋にジェムの実力が不足していた。


「時間を稼ぎますよ!」


 エルマーが叫ぶ。

 コボルトの注意がエルマーへと向かい飛び掛かる。


 後ろへ跳んで逃げるエルマー。

 地面を叩いてエルマーがいない事を確認するとキョロキョロと首を左右に動かして探している。


「たぁっ!」


 ジェムがコボルトの背後から剣を突き出す。

 紙一重で回避されてしまうとコボルトに蹴られて地面を転がる。

 追撃を掛ける為にコボルトが地面を走る。


「ていっ」


 駆けるコボルトを横からエルマーが剣で叩く。

 コボルトが離れている間に倒れているジェムを守るように立つ。


「お前……どうして」

「僕はリーダーだから逃げる訳には行かないんです」


 二人は決して仲がいい訳ではない。

 理由はなく単純に反発していた。

 それでも、ジリーが間を取り持とうと必死にしている。何よりも自分たちの保護者が同じ人物だから仲良くなろうという努力はしている。


 だから――見捨てるような真似はしない。


「それに、もう終わりです」

「え……」

土柱(アースピラー)


 詠唱を終えて発動された魔法――地面から生えた刺がコボルトの体を串刺しにする。

 子供の剣では致命傷を与えるには至らなかったが、魔法による攻撃はコボルトの息の根を確実に止めていた。

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