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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第22章 魔剣生産
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第19話 転移自在魔剣―後―

「答えろ、ゲイリー!!」


 正体不明の魔剣使いはレドさんと組んで門番をしていたゲイリーだった。


「やれやれ騒がしいですよ」

「……魔剣に支配されている訳じゃないんだな」

「もちろんですよ。俺は自分の正義に従って行動しています」

「正義、ね……」


 ゲイリーの言葉を繰り返す。


「さっきの少年を見ていたでしょう。子供の冒険者は大人からゴミみたいに使われている。俺はああいう奴らが許せないだけですよ」

「下がれ、シルビア」

「はい」


 ゲイリーが右手に持っていた魔剣を投げて左手で握る。

 自由になった左手で魔剣を振るう。


「おや」


 そこにシルビアはおらず魔剣が地面を叩く。


 黄色い魔剣が輝くとゲイリーの姿が消える。


「邪魔はしないで欲しいですね」


 50メートル先へと移動すると転移先にいた冒険者へ剣を振るう。


「え……」


 狙われた冒険者は反応できず呆けている。


「クッ……」


 シルビアの投げたナイフが振り上げたゲイリーの肩に突き刺さる。

 次の瞬間、冒険者を斬らずに転移する。


「ほっ」


 自分が斬られなかった事に安堵する冒険者。

 だが、完全に安心してはいけない。一時的に攻撃から逃れることができただけで魔剣を持ったゲイリーの標的になっている事に変わりはない。その証拠に転移したゲイリーが魔剣を向けていた。


「お前の正義は、不当な扱いをしていた冒険者たちを殺す事か」

「そうですよ。こいつらなんて生きていても害しかない連中です」


 憎んでいる訳でもない。

 淡々とした口調で語る。


「5年前に魔剣が出たことでこの迷宮の存在が世に広く知られるようになった。その事で多くの冒険者が訪れてくれて街が賑わってくれたのは助かりました。でも、多くの冒険者が来過ぎた」


 冒険者は一般人よりも基本的に戦闘力が高い。

 そのため儲からないなど些細な苛立った冒険者の怒りは一般人へと向けられる事になる。

 冒険者の全員がそういう訳ではない。だが、多くの冒険者が訪れた事でモラルの低い者が混ざってしまった。そういった連中は、街に昔からいた子供の冒険者を道具のように扱い、自分たちが儲かる事を優先させた。


「ま、俺も個人的に許せるような事じゃないな」

「でしょう」

「だが、お前にこいつらを処分する権利があるのか?」


 兵士としては、街にいる荒くれ者を捕らえて司法へ引き渡さなければならない。


「残念ながら領主は優秀な人ではありますが、武勇に関しては全く評価できない人物なんです」


 近くに迷宮を抱えて牧畜地帯として維持させている。

 間違いなく領主としては優秀な人物ではある。


「あの方は冒険者が離反する事や逆怨みされる事を恐れて表立って対立することができずにいます」


 冒険者がいなくなる事は領主として痛い。

 子供を虐げていたから、という理由だけで捕らえてしまうと多く集まり過ぎた冒険者に逆怨みされて襲撃されるかもしれない。

 統治面でのみ優秀な人物なら恐れても仕方ない。


「上司にも相談した事がありますが、あの人たちも相手を恐れて行動に移すことができずにいた」


 多く集まり過ぎたことで兵士にも手が出し辛い戦力になってしまった。数人なら捕らえる事ができたかもしれないが、全員を捕らえるのは絶対に不可能だ。

 その間に犠牲者が出てしまうのは間違いない。


「俺自身も諦めていたところがありますが、幸いにして今朝方に魔剣を見つけることができました」


 普段なら迷宮へ赴く事がない兵士も迷宮へ行って魔物を狩っている。

 その時、パル少年のように偶然にも魔剣を発見してしまった。


「この魔剣も俺の正義を分かってくれているみたいで、力をすんなりと貸してくれましたよ」


 魔剣まで正義感に駆られているのかは分からない。


「この魔剣を持ち帰って後日街中で標的を次々と斬って行く予定でいたんですよ。この魔剣は、こんな何もない場所で使うよりも隠れられる場所で使った方が効率よく使う事ができる」


