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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第22章 魔剣生産
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第14話 協力の条件

「まず、パル少年との一件から報告して欲しい」


 ギルドマスターは他にも仕事があったので簡単な報告しか受けていない。

 なので、街中でお土産を物色していたところ急に襲われた事からパル少年が魔剣を所有していた事。そこから魔剣の能力や撃退方法については詳細を省いて「気配まで消せる相手を追える魔法道具を持っていた」という簡単な報告で逃げ切った。


「まさか、あの子が魔剣を手に入れただけでそこまで強くなるなんて……」


 ギルドマスターが報告を聞いて頭を抱えていた。

 パル少年のランクでは剣を満足に振るうことすら難しい。それが魔剣を手にしただけで高ランク冒険者を脅かすほどになっていた。

 残念ながら天敵とも言える魔法道具を持っていたせいで俺たちには歯が立たなかった。


「これが、その魔剣です」


 テーブルの上に見せる。

 アイラが根元から斬ってしまったので柄と刃の両方をきちんと回収しておいた。こんな状態では精神汚染など微々たる事しかできず、俺たちの魔力の前では万全な状態だったとしても全く影響を与えられていない。


「これが……」


 ギルドマスターが手を伸ばして回収しようとする。

 その前にこちらで収納リングへ回収してしまう。


「どういうつもりだ?」

「これは、俺たちにとって戦利品です」

「申し訳ない。昨日の魔剣と同様に証拠品として――」

「――残念ですが、そういう訳にはいきません」


 回収されてしまっては、こちらは被害を受けただけで何も得られていない。


「昨日の魔剣は他にも被害者がいましたから彼らに配慮して証拠品として提出しましたが、今日の事件については被害者が俺たちしかいません。配慮すべき人が俺たちしかいないのなら魔剣は回収させてもらいます」


 まだ試していないが、魔剣なのだからかなりの魔力になる。

 これぐらいの役得がなければやっていられない。


「そもそも街の警備兵は何をしていました?」


 騒ぎが起こっても彼らは駆け付けなかった。

 いや、近くにはいたのだが、襲撃者が持っている武器が魔剣だと分かって恐怖から思わずしり込みしてしまっていた。

 彼らでは、いたところで役に立てるとは思えない正しい選択ではある。


「こっちへ何かしらの報酬があってもおかしくないんじゃありませんか?」


 最悪の場合には暴走して手当たり次第に人を襲っていた可能性だってあった。

 そうなる事態を回避したのだから報酬があってもおかしくない。


「ぐっ……」


 反論できずにギルドマスターが唸っている。


「では、そろそろ本題の方へ入りましょう」


 3本の魔剣。

 その詳細を聞く為にギルドマスターの私室を訪れた。


「まず、昨日の『筋力増強』の魔剣が1本目ですよね」

「そうだ。そして、10分以上前に迷宮へ送り込んでいた調査隊が見つけた財宝の一部を持ち帰ってくれた」


 ギルドマスターが部屋の奥に置かれていた重たいケースをテーブルの上に置く。

 ケースの中には茶色い刀身の剣が入っていた。


「詳しい事は分かっていないが、まず間違いなく魔剣だと思われる」

「そうね」


 アイラが憎々し気にケースの中身を見る。

 ケースの中にある剣からは間違いなくこれまでに遭遇した魔剣と同様の禍々しい魔力を感じる。


「これだけだと思っていたところに下での騒ぎを聞き付けた」


 3本目として見つかったのがパル少年の持っていた『消える』魔剣。


「これらの魔剣は共に迷宮の浅い階層で見つかったらしい」


 足手纏いにしかならない荷物持ちを連れても問題ない階層でパル少年は魔剣を見つけた。

 この魔剣も近くで見つかった物だろう。


「正直言って魔剣が本当に見つかるとは思わなかった」


 これまで5年前に見つかった魔剣以外は出なかった迷宮。


「たしかにおかしい」


 迷宮は主がいなければ決められたルーチンワークに従って生産と補給を繰り返すはず。

 ところが、魔剣はこれまで見つかっていない。ホプキンスの持っていた魔剣はともかく、今日見つかった2本の魔剣は浅い階層で手に入れた。浅い階層ならば新人冒険者の手によって散々探索し尽くされたはずだ。

