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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第22章 魔剣生産
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第18話 転移自在魔剣―前―

「さて、こっちはこっちでやる事があるな」


 手首から先だけが残った魔剣を拾う。


「お、おい……!」


 魔剣を拾った事で精神が汚染されてしまうのではないかと焦るグステン。


「これぐらい平気だ」

「どういう抵抗力だよ……」

「ただ、あまり持っていたくない剣だな」

「そうか!」

「耳元で何かを囁いているような感じがして気持ち悪い」


 俺にはその程度の影響しか与えられない。

 初めて魔剣を持ってみたが、不快なだけなのでさっさと消す。


「は?」


 忽然と消えてしまった魔剣にグステンが目を見開いている。


 ――どこへ行った?


「収納系のスキルか? それとも魔法道具でも持っているのか?」

「どっちでもいいだろ」


 至極どうでもいいので聞き流す。

 実際には収納した訳ではなく【魔力変換】によって実体からエネルギーへと変換しただけである。収納リングや道具箱に入れておけば安全かもしれないが、先ほどのジェムのように誰かの手に渡ってしまうと危険なのでさっさと魔力に変換してしまう。


「今のを見たな。俺たちなら安全に魔剣を預かる事が可能だ。もしも、こんな危険な代物を持っているような奴がいるなら渡して欲しい。持っているだけなら法律的には罰せられる事はない。けど、これだけの事件を同じように魔剣を持っている奴が何度も起こしているんだ。持っているだけでパレントだとどういう目で見られるのか考えて欲しい」

「……」


 この状況で危惧したのはパル少年のようにこっそりと持ち帰ってしまった可能性だ。迷宮へ来るまでに擦れ違った冒険者たちは、魔剣に支配されているような様子がないから放置させてもらった。もしも、あれだけ疲れた状態なら簡単に魔剣の影響を受けていたはずだ。