 どんな場所へも【転移】で侵入可能なら完全な暗殺が可能になる。

 それにパル少年がしていたように人混みで【転移】を使用して一瞬で接近、すぐに離脱して関与を疑われないようにするという事も可能だ。


「ただ、あなたが魔剣を消す瞬間を見てから魔剣が酷く怯えて俺でも抑え込んでいるのが難しくなった」


 もはや黙っている事はできなくなった。

 後は行動を起こすしかなかった。


「お前は自分が何をしたのか分かっているのか?」

「ええ、俺は正義を執行しただけです」

「違う。魔剣を持って人を襲った」

「え……」


 相手が【転移】で接近しているようにこちらも【跳躍(ジャンプ)】で接近する。


 いつものように魔剣を持っていた左手を斬り落とす。

 それだけでいつもなら魔剣の精神汚染から逃れることができるはずだ。


 いささか正義感が強くなっているが、それは魔剣の精神支配によって普段は抑え込まれていた冒険者への不満が噴出しているに過ぎない。こうして魔剣の精神汚染から解放すれば……


「まだだ!」


 左手を斬り飛ばされて血が噴き出す。

 そんな自分の状態にも構わず右手で左手に握っていた魔剣を奪い返す。


「まだ、俺は正義を成す!」


 【転移】でゲイリーの裁きから逃れていた冒険者に接近する。

 一瞬で移動を終えると剣を振り上げる。


「やっぱりこっちに来た」


 ゲイリーの殺意は冒険者へ向いたまま。

 その事に気付いていたシルビアが冒険者をいつでも守れるよう近くに控えており、ゲイリーが【転移】した直後に右手を斬り飛ばす。


「くそっ……」


 執念故か右手から零れ落ちた魔剣を口で咥える。

 魔剣の精神汚染によって正義感が暴走しているものの不当な扱いを与える冒険者を裁きたいというのは間違いなくゲイリーの想い。


「どんな理由があろうと魔剣を持って暴れた者には悲惨な末路が待っているわ」


 倒れ込んで魔剣を目の前にいる冒険者に突き刺そうとしていたゲイリーの両足をアイラが切断する。

 前にばかり意識が向いていたゲイリーは後ろから迫る相手に気付けなかった。


「クソッ……どうして正義を認められない」

「正義とか関係ない。あなたは、あたしが街へ帰って来た時に許せないような表情で見ていたでしょ。それは、あたしが罪を犯したお父さんの娘だったから。お父さんはちょっとした事で怒って暴走しちゃった。暴走した経緯に何があろうとも許されるような事じゃない。それと同じ」


 どれだけ崇高な理由があろうと魔剣で人々を斬って行った事には変わりがない。

 街の治安を預かる兵士として魔剣を使って捕縛して行ったのなら職務の一環として許されたのかもしれないが、ゲイリーの今回の一件は明らかに利己的な正義感によるものだ。


「あなたは犯罪者が憎かったんでしょ。だったら、あなた自身も犯罪者として裁かれるだけの話よ」


 明確な現行犯。

 捕縛できるような対象ではなかったため斬った。

 パル少年やジェム少年のように魔剣から離しただけでは止まらなかったのが処遇を明確に分けた理由だ。


「そ、そういう訳には……」


 這ってでも近付こうとするゲイリー。


「マルス」

「ああ」


 這う事しかできないゲイリーに回復薬(ポーション)を掛ける。ここまで傷付いてしまうと回復薬を使ってもできるのは止血ぐらいだ。


「俺を治療するんですか?」


 助けられる命なら助けたい――そんな殊勝な心掛けからではない。


「どこで、この魔剣を見つけたのか教えてもらおうか」


 落とした魔剣を拾う。

 【魔力変換】で消してしまうと諦めた表情になる。


「……地下5階です」

「ジェム君も地下5階で見つけたって言っていたな」


 地下5階に何かあるのか?

 言い知れない不安に駆られているとノエルから念話が届く。


『――今すぐそっちに喚んで!』


 どうやら緊急事態らしい。


「シルビア、アイラ行くぞ!」


 色々と騒ぎが起こっているが、今は救援に駆け付ける方が優先だ。


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