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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第22章 魔剣生産
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第15話 迷宮からの襲撃者

 パレント近くにある迷宮。

 迷宮までは街の外にある舗装された道を1時間ほど歩いて辿り着くことができるらしい。道は、2台の馬車が横に並んで走っても余裕があるほどで、迷宮で得た物を持ち帰る為に馬車が利用されている。


 途中、馬車とも擦れ違った。

 馬車の荷台には多くの人、それから物が入った樽が詰め込まれていた。

 乗っている人は疲れた様子を隠そうともせず、きちんと戦利品があることから稼ぐ事には成功したらしい。


 迷宮前。

 そこは多くの人で賑わっていた。急な強制依頼で迷宮へ来る事になった冒険者。そんな人たちをサポートするギルド職員。そして、彼らを相手に商売をする商人。


「あいつらはここが危険な場所だっていう意識がないのか?」

「おそらくないのでしょう」


 一般人の商人にとっては『迷宮へ入らなければ安全』。

 そういう認識なのだろう。


 いや、それは迷宮に慣れているはずの冒険者たちも同じだ。

 稼ぎが良かったのか酒盛りをしていて酔っている連中までいる。


 呆れるしかない。


「普段ならその通りなのですが……」


 少なくとも酔っている連中や無警戒な連中はどんな目的の依頼なのか自覚していないことだけは間違いない。


「お、お前たちも来てくれたのか」


 アイラと知り合いだった年配の門番であるレドさんがいた。


「どうしてこちらに?」

「街の方からも兵士を出して合同で調査をしているんだ。今の俺は、地上で集まった冒険者が暴れたりしないように監視しているのが仕事だな」


 成果が得られなかった冒険者などは稼ぎが悪く、時には自棄酒によって暴力を振るってしまう場合がある。

 この場には力のない新人もいるので取り締まる必要がある。


「……行くんだな」

「ええ、今日と明日ぐらいで問題を片付けます」


 その言葉にピクッと反応する者が何人かいた。


「おいおい、随分と凄い事を言うもんだな」


 上機嫌に酔っていた冒険者の一人が近付いて来た。

 髭の生えたいかにもベテラン冒険者といった感じの人物だ。


「見ない顔だな。ガキが粋がってんじゃねけよ」

「ハァ……」


 思わず溜息を吐いてしまった。

 単純に実力がないからなのか、酔っているせいなのかは分からないが相手の実力も分からない人らしい。

 もはや相手にするのも馬鹿らしい。


「行くぞ」


 酔った冒険者を置いて迷宮へ向かう。

 迷宮はアリスターのと同じように洞窟になっており下り坂が続いている。


「待てよ」


 自分を無視して歩き出した俺たちへ向かって手を伸ばしてきた。


「はいはい、ストップ」


 俺と酔った冒険者の間に立ち塞がったアイラが男の手首を掴む。


「何しやがる!」


 力なんてほとんど入れていない。

 男の動きを止める為だけの拘束。

 それでも酔った冒険者にとっては男の自分が女に止められたというだけで許せない。


「テメェら!」


 酔った冒険者の後ろにいた仲間と思われる同じくらいの年齢の3人が武器を手にする。


「……」

「うっ……」


 アイラが睨み付ける。

 それだけで男たちは動けなくなってしまった。


「何者だテメェら」

「別に。たまたま街に立ち寄っただけの冒険者よ」


 そう言って掴んだ手首を放す。

 絡まれるのは困るが、下手に返り討ちにでもして面倒事に発展するのはもっと困る。


「実はだな――」


 レドさんが俺たちの素性について教える。

 ただし、冒険者ランクとアイラがパレント出身で里帰りにたまたま帰って来てくれただけだという事だけを伝える。


 ランクを聞いて酔っていた冒険者が酒による酔いが醒めてしまうほど驚くが、こちらの実力に納得したような顔になる。


 だが、すぐにこちらを睨み付けて来た。


「悪いが、余計な事はしないでもらおうか」

「余計な事?」

「ああ、魔剣が見つかった影響なのか迷宮の浅い階層でも価値の高い物が見つかるようになった。魔物の強さはそのままで、だぜ。こんな稼ぎ放題な状況を元に戻される訳にはいかないんだよ」


