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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第22章 魔剣生産
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第20話 残された少女

 パレントの迷宮。

 迷宮へ入ったばかりの場所はゴツゴツとした岩場の暗い洞窟が奥へと続いていて魔物も出現する危険な場所だ。

 今も迷宮へ入って来たばかりの4人を狙ってゴブリンが襲い掛かる。


 ――グチャ。


 先行するノエルがゴブリンを吹き飛ばす。

 先を急いでいる彼女たちは討伐した魔物から得られる物には目も暮れずに奥へと進む事を優先させる。


「すごい……」


 イリスに背負われたジェムが呟く。

 少年にとってはゴブリンとはいえ、簡単には討伐できない魔物だ。それを道端に落ちていた小石のように吹き飛ばした。


 魔剣に負けた弱い自分。

 そんな自分を最小限のダメージだけで救ってくれた凄腕の冒険者。


 改めて彼女たちに尊敬の眼差しを向けていた。


「少し急ぐ」


 ジェムを背負いながらイリスが迷宮の中を奥に向かって走る。


「わっ……」


 迷宮の中に入って誰にも見られなくなった瞬間、背中にいるジェムを配慮しつつも速度を上げる。

 怪我をして残されたジリーの事を思えば急ぐ必要がある。


 気付けば1階を通り過ぎて2階へと辿り着いていた。


 あまりに速い攻略速度。

 だが、ジェムは気になっていた事を聞かずにはいられなかった。


「ねぇ、どうしてお姉さんたちは迷宮の奥に続く道が分かっているみたいに迷わずに進めるの?」


 ――ギクッ!


 3人の足が僅かに遅くなる。


「お姉さんたちは初めて迷宮に来たんだよね」


 少年としては、迷わずに進めるコツみたいな物があれば教えて欲しい。

 そんな軽い気持ちだった。


『どうするの?』

『どうにもできない』

『さすがに「迷宮操作」について教える訳にはいきませんから話を誤魔化すしかありません』


 ノエルとイリス、メリッサが念話で相談する。

 彼女たちが迷わずに地下5階までの最短距離を進めているのは偏に『迷宮操作』があるからだ。


 迷宮操作:地図。

 迷宮の内部で使用した際には魔力を消費することによって迷宮内部の地図が全て視界の隅に表示されるようになる。帝都の迷宮へ挑んだ時は迷宮主がいたためにレジストされてしまった。


