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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第22章 魔剣生産
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第21話 迷宮に現る女剣士

 どこからともなく飛んで来た斬撃。

 それがイリスの右腕を斬り飛ばした。


「……っ!」


 イリスの顔が苦痛に歪む。

 しかし、すぐに普段の冷静沈着な顔に戻って左手で斬り飛ばされた右腕を回収する。

 そして、斬撃が飛んで来た方とは反対へと逃れる。

 イリスの前に立つノエル。彼女は傷付いたイリスの護衛だ。


「大丈夫ですか?」


 駆け付けたメリッサが回復魔法を施す。


「問題、ない……」


 すぐに自分へ【施しの剣】を発動させる。

 回収しておいた右腕を傷口に押し当てながら使用したため魔力を節約する事にもどうにか成功した。


「くっ……」


 失いそうになる意識を留める。

 今の彼女にできるのはそれぐらいだ。


「ゴメン。魔力なくなった」


 重傷者であっても癒してしまえる【施しの剣】だが、あまりに強力過ぎる効果なため使用すると魔力を一気に消費してしまうことになる。


 ジェムとジリーの二人を癒した事でほとんどの魔力を消費した。

 その後、自分の右腕を癒した事で限界以上に魔力を消費してしまった。


 もう、いつ意識を失って倒れてもおかしくなかった。


 しかし、まだ倒れる訳にはいかなかった。


「あれ? 今ので倒れなかったんだ」


 岩壁の向こうから声が聞こえる。


 僅かに開いた細い亀裂。

 その小さな亀裂を中心に岩が斬り刻まれて地面に落ちる。


 地図を所有するイリスたちには岩壁の向こうに空間が存在する事を知っていた。

 しかし、岩壁の向こうから人が現れる事は絶対にあり得ない。

 地図には、通路や地形だけでなく迷宮内にいる人や魔物の現在位置まで表示させることができる。


 だから――誰の反応もない場所からやって来るなどあり得ない。


「初めまして、だね」


 現れたのは黒髪黒瞳の10代後半の少女。

 身長150センチぐらいと小柄でありながら、その手には彼女の身長と同等の長さを持つ剣が握られている。


 ぴょこぴょこと歩くせいで肩までで揃えられた髪が左右に跳ねている。


「貴女は何者ですか?」

「アタシ? アタシはリュゼだよ」

「名前を聞いているのではありません。どうして今も反応がないのですか?」


 こうして目の前に姿を現した今でもリュゼと名乗った少女の反応が地図に現れることはない。


「ははっ、何を言っているんだか。そんなの、そんなスキルを使える時点で察しているんじゃない?」

「やはり、そういう事ですか――」


 メリッサには一つの可能性があった。


「貴女も――迷宮眷属(ダンジョンサーヴァント)ですね」

「ピンポン♪」

「ノエルさん、地図には頼らないで下さい」

「分かった」


 敵の位置が表示されないのでは地図は視界を塞ぐ邪魔にしかならない。


「でも、どうやって姿を隠しているの?」

「姿を隠している訳ではなく、迷宮の一部だと認識させているのです」


 よく地図を注視してみればリュゼの立っている場所には建造物――柱が建てられていることになっている。


 オブジェクトがある。

 そう思い込んでしまった為に誰もいないと認識してしまっていた。


「迷宮に干渉できるスキル。そんな物は【迷宮操作】や【迷宮魔法】以外に考えられません」


 やろうと思えばメリッサやイリスにもできる。

 だが、これまで【迷宮操作】を使用した者に対して自分を迷宮の一部だと誤認させる必要性などなかったから可能性を排除してしまっていた。


「アタシの事はこれぐらいでいいかな。アタシだって仕事の最中に他の迷宮眷属に出くわすなんて考えていなかったからビックリしているんだよ」


 仕事中だったと言うリュゼ。

 今の迷宮で起こっている異常事態を考えれば一つの可能性が浮上する。


「あなたが魔剣をばら撒いていたの!?」

「そうだよ。ちょっと魔剣が多く必要になったから迷宮の力を借りて生産させてもらったの。ただ、造っている最中で失敗作が何本か出ちゃってね。だから、ついでに何人かに渡してテストさせてもらったの」

「失敗作――」


 失敗作であれだけの被害を出せたのだからリュゼとしては満足の行く出来だった。

 しかし、失敗作による被害を目の当たりにしているだけにノエルには『失敗作』だと言う理由が納得できなかった。


「魔剣による精神汚染。それが酷い魔剣が失敗作ですね」

「正解♪」


 魔剣の力そのものが目的ではない。

 特殊な力を持った魔剣という武器を十全に使える者を彼女は求めていた。

 その為には、魔剣の精神汚染は邪魔でしかなかった。


「充分にデータは取れたはずだし、後はテュアルにでも頼んで調整してもらえばいいだけの話。ただ、失敗作とはいえアタシの邪魔を何度もしてくれたアナタたちは放置する訳にはいかないよね」

