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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第22章 魔剣生産
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第33話 魔剣製造

 ――地下35階。


「せいっ!」


 アイラの鋭い声が迷宮内に響き渡る。

 彼女の目の前で剣を構えていたゴーレムが剣を振るう事すら叶わずに胴体を両断されている。


 途中、出てくる魔物の全てを倒しながら奥へと進む。

 魔物を倒せば魔石が手に入るし、上質な金属で造られた魔物はそのまま上質な素材となる。

 それから岩盤内にある鉱石。攻略を優先させているため立ち止まって採掘するような真似はしていないが、道中で落ちている鉱石をいくつか拾わせてもらった。


「で、これからどうするの?」

「そうだな……」


 気付けば外周を沿う道も終着点に到達していた。

 ここから先は崖になっており、崖の先には溶けた鉄がドロドロとマグマのように溜められていた。何の対策もなしに落ちればあっという間に溶かされてしまうほどの熱だ。正直見ているのも辛い。


 残された道は中央にある塔へと続いている道のみ。


「行くか」


 あまり気乗りはしない。

 見れば分かる事なので【地図】を使って先に確認させてもらったが、塔の中は鍛冶場――魔剣を精製する為の施設となっている。


 上部で周囲の岩盤から鉱石を集めて下部で魔剣を製造。

 魔剣の製造を目的にした施設であるため財宝は何もない。

 外周にある岩盤の方が上質な鉱石が採れる。

 あまり旨味のない施設だった。


 だが、攻略の為には入らなければならないというのなら話は別だ。


「行くしかないみたいだな」


 中央に向けて歩く。

 鍛冶場に入った途端、カ―――ン、カ―――ンという音が響き渡る。


「これは槌の音?」


 聞いた瞬間にアイラが音の正体を見破る。

 誰かが下層で槌を打っている。


「今の迷宮の状況を考えれば何を造っているのかは考えるまでもないな」


 階層の奥に下層へ続く長い階段がある。

 下層――地下36階へ到達すると階層の中心から鉄を打つ音が聞こえてくる。


 そこには体長2メートル以上の巨体を誇る筋骨隆々の男が一心不乱に目の前の剣に向かって槌を打っている。


「あいつが造っているのが間違いなく魔剣だな」


 未完成の剣。

 しかし、【鑑定(アナライズ)】で素材を確認してみたところ魔剣製造に欠かせない『呪怨石』が含まれているのが分かった。


 さて、どのように対応するべきか?


「……む?」


 大男が気付いて振り向いた。


「おや、魔物だったか」


 人の形をしていたから間違えてしまった。

 だが、振り向いた大男の額には鋭い角が1本生えており、赤い肌は鱗のように角張っていた。


 大鬼(オーガ)

 それも上位の種族だ。


「何者かの気配があると思えば人間か。何用じゃ?」


 しかも喋られる個体。

 かなり貴重だ。


 パーティを代表して前に出る。何か問題があればメリッサが後ろから教えてくれるだろう。


「俺は地上から来た冒険者だ。あんたが魔剣を造っていたのか?」

「如何にも」

「何故?」

「それが主より賜ったワシの使命だからじゃ」


 この大鬼(オーガ)が主を仰ぐ人物がいた。

 迷宮の魔物だという事を考えれば以前にいた迷宮主の事だろう。


「魔剣が外に出てしまっているせいで地上は現在混乱状態にある」

「なに?」


 驚いた大鬼(オーガ)が目を見開いてこちらを見てくる。


「それはない。この数週間の間に大量の魔剣を造らざるを得なくなってしまったが全ての魔剣は下層で保管しておる」


 地下37階は魔剣の保管庫になっているようだ。


「どうしてあんたが魔剣を造っているんだ?」

「この迷宮はあまりに大量の『呪怨石』を溜め込んでしまった。溜め込んでしまった呪いは器である石を壊してしまうことがある。そうして壊れてしまうと呪いが溢れて地上がとんでもない事になってしまう」


 そうなる前に定期的に『呪怨石』を魔剣へと変えることで安定させていた。


「ところが数週間前から呪いの力が強くなったのじゃ」


 リュゼによる干渉だ。

 呪いが強くなったせいで地上に甚大な被害を齎す可能性があった。

 だから大鬼(オーガ)はひたすらに魔剣を造り続けた。


「お主らはただの冒険者ではなさそうじゃ。悪いが邪魔しないで欲しい。まだまだ呪いは強過ぎる。もっと多くの魔剣を造らなくてはならない」

「え……」


 それだけ言って大鬼(オーガ)は前を向いて魔剣を打つ作業に戻ってしまった。

 大鬼(オーガ)の態度は真面目だった。既にほとんどの『呪怨石』を採掘し終えている事に気が付いていない。


「ねぇ――」


 見兼ねたアイラが現在の迷宮の状況について告げる。


「……そんなはずはない」


 聞いている間は魔剣を打つのを止めていた大鬼(オーガ)だったが、再びこちらに背を向けて魔剣の製作に戻ってしまった。


「本当なんだってば!」

「それだけはない」

「どうして?」

「ワシは、迷宮内の呪いを管理する為に主の手によって生み出された魔物じゃ。そのため、何もしなくとも額にある角が周囲の状況を勝手に教えてくれる。ワシの角には変わらず暴発寸前じゃ」