「俺たちが安全に預かってやる」


 お互いの顔を見る冒険者たち。

 強制依頼であるため功績に応じて報酬は分配される。

 もしも、自分だけが多くの報酬を得ようと思うのなら抜け駆けする必要がある。


 魔剣が出る状況で最も稼げる方法は魔剣を持ち帰って貴族などに高額で売り払うことだ。ベテラン冒険者ともなれば貴族への伝手があってもおかしくない。

 疑心暗鬼になる冒険者。


 そして、疑心暗鬼になっているのは冒険者だけではない。

 この場にいるギルド職員や兵士、商人たちも抜け駆けをしてもおかしくない。


「……名乗りでるかな?」

「ま、素直には名乗り出ないだろ」


 アイラの言葉を否定する。

 こんな風に提案したぐらいで名乗り出るようなら最初から隠し持っていたりしていない。


 だが、こうして提案する事によって疑心暗鬼になり動揺が広がる。

 その動揺は魔剣のつけ込む隙となる。


「さすがに魔剣を隠し持っているような奴はいないんじゃないか?」


 俺たちも最も接し易いレドさんが尋ねる。


「それならそれで構いません」

「わたしたちが求めているのはこの場の安全ですから」

「今は魔剣の精神汚染に耐えているみたいだけど、いつジェム君みたいに暴走するか分からないからね」


 きちんと回収できなければ安心できない。


「だが、名乗り出なかった場合はどうするつもりだ?」

「必ず名乗り出ますよ」


 あの騒ぎ以降に迷宮から出て来た者はいない。

 もしも、魔剣を持った者がこの場にいるのなら魔剣が無力化され、魔力に変換されて跡形もなく消えてしまう瞬間を見ていた事になる。


 魔剣を持っている者にとっては自分の手も斬り落とされてしまうのではないかという不安に駆られる。

 そして、魔剣も自らが消滅してしまう不安に駆られる。


 魔剣は使用者の欲望を増幅させて欲望のままに動く。

 堪え性のない魔剣の事を考えれば何らかの反応を見せるはずだ。


「こっちは戦力が半分に減っています。魔剣にとっては好機に見えるはずです」

「ぐあっ!」

「ぎゃあ!」


 あちこちから悲鳴が上がる。


「ほら、名乗り出てくれた」


 自分が見つけられる前に欲望を満たそうと動き出した。

 二人の冒険者が斬られたようで血を流していた。


「そんな事を言っている場合か!」


 声を荒げたレドさんが斬られた様子の冒険者の一人に近付く。


「あぁ!」

「うっ……」

「なに?」


 近付いている間に二人の男が斬られていた。


 しかし、奇妙だ。

 後から斬られた二人のいる場所は、30メートル近く離れている。

 一人目の男が斬られてから二人目の男が斬られるまで少しばかり時間があったとはいえ移動を考えるとあまりに短過ぎる。


「おい、そいつらの手当てをしてやれ」

「はい!」


 レドさんが部下に指示を出して斬られた4人の容態を見るように言う。

 4人とも深く斬られていて血を多く流していて危ない状態ではあるものの息はまだある。


「クソッ、どこへ行った!?」


 問題は斬った犯人が見つからない事。

 周囲が薄暗くなってきたこともあって人の姿が確認し辛くなっている。


「どう思うシルビア?」

「斬られる直前に気配が現れて直後に気配が消えています。パル君の持っていた魔剣と似ていますが、気配が常に消えている訳ではありません」


 斬る瞬間のみ気配を消していられないという可能性もあるが、シルビアは全く別の可能性を提示した。


「敵はおそらく『瞬間移動』が可能な魔剣を所有しています」


 俺たちの使う【跳躍(ジャンプ)】と同様に別の場所へ瞬間的に移動する事ができる魔剣。


「厄介だな」


 斬った後でどこへ跳んだのか分からない。

 今も魔剣の姿を見失っていた。


「どこへ行ったのか気配を追えるか?」


 俺の質問にシルビアが首を振る。

 彼女も全く違う場所へ一瞬で移動されてしまっては気配を追うのは難しい。


「斬った瞬間に反応する事なら――」

「がぁ!」

「――そこです!」


 誰かが斬られた。

 その瞬間を逃さずシルビアが体を向ける。


「……ギリギリ間に合いませんでした」

「そんなに落ち込むな」

「ただ、犯人は兵士の誰かです」

「なに?」


 シルビアは魔剣使いが移動する直前に人影を捉えた。

 顔までは見ることができなかったが魔剣使いが兵士の制服を着ていたところまでは捉えることができた。


「兵士が冒険者を襲う、か」


 先ほどから正体不明の魔剣使いに斬られているのは全員が屈強な体をした冒険者たちだ。

 明らかに狙われている。


「何か冒険者である事に共通点がありそうだな」


 そんな事を考えている間にまた一人の冒険者が斬られた。


「屈強な男の冒険者、ね……」

「な、なんだよ」


 すぐ近くにいたグステンを見る。


「いや、あんたも条件に当て嵌まりそうだなと思ってな」

「お、俺が何をしたって言うんだよ」

「数日前にパレントへ来たばかりの俺が知る訳ないだろ」


 次々と斬られて行く冒険者たち。

 少なくとも斬られた奴らに対して個人的な恨みを持っている、と言うよりも何らかの条件を満たしている奴らに対して攻撃をしているように見える。


「あ……!」


 何かに気付いた様子のグステン。


「どうした?」

「し、知らねぇ……! 俺は何も知らない」

「おいおい……」

「俺はもう魔剣に関わり合いになるつもりはない!」


 ジェムに敗北してしまった事がよほどショックだったのか戦意を喪失してしまっている。


「今さらそんな言葉が通用すると思っているのか?」


 既に8人の人間が斬られている。

 グステンの怯えようからして彼自身も斬られる条件を満たしている。

 それでも斬られていないのは彼が負傷していていつでも斬られるから。更に言えばすぐ近くに俺みたいな不確定要素の大きい脅威となる存在がいるからだ。


「た、頼む……俺を助けてくれ」

「もう手遅れだ」

「え……がっ!」


 背中から斬られるグステン。

 魔剣使いから見れば隙だらけだったのだろう。


「はい、そこまで」


 グステンを斬った魔剣使いの手首をシルビアが掴む。

 魔剣使いが現れた場所は10メートル先のグステンの背後。これだけ近距離へ転移してくれれば一瞬――斬るまで2秒しかないとはいえ、シルビアなら相手の体を捕らえる事ができる。


 誰かに捕まえられた状態では転移することができないらしく動きが止まる。

 そうすれば正体不明だった相手が姿を現す。


「どういうつもりだ!?」


 正体不明の魔剣使いに向かってレドさんが吼える。


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