「それで、ここで待ち伏せしていたのですね」

「そう」


 迷宮で作業をしていたリュゼは迷宮にメリッサたちが入って来た事にすぐ気付いた。

 そこで、彼女たちの動きを観察していれば真っ直ぐ奥へと向かっており、見覚えのある子供を背負っている事も確認できた。魔剣を手にした事でリュゼの記憶に残っていた。


 3人の目的は分からなかったが、ジェムを連れている事から隠し部屋で倒れたままのジリーを目的にしている可能性が高い事に気付いた。


「誰もアタシが壁の向こう側にいる事に気付かないんだもん」


 完璧に騙せている事を笑うリュゼ。


「で、隙だらけだったから一人を真っ先に斬ったつもりだったんだけど、ギリギリで避けられちゃったみたいだね」


 イリスは剣士としての勘から認識外からの攻撃を回避しようと試みた。

 どうにか腕を犠牲にする事で致命傷だけは避けられた。


「後は、残った二人を斬ればアタシの仕事は終わりだね」


 リュゼが持っていた剣が消える。

 収納リングや収納系のスキルで収納していた。


 代わりに現れる2本の赤と青の剣。

 魔法に長けたメリッサは一目で気付いた。


「……気を付けて下さい。アレは魔剣です」

「魔剣!?」

「しかも精神汚染されている様子がありません」


 リュゼは、それまでの快活な様子のまま魔剣に体を慣らす為に魔剣を振っている。


「行くよ」


 右手に持った赤い魔剣から炎が溢れ、左に持った青い魔剣から冷気が漏れ出していた。


「一番オーソドックスな魔剣が量産に成功したんだよね」


 二本の魔剣を手にノエルへ斬り掛かる。

 錫杖を用いて赤い魔剣を弾き返し、青い魔剣を受け止める。


「ははっ!」


 青い魔剣を受け止めている部分が凍り付いて行き、受け止めている間に赤い魔剣が再び振り抜かれる。


「退いて下さい!」

「おっと」


 錫杖から電撃から放たれる。

 電撃に驚いたリュゼが後ろへ跳んで魔剣を構える。


「やるね!」


 嬉しそうに笑うリュゼ。

 実際に戦える事が楽しいのだろう。


「あまり油断しない方がいいよ」

「むっ……」


 ノエルの錫杖から6つの小環が宙に放たれる。

 浮遊する小環が回転を始め、リュゼへと襲い掛かる。


 回転する小環は鋭い刃のように洞窟の岩を切り裂く。


「やるね」

「行け――」


 ノエルの意思を受けて飛び回る小環。


「今の内に……」


 リュゼの意識がノエルへ向いている間にイリスの治療を再開するメリッサ。

 しかし、回復魔法を使用するよりも早く満身創痍のイリスが立ち上がる。


「私が、やらないと……」


 ガタガタと震えながら剣を持つ手を上げる。

 魔力を使い果たした彼女にとって普段から使い慣れている剣すら重く感じてしまう。


「その状態で戦えるはずがありません」

「でも、相手は戦い慣れているうえに私たちと同じ迷宮眷属。戦闘経験の浅いノエルとだと相手が本気になればすぐに負ける」


 イリスが言うようにノエルでは苦戦するしかない。

 今も互角に戦えているように見えているのは、リュゼが本来の自分の武器ではなく生産したばかりの魔剣の性能を試す為に遊んでいるように戦っているからだ。彼女にもノエルが自分よりも弱いことが分かっている。

 そして、魔法使いのメリッサでは接近戦を得意とするリュゼが相手ではノエル以上に苦戦させられてしまう。


「分かりました――」


 イリスの言葉には了承する。


 同時に……


『主の方はどうでしょうか?』

『もう少しで終わりそうって感じ』


 巫女として主の状態を最も理解できるノエルに念話でマルスの状態を確認する。


『では、無理をせず時間稼ぎに徹して下さい』

『分かった』


 小環を使ってリュゼを近寄らせないようにしているノエル。

 それほど広くない洞窟内で小環を回避しながら相手に接近するのは難しい。


「こっちへ」


 メリッサが魔法で作り出した小型のゴーレムに離れた場所で戦いを見守っていたジェムとジリーを自分の傍まで持って来させて回収する。


『――今すぐそっちに喚んで!』


 ピタッとメリッサに密着する二人。

 後ろの様子を確認したノエルが小環を操作しながらマルスに要請する。


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