 今回の目的地は地下5階。

 魔力の消耗を考えて目的地までの地図しか用意できていない。

 しかし、地下5階までなら迷宮の構造が手に取るように分かっていた。


 そんな彼女たちにしてみれば急いでいる時に最短距離を進むのは当然。


「……お姉さんは凄いスキルが使えるの。だから真似するのは少し難しいかな」

「そっか……」


 ジェムが残念そうに肩を落とす。

 少年にとって高ランク冒険者は憧れの的である。グステンたちのように酷い扱いをするような者もいるが、大抵は子供が憧れを抱けるような功績を残している。


 そんな人物の真似をしてみたい。

 純粋な想いだった。


 しかし、ジェムの視線が自分の失くした手へと向かう。


「……ちょっと速度を上げる」


 暗くなる空気。

 少しでも柔らかくしようとイリスが提案する。


「え……」


 あまりの速度に目を回してしまう。



 ☆ ☆ ☆



「着いたわよ」


 10分と経たずに地下5階へと辿り着く。


「あぅ」


 目を回していたジェムも意識をはっきりとさせる。


「どこだか覚えている?」

「えっと……」


 隠し部屋までの場所を確認する。

 けれども、やはり地下5階からの入口からでも隠し部屋の位置は覚えていないらしく戸惑っている。


「仕方ない。手当たり次第に探す」

「どうやって?」


 地図があるイリスには地下5階に隠し部屋と呼べる空間が3つある事が分かっていた。

 まずは、階段から近い場所にある隠し部屋を覗く。


「ここ?」


 尋ねるもジェムが首を振るう。

 すぐに次の隠し部屋へと移動する。


「あ……」


 見覚えのある岩を見て少年が言葉を零す。


「ここです!」


 ジェムがイリスの背から飛び降りて隠し部屋を奥へと進む。

 隠し部屋内には開けられたままの宝箱が置かれているだけであり、他には何もない。


「ジリー!」


 ジェムが隠し部屋の奥へと駆ける。

 薄暗くて見落としてしまいそうになったが、岩の陰に隠れて一人の女の子が倒れていた。


 緑色の髪をした女の子。

 今は頭から血を流して目を閉じて意識を失っているが、整った顔立ちの可愛らしい少女だと分かる。


 だが、全身に負った火傷。

 おまけに頭を強く打っているらしく意識を覚ます様子がない。


「――良かった、生きている!」


 それでも少女は必死に生きようとしていた。

 問題はギリギリ生きているだけで今にも死んでしまいそうな状態だという事だ。


「ど、どうすれば……」


 知り合いの女の子が今にも死にそうな状態になっている様子を見て青褪めている。


「とりあえず、病院まで運ばないと」

「待ちなさい」

「どうしてですか?」

「どうやって運ぶつもり?」


 子供のジェムでは相手が同じ子供であっても運ぶ手段は限られている。

 肩を貸してゆっくりと移動するか引き摺って行くかぐらいだろう。


「それは――」


 案の定、ジェムは言葉に詰まってしまう。

 迷宮の中で護衛も付けずにそんな移動をしていれば魔物に襲われて二人とも簡単に死んでしまう。

 何よりも怪我をしているジリーにそんな事はさせられない。


「それにこの怪我なら運んでいる間に死ぬ」

「そんな――!」


 死――身近な者が直面したことによってジェムは恐怖に足が竦んでしまった。


 3人が顔を見合わせる。

 彼女たちの意見は一致していた。


「ねぇ、もしも私たちの条件を受け入れてくれるならあなたの腕も含めて女の子の傷も治療してあげてもいい」

「本当ですか!?」


 条件が何かも分からない。

 それでも藁にも縋る思いで食い付く。


「条件は、治療された事について誰にも言わない事。私たちの監視下に置ける為にパレントじゃなくて私たちが拠点にしている街で働く事。そして、働いて得たお金の中から治療費を捻出してどれだけの時間が掛かってもいいから必ず払う事。この条件が呑めるなら健康な体にしてあげる」


 条件を提示するものの彼女たちは純粋に子供を助けてあげたかった。


 だが、自分たちが一般常識ではあり得ない事をしようとしている自覚はあった。

 だから監視下に置く為の条件が必要だった。


「……分かりました。どうせ、この手じゃ満足な仕事なんてできないし、僕にとってはジリーを失う事以上に辛い事なんてないです」

「その子は君にとって大切な子なの?」

「分かりません……」


 イリスの質問に首を振る。


「僕は物心付いた時から街の貧民街で生活していました。親がいない理由なんて分かりません。そんな僕にとって同じように親を知らずに貧民街で生活していた同い年のジリーだけが信頼できる相手でした。だから――ジリーを!」

「分かった」


 ジェムの言葉を最後まで聞くと二人に【施しの剣】を使用する。

 【施しの剣】――部位欠損や死に直結するような怪我すらも癒してしまうスキル。


 ジェムの失った手が光に包まれる。


「な、なに……!?」


 光に驚くジェム。

 振り払おうと腕を動かすが光が振り払われることはない。


 やがて光が消えると普段と変わらない腕があった。


「う、嘘……」


 目の前の光景が信じられない。

 思わず手を閉じたり開いたりして状態を確かめている。


「僕の手だ……!」

「こっちも終わったわよ」


 光に包まれ、地面に寝かされていたジリーも光が消えると火傷だけでなく打撲などの怪我も全てが消えていた。


 スヤァ、スヤァ……。

 息も落ち着いている。


 怪我は治す事ができたが、体から失われてしまった血は元に戻せた訳ではないし無理な迷宮探索の疲労もあって眠り続けている。


「なんてお礼を言えば……」

「きちんと治療費を払ってくれればいいわ」

「当然です。一生掛かっても払ってみせます!」

「そう。期待せずに待っているわ」


 素っ気なく言うイリス。

 だが、そんな様子を見てノエルとメリッサはニコニコとしていた。


「何……?」

「いえ、別に」


 二人とも素っ気ない態度がイリスなりの照れ隠しだと気付いている。


「さ、帰るわよ」


 隠し部屋から出ようと向きを変えるイリス。


 直後、イリスの右腕が吹き飛んだ。


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