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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第22章 魔剣生産
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第24話 絶剣

「いいよ、教えてあげる。その代わりアタシを見逃してくれないかな」

「そういう訳にはいかない」

「ですよね」


 少女が快活に笑う。

 けれども、逃げる事を諦めた訳でもない。


 何を狙っている?


「じゃあ、教えない。アタシが何をしたのか知りたいなら最下層まで行って見てみるといいよ」

「おい、ここから逃げられるつもりか?」


 今も迷宮の天井は【空間魔法】によって空間的に鎖されたままだ。

 直接出るならまだ問題ないが、【転移】のような空間に干渉するような方法による脱出はできないようになっている。


「もちろん」


 リュゼが金色の魔剣を収納する。

 代わりに最初に持っていた長剣が出てくる。


「レベルが下がった程度で勝てるとは思わない方がいいよ」


 リュゼが長剣を振るう。

 斬撃が飛び地面を抉り飛ばす。


「深い……?」


 迷宮の地面や壁、天井は表面を削る程度ならできるようになっているが、深い部分には『破壊不可』の効果が付与されている。特別な方法なくして破壊することはできないようになっている。

 ところが、リュゼの放った斬撃は『破壊不可』の部分まで抉り飛ばしている。


「どいて下さい!」


 メリッサの火球がリュゼに向かう。

 自らに向かって来る火球を剣の一振りだけで斬り裂く。


「ははっ、そんな攻撃はこの剣の前じゃ意味がないよ」


 長剣で地面を1メートルサイズで切り取って剣で叩いて飛ばしてくる。

 岩が弾丸のように襲い掛かって来る。岩の硬さも問題だが、破壊が不可能なはずの岩を簡単に斬り抜いているリュゼの長剣が凄まじい。


「【迷宮魔法:鑑定】」


 迷宮眷属の使うメイン武器なら迷宮の力で生み出した武器である可能性が高い。

 鑑定を使えば情報が頭に流れ込んでくる。


「……! あの剣には絶対に触れるなよ!」

「げっ……何、あの剣」

「もう、簡単に効果を知ったらつまらないじゃない」


 リュゼが一番近くにいたノエルに向かって走る。


 ノエルの錫杖から電撃が放たれる。

 しかし、リュゼの長剣に触れた瞬間に霧散してしまう。


「これが『絶剣(ぜっけん)』の力……」

「そう――全てを絶ち斬る」


 長剣に触れるだけで全ての物は絶ち斬られてしまう。

 アイラの【明鏡(めいきょう)止水(しすい)】と似ているところがあるが、【明鏡止水】は対象を斬る必要がある。ところが『絶剣』は触れるだけで絶ち斬ってしまう。

 能力としては『絶剣』の方が上だ。


「死んじゃうといいよ」


 振り上げた長剣を振り下ろす。

 剣を振るう動きはレベルが上昇していた頃に比べれば非常にゆっくりとしたものなのだが、リュゼ本人の技量故か気付いた時にはノエルの目の前にいた。


 絶剣に対して防御はできない。

 触れただけで斬られてしまうので受け止めるのも危険だ。


 絶剣が振り下ろされる前にノエルが【跳躍(ジャンプ)】で退避する。

 視界内のどこへでも移動できる【跳躍(ジャンプ)】なら一瞬で回避することができる。


「え……」


 ノエルが戸惑ったように声を上げる。

 あまり移動前にいた場所から離れられていない。


「そうか!」

「その通り。アタシの絶剣は移動系のスキルすら阻害する」


 リュゼの隣を通り抜けるように【跳躍】を発動させた。

 その時、絶剣の切断効果範囲に触れてしまった。

 それによりスキルまで中断させられた。


 あまりに近過ぎる距離は体を軸に回転させるだけで剣を触れさせられる場所だ。


「【炎龍の息吹(フレイムドラゴンブレス)】、【暴風の檻(テンペストケージ)】」


 炎が洞窟内を覆い尽くし、嵐が洞窟内にある物をグチャグチャに攪拌させる。


 仲間を巻き込むような魔法がリュゼに向かって放たれる。

 当然、リュゼの傍にいたノエルも直撃を受けるはずだった。


 しかし、リュゼがメリッサの魔法に気を取られた一瞬の間にノエルを【召喚(サモン)】で傍に喚び寄せる。


「ありがとう」


 あのままだと敵の剣で斬り刻まれるか魔法で焼き尽くされるところだった。

 肩で息をしながら感謝を述べる。


「いや、まだ終わっていない」

「え、こんな光景の前で生きていられるはずが……」


 その時、リュゼを包み込んでいた魔法が消失する。