「そういう事か……」


 リュゼが何をしたのか分かって来た。

 彼女が干渉したのは迷宮内の呪いではなく、大鬼(オーガ)の感知能力の方。突如として呪いの力が増大したように感じてしまった大鬼(オーガ)は大急ぎで『呪怨石』を消費する為に魔剣を何本も生産した。


 そして、その感覚はリュゼがいなくなった今も終わっていない。

 この状況は非常に危険だ。


「魔剣を造る、それがどれだけ危険な事なのか理解しているのか?」

「もちろん理解しておる。じゃが、こうでもしないとワシは使命を果たすことができない」


 魔剣を造る為には『呪怨石』を使って誰かを憎み、恨みながら剣を打つ必要がある。そんな事を続けていれば『呪怨石』の持つ性質も合わさって鍛冶師はどれだけ清廉潔白な心を持っていたとしても汚染されていく事になる。

 それ以外の方法では『呪怨石』を真っ当な方法で消費することができない。


 そして、大鬼(オーガ)は汚染に必死に耐えている。


「もう、止めて!」


 耐えていることがアイラには分かってしまった。


「悪いが、これだけは譲れん」

「本当に地上は魔剣のせいで酷い事になっているの! これ以上はあたしみたいに苦しむ人が増えて欲しくない」

「お主……」


 さっきも俺が似たような事を言った。

 しかし、アイラの必死な言葉を聞いて自分が間違っているかもしれないという可能性に気付いた。


「本当に魔剣が地上に溢れているんじゃな」

「そうだ」


 証拠にいくつかの魔剣を見せる。


「それは……」

「魔剣を手にして地上で暴れた奴らが使った魔剣だ」

「たしかに魔剣はワシが打ったものじゃ。ワシの癖が剣には残っておる」


 俺には鍛冶についての知識はないから分からないが、大鬼(オーガ)にとっては一目見ただけで自分の打った剣だと分かる特徴があったらしい。


「ワシは造った後の魔剣については興味がないから外見は知らん」


 あくまでも『呪怨石』の消費が目的らしい。


「効果についても剣を打っている間は無心……と言うよりも精神を汚染されんよう何も考えずに打っておる。だから、どんな効果を持った魔剣を生み出してしまったのかも覚えておらん」


 随分と無責任に聞こえる。

 しかし、大鬼(オーガ)に課せられた使命を考えるならそうして打ち続けるしかなかったのかもしれない。


「お主は、なぜそれほどまでに真剣になれる。何か事情があるのではないか?」


 大鬼(オーガ)は自分に対して大声を上げたアイラに興味を覚えた。

 彼の体は人に近しい姿をしているにも関わず人よりも大きく、人に恐怖を与える外見をしている。そのため敵意を向けられる事は何度もあった。

 だが、今のように真剣に怒られたのは初めてだった。


「あたしは、あなたの造った魔剣をお父さんが手に入れたせいで家族を一度は全員失ってしまった人間よ」


 5年前にあった出来事を語る。

 もう折り合いは付いているし、大鬼(オーガ)に責任がある訳ではないが、大昔に心の奥底に封じ込めてしまった怒りをぶつけるように吐露する。


「……そうか」


 話を聞き終えた大鬼(オーガ)は一言だけ呟いた。


「ワシの造った魔剣は下層で保管しておる。偶にじゃが、迷宮の性質として宝箱の中身として魔剣が使われてしまう場合がある。ワシがしっかりと管理しておれば魔剣が地上へ出てしまうような事もなかったじゃろう。造ってしまった者として謝らせてもらう」

「もういいよ」


 アイラにとっては既に過去の出来事。

 必要以上に謝ってもらう必要などない。


「元はと言えばお父さんが魔剣をきちんと制御できなかった事が問題なんだし。あなたにそこまでの責任がない事は分かっている」

「そう言ってくれると助かる」


 頭を下げた大鬼(オーガ)が迷宮の奥へ向かう。

 その先には下層へ続く階段がある。


「保管庫へ案内しよう」

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