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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第23章 霊峰秘薬
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第1話 検査

 屋敷のリビングでのんびり本を読んでいるとシルビアが帰って来た。

 基本的に遠くへ出掛けている時でもない限りは思い思いに過ごしているので誰かだけが出掛けている、というのは珍しい事でもない。


 特にシルビアの場合は夕食の買い出しなどで外出することが多かった。メイドを自称する彼女に言わせると主である俺を家事に必要な買い物に付き合わせるのは言語道断らしい。ただし、俺の服や私的な買い物には付き合わせたがる。


 ただ、今回はメイドとしての仕事として外出していた訳ではない。


「ただいま戻りました」


 ゆっくりと歩くシルビア。

 最近はメイドとして忙しく働く事も少なくなって来たので運動不足気味になっていた。

 それというのも理由は彼女のお腹にあった。


「大丈夫か?」

「はい。これぐらいなら大丈夫です」


 随分と大きくなったお腹。

 自分で日毎に大きくなって行くのを見ていたのがアイラだけだったので、どうしてもアイラと比べてしまうのだが、妊娠の兆候が乏しかった事を含めてもシルビアのお腹は明らかに大きくなっているように見える。


「大丈夫ならいいんだよ」

「心配性ですね」


 クスクス笑っているシルビア。

 見ている事ぐらいしかできない立場としては心配で堪らない。


「……ん!」

「どうしたの?」


 俺の隣にはシエラが庭の景色を眺めていた。

 屋敷で生活するようになった3人の子供。庭では子供たちが楽しそうに遊んでおり、その光景を羨ましそうに見ていたのだが、シルビアが帰って来た瞬間にシエラの興味はシルビアへと移ってしまった。

 そして、シルビアの姿を確認すると両手を広げて抱っこを要求する。


 シルビアも母親の一人として当たり前のように抱き上げる。

 シエラの方も離れないようにガシッとしがみ付く。


「あのね。シルビアお母さんは疲れているの。だから、お母さんの方にいらっしゃい」


 アイラがシエラに手を伸ばす。


「やぁっ!」


 それをシエラが顔を背けてまで全力で拒んだ。


「え……」


 その姿を見た瞬間、アイラの体から力が抜けてしまった。


「シ、シエラが……」


 今みたいに強く拒絶されたことなどなかった。

 あまりのショックに俯いてしまうが、すぐに顔を上げる。


「お母さんの事好き?」

「……」


 無反応。

 シルビアのお腹に顔を埋めて黙ったままだ。


「反抗期だぁ!」

「おい、どこへ行く!?」


 娘の唐突な拒絶にショックを受けたアイラが屋敷を出てどこかへ走って行ってしまった。


「う?」


 そこで、ようやくアイラがいなくなってしまった事に気付いたシエラ。


 母親がいない。

 途端に不安そうな顔になる。


「あ、分かった」


 一連のやり取りを見ていたノエルが手を合わせる。


「何が分かったんだ?」

「シエラは別にアイラの事を拒絶した訳じゃなくて少しでも長く弟か妹になる子供たちの傍にいたかったのよ」


 シルビアのお腹にいる子供は間違いなくシエラにとって弟か妹になる。

 従弟レウスすら自覚がなくても姉のように可愛がっているシエラ。より自分に近しい存在として感じられる相手の事を気遣っているのだろう。


「だけど、今のシルビアお母さんに抱き着くのはシルビアお母さんの方が大変だからこっちに来ようね」

「……う」


 広げたノエルの手の中へ移動するシエラ。


「ちょっと重くなった?」

「う!」

「ごめんごめん。けど、数日振りに抱き上げると成長を実感できるのよ」


 シルビアたちは毎日のようにシエラを抱き上げている訳ではない。

 毎日抱いているのはアイラぐらいだ。

 子供の成長は本当に早い。たった数日でも信じられないほど大きくなっている場合がある。


「成長を実感するのはいいけど、そんな姿をアイラに見られるなよ。間違っても出て行ったあいつに見られると――」


 ――面倒な事になる。


 そう言おうとしたが既に手遅れだった。

 気配を感じて子供たちが遊んでいる庭の方を見てみれば窓にアイラが貼り付いていた。


 リビングにいた全員が気付いた。

 いや、シエラだけは安心し切った顔でノエルの腕の中にいる。


「あ~~~~!」


 涙を流しながら駆け抜けて行った。

 庭で遊んでいた子供たちがポカンとしている。


「夕飯までには帰って来いよ」


 さすがにお腹を空かせたシエラを放置するような真似はしないはずなので信用して待つ事にする。


「それで、どうだったの?」


 騒ぎがひと段落すると屋敷の奥からシルビアの母親であるオリビアさんが出て来た。

 彼女が聞いているのは外出先――病院での検査結果だ。


「えっと……」

「その様子だとダメだったのね」


 胎児はある程度大きくなると特殊な魔法を用いることによって性別を判断することができるようになる。


 妊娠しているシルビアは……と言うよりもオリビアさんが孫娘が生まれる事を凄く期待していた。

 その事がシルビアにプレッシャーを与えているように思えたので検査を受けるよう勧めた。


 アイラの時から知っていた検査だが、アイラの場合は本人が生まれてくる子供の性別を気にしていなかった。ただ、無事に生まれて来てくれる事だけを望んでいたので気にさせないようにする意味もあって敢えて検査は受けさせなかった。


 この検査なのだが当然、特殊な魔法が必要になる検査なので費用が必要になる。そのため誰でも受けられる検査ではないので、田舎の小さな村にいる妊婦は気になっても検査を受けようとは思わない。

 シルビアの事を思えば、その程度の出費は問題ない。


 検査結果を言い淀むという事は、望んだ結果ではなかった、という事だろう。


「違うの。まずは分かっている事だけを教えるね」

「分かっている事?」

「……わたしが妊娠しているのは双子なの」

「え……」


 思わずソファから転げ落ちそうになってしまった。

 双子というのは完全に予想していなかった。


「そして、双子以上の場合だと検査結果が分かり難くなるらしいの」


 一度の検査で分かるのは双子の内のどちらか一方のみ。検査自体は何度も行う事が可能らしいが、得られる結果は反応の強い胎児の方のみとなっている。

 さらに言えば反応そのものも弱くなっているらしい。


「わたしが検査を受けたところ『男の子』の反応だけが何度も返って来たの」

「なるほど」


 少なくともシルビアが男の子を妊娠しているのは確実。

 問題は反応のなかった方。もしかしたら女の子である可能性がある。


「つまり、生まれて来る子供は男の子が二人か、男の子と女の子が一人ずつの可能性があるっていう事か」


 頷くシルビア。

 子供がもっと大きくなった後――それこそ生まれる1週間や2週間前になれば事前に分かるかもしれないと言われた。


 けれども、さすがにそこまで待ったのなら生まれてくるのを待つのもいいだろう。


「そう。ちょっと残念には思うもののそこまで気にする必要はないわよ」

「ありがとう母さん」


 その後、育児の練習も兼ねてシエラと遊ぶ。


 夕食の準備は手伝う程度に留めて、母親たちに任せるという時間が続く。

 手伝いたそうにソワソワしていたが、アイラ以上の負担が掛かっている状態で大人数の食事の用意をさせるべきではない。リビングで料理研究の本を読みながらまったりとした時間を過ごす。


 すると夕食が完成する前にはアイラも帰って来た。


「あぃ」


 母親が帰って来た事に気付いたシエラが精一杯甘える。

 甘えられた事に対して気を良くしたアイラが全力で遊んでいる。


 今日も平和な日々が続いている。

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