「無駄だよ。この剣の前じゃあ魔法は全て意味を成さない魔力にまで斬り刻まれる」


 炎と竜巻が消える。


 同時にアイラと協力して左右から斬り掛かる。

 迎え撃つべくリュゼが絶剣を振るう。

 身を翻すと剣を引っ込めて再び斬り掛かる。


 二人で協力しながら絶剣に触れないよう攻撃を仕掛ける。


「ぐっ……」


 適当に振るっているだけの剣でも触れるだけでマズいと思うと躊躇してしまう。


「たしかにレベルが下がってアナタたちの方が強くなったかもしれないけど、武器の性能の差でアタシの方が強いんだよ」


 突き出して来た絶剣を屈んで回避する。

 アイラが背後から剣を振り下ろす。

 気配を感じ取っていたリュゼも絶剣を振り回す。


「【明鏡止水】」


 どんな物でも斬れるようになるスキルが発動する。

 二つの絶対切断能力が衝突する。


「きゃっ!」

「アイラ!?」


 アイラが僅かに後ろへ吹き飛ばされる。

 一方、リュゼはアイラ以上に吹き飛ばされてしまっている。


「なるほど。二つの『絶対切断能力』が衝突すると力と力が弾かれてしまうことになるんだね」


 冷静に自分の身に起こった出来事を分析していたリュゼ。

 リュゼの方がアイラよりも大きく吹き飛ばされてしまったのは使い手の力によるもの。リュゼのレベルだけでなく、ステータスが下がった今だからこそアイラの方が勝つことができた。


 お互いに切断される事こそなかったが、二つの似たスキルが衝突すると切断する事もできない。


「さて、まだやる?」


 リュゼの方には余裕がある。


 一方、こちらはレベルを下げたことでようやくギリギリ戦うことができていた。

 非常に危険な状態だ。リュゼのレベルもいつ戻ってしまうのか分からないので長期戦になってしまうとこちらの敗北は確実なものになってしまう。


 アイラが聖剣を構える。

 相手が強いのは理解した。しかし、ステータスが低下している今でなければ倒す事が難しいのも事実だ。


「そうだよな」


 神剣を構える。

 自分の眷属が覚悟を決めているのに主が覚悟を決めない訳にはいかない。


 絶剣に触れずにリュゼを斬ることができれば問題ない。


「……ちょっと待って」


 急にリュゼが動きを止めて遠くを見ていた。


 何を見ている?


 リュゼの見ている方向には洞窟が広がっているだけで何も見えない。


「……うん。ちょっと苦戦させられているけど問題ない。え、帰って来い?」


 遠くを見ながら誰かと会話をしているように独り言を呟く。

 いや、実際に遠く離れた場所にいる人物と会話をしていた。


「アイラ!」

「分かっている」


 左右を挟み込むようにして攻撃を仕掛ける。

 アイラが振るわれた刃を跳んで回避するとそのまま体ごと回転させて斬り掛かろうとしていた俺へ襲い掛かる。


 地面の土を盛り上げて壁とする。

 壁は一瞬の足止めもできず濡れた紙を破るように斬り捨てる。


「『破壊不可』の壁だぞ」


 斬り捨てる事を優先に振るわれたため屈むと絶剣が頭の上を通り過ぎて行く。

 斬られた岩壁に干渉。弾丸に変えるとリュゼに向かって飛ばす。


 絶剣を振るって全てを叩き落として行く。


「煩いな……! こっちは主と喋っているんだよ」

「やっぱり念話でやり取りをしていたのか」

「ふんっ!」


 絶剣を振るう。


 ――ガン!


「なにこれ?」

「障壁、か?」


 近付こうとした直後、見えない壁のような物に阻まれた。


「悪いけど、そこの空間を斬らせてもらったよ」

「空間を斬った?」

「そう。しばらくすれば元に戻るけど、斬られた空間は何者をも通さない」


 【跳躍】を使って斬られた空間を跳び越えようとするがスキルそのものが発動しない。


「悪いけど、アタシは主の元に帰るね」

「逃げるのか?」

「アタシは平気だと思うんだけど、この状況を見ていた主が心配してアナタたちには構わずに戻って来るように言っているの」


 既に目的は達成されているようなものなので撤退そのものに躊躇いはないのだろう。


「じゃあね」


 ピョンピョンと飛び跳ねて地下1階と地下2階の間にできた大穴を通ってこの場から離脱していく。


 迷宮内を迂回すれば俺たちも地下1階へ辿り着くのは可能だが、そんな事をしている間に迷宮から完全に脱出されてしまう。

 迷宮から出られてしまえば追い掛けるのは不可能だ。


「どうするの?」

「悔しいけど、今は逃がすしかないな」


 あのまま戦い続けていても勝てた保証はない。

 今は逃がすしかなかった。


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