 もしも魔剣騒動の大元が解消されるような事になれば稼げる状況まで元に戻ってしまうかもしれない。


「既に街で被害が出ている。放置する訳にはいかないんだよ」

「知っているよ。昨日の事件があったせいで俺たちは狩り出されたんだからな」


 男の目には怒りが混じっていた。

 おそらく男の仲間か知り合いでも犠牲になったのだろう。


「それだけじゃない。さっき俺たちは二人目の魔剣使いに襲われた」

「……!?」


 昨日から迷宮に潜っている連中は街であった今日の事件を知らない。

 近くには兵士もいるので事の顛末を語る。


「そんな……パル君が……」

「あいつが、嘘だ!」


 パル少年と知り合いらしい兵士が犠牲になった悲しみから頭を抱えている。迷宮の探索をしている者の中に無駄な犠牲者が出ないように見張る役割も彼らにはあった。ところが、実際にはみすみす見逃して犠牲にしてしまっている。

 それとパル少年と同年齢の男の子が怒っている。心優しい子供だったパル少年が誰かを襲撃するなど考えられないのだろう。


「それが魔剣使いになるっていう事よ」


 ポンポンと少年の頭を撫でる。

 薄らと泣いていた少年は年上の女性から頭を撫でられて恥ずかしそうにしていた。


「チッ、くすねた奴がいるのか」


 一方、舌打ちをして悪態をついている者もいた。


「お前ら、持っていないだろうな!」


 離れた場所で怯えるように座り込んでいた子供たちを怒鳴る。

 怒鳴られた子供たちは全力で首を何度も横に振っていた。


 強制依頼を引き受けている最中に迷宮で手に入れた財宝は最後に正当な評価が下されて各々の功績に応じて分配する。ギルドへ提出せずにくすねるような真似をされれば分配額が減る事になる。


「おい、これからはもっと見張れ」

「ハッ!」


 何人かの冒険者が男の声に応じる。

 それなりの実力を持っている人物たちでパレントにおいては上位クラスなのは間違いない。


「分配額の事よりも被害を気にするべきじゃないか?」


 襲われたのが俺たちだったから被害を全く出さずに事件を収束させることができたが、冒険者の数が少ない状況で襲撃事件が発生した場合には昨日以上の被害が出ていたのは間違いない。


「あ? そんな事よりも金だ」


 しかし、男に被害を気にした様子はない。


「もしも、魔剣を手にして暴れるような奴が出た時には俺たちがそいつを倒して報酬金までガッポリ頂くぜ」

「そうだな」


 男たちが笑い合っている。


「いいんですか?」


 悩ましそうに男たちの会話を聞いていたレドさんに尋ねる。


「いい訳がない。彼らのリーダーはBランク冒険者で実力があるのは間違いないのだが、3年前にパレントへ来たばかりの冒険者で、既に引退を考えているようなロートルの冒険者だ。おまけに昨日は朝からずっと寝ていたせいで事件があった事にも気付けなかった連中だ。奴らの言葉は信用できない」


 5年前にもいなかった。

 そうなると魔剣使いの脅威を全く知らない事になる。


 ……なら、ちょうどいい。


「そんなに自信があるなら任せました」

「あん?」


 迷宮の入口がある場所を指差す。

 笑っていた冒険者たちが笑い声を止めるとズルズル、という何かを引き摺る音が入口から聞こえてくる。


 ――ゴクッ!


 異様な音に誰かが唾を呑み込む音が聞こえるほどだ。

 全員が暗い入口を注目している。


 やがて――一人の少年が姿を現す。


「なんだ荷物持ちに雇ったガキか」


 ここまで同行して顔見知りにもなったのだろう壮年の男が呟いた。


 だが、すぐに少年の手に握られている物に気付いた。

 髪だ。手の隙間から茶髪がはみ出ている。


「おいおい……!」


 徐々に見えてくる全貌。

 髪の先には当然、体があり若い男の顔が見えた。

 だが、見えたのは腰までだ。

 腰から先は綺麗に切断されてしまったらしく見える場所にはない。


「ヒヒッ」


 少年が厭らしく笑う。


「ヤベェ……」

「え……」


 その笑みを見た冒険者の男が仲間の襟を掴むと自分の前に掲げる。


 直後、真っ赤な花が咲いた。


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