 そうなると、ルーチンワークから外れた生産となる。


 もちろん迷宮のルールなど迷宮主でもないギルドマスターがルーチンワークの事など知るはずもない。

 彼には突然、魔剣の入った宝箱がばら撒かれたようにしか感じられない。


「で、協力っていうのは?」

「昨日も言ったように迷宮の調査を引き受けて欲しい」


 魔剣が本当に見つかったことで危険度がさらに増した。

 茶色い魔剣が入れられているケースを確認してみる。どうやら特殊な材質で作られているらしく、精神汚染の影響を遮断する効果がある。


「よく、こんな物を持っていましたね」

「以前に魔剣騒動があったせいだ。もしも、次に同じような事があった場合には誰かの精神が汚染される前に奪い取る為に王都の職人に頼んで作ってもらった魔法道具だ」


 材質はもちろん特注。

 こんな物を加工するにも技術が必要になる。

 間違いなく高価な物だったに違いない。


「他には?」

「ない」

「は?」

「あまりに高価だったために2本以上の魔剣が出た時に備えることができなかった」


 さすがに高価な物を実際に使うのかどうかも分からないのにいくつも用意しておくようになどとは言えない。

 このケースだと入れられて1本。無理をすれば2本目も入るかもしれないが、その時は中からの精神汚染に耐えられる保障がない。それでは本末転倒だ。


「いくつかの条件を呑んでくれるなら調査依頼を引き受けてもいいです」

「おお!」

「まず、一つ目。調査中に何があったのか一切を報告しない」

「そ、それでは……迷宮が安全になったのかどうか分からないだろ!」


 そもそも原因が分かっていないのに原因が取り除かれたとは言えない。

 ギルドとしては、迷宮が精神を汚染されてしまう魔剣が出る危険な場所ではないと宣言する為にも原因ぐらいは知っておきたい。


「その辺はAランク冒険者5人を信じて下さい、としか言えないですね」

「それは――」

「では、そっちにとっていい条件の方から教えましょう。今回のギルドからの報酬はいりません」

「なに?」

「代わりに迷宮内で手に入れた全ての物の所有権を認めて下さい」


 ギルドから頼まれて迷宮へ赴くが、報酬は現物のみ。

 迷宮の探索はアタリとハズレの差が大きく、何も成果が得られなかった場合の方が多い。


「そして、3つ目の条件。今回の異常事態を解決したのがアイラだと街の人たちに向けて喧伝する事」

「ちょっと――」


 予想外の条件にアイラが立ち上がる。


「こっちは大真面目だ。お前は過去の事があるから今の状況を受け入れているのかもしれないが、数日だけだったけど街の人たちと触れ合ってお前は楽しそうにしていた。なのに過去に色々あったせいで帰ることができないなんて可哀想だ」


 パル少年のようにアイラの事を恨んでいる人が未だにいる。

 もしも、もう1本の魔剣がアイラを憎んでいる相手の手に渡った場合には同じように襲われていたかもしれない。


 街に帰りたいとは思っていないかもしれない。

 しかし、遊びに来る度に襲われるようでは困る。


「次にパル少年のように襲って来る相手がいた場合には容赦をしない権利を与えて欲しい」

「さすがにAランク冒険者が一般人を相手に手を上げるのは……」

「パル少年は一般人なんかじゃない。魔剣という凶悪な力を手にして襲い掛かって来たんだから犯罪者でしかない。それでも無事でいられるのはこちらが配慮したに過ぎない」

「むぅ……」


 法律に従えばパル少年は返り討ちにされても文句を言えない。


 ギルドマスターが唸っている。

 彼ら親子の境遇を知っているだけに同情してしまっている。


「無理なら無理で構わないですよ。その時は、当初の予定通りに帰るだけですから」

「ま、待ってくれ……!」


 パレントにはAランク冒険者がいる訳ではない。

 実質、俺たちがパレントにおける最高戦力と言っていい。

 予想外な事態に起こった予想外に舞い込んで来た高ランク冒険者。

 ギルドマスターとして絶対に逃す訳にはいかなかった。


「分かった。その条件を受け入れる。その代わり、迷宮にある魔剣を全て回収してくれ」

「いいでしょう」


 既に3本の魔剣があった。

 4本、5本と新たな魔剣が見つかってもおかしくない状況だ。


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