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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第22章 魔剣生産
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第8話 強制依頼

「あぃ、あぃ!」

「……ん?」


 アイラの膝の上で抱かれながら必死に手をテーブルに向かって伸ばすシエラ。何を要求しているのかは手の先にある物を見れば分かる。


「飲みたいの?」

「あぃ!」

「う~ん、ミルクならよさそうな気もしなくはないけど……」

「う!」


 憤るシエラ。

 今のところシエラには母乳以外の物を与えていない。

 別に何かが食べたい訳ではなく、みんなが同じ物を食べている中で自分だけが食べられない状況が気に入らないだけだ。


「やれやれ、やっぱりアイラの子供だね」

「おばさん」

「はい、これ」


 おばさんが哺乳瓶を差し出して来た。

 中にはしっかりとミルクが入っている。


「……飲ませても大丈夫?」

「大丈夫だよ。アンタだってこの子と同じくらいの頃から同じ物を飲んでいたんだからね」

「え!?」


 驚愕の事実が告げられた。


「生まれたばかりのアンタをマックスはよく連れて来たからね。アンタ覚えていないだろうけど、その時に自分にも飲ませるようこの子と同じように催促していたもんだよ。血っていうのは争えないね」

「……いただきます」


 気まずくなりながらも哺乳瓶を受け取ってシエラの口に近付ける。

 最初は吸い方が分からず戸惑っていたシエラだったが、ミルクが飲めると分かると必死に吸っていた。


「けふっ」


 けど、まだまだ赤ん坊。

 哺乳瓶の中身を少し飲んだだけで満足してしまった。


 赤ん坊は満足すれば眠ってしまう。アイラの腕の中でゆっくりと眠っている。


「あ、あの……」

「なんだい?」

「作り方を教えてくれませんか?」

「そんな事かい? それぐらいならお安い御用さ」

「ありがとう、おばさん」


 おばさんと一緒に店の奥にある厨房へ消えて行くアイラ。


「一緒に来て」

「え、ちょっと……」

「あたし一人だと覚えられないし、あんたも必要になるでしょ」


 戦力としてシルビアも連れられて行った。


「よかったですね」

「ああ」


 アイラからシエラを受け取ったメリッサが笑顔になっていた。

 色々とあって家出するように故郷を出て来たみたいだから帰らせることに少しだけ不安があった。住人の中には未だにアイラを許せない人もいるみたいだけど、概ね受け入れられているみたいでよかった。


 あらためて食事を続ける。


 ――バン!


 店の扉が大きな音を立てて開けられた。


「こ、ここにいたんですね……!」


 誰が乱暴に開けたのかと思って見ればギルドで見たマルセラさんがいた。

 マルセラさんは急いで駆け込んで来たらしく、店の中に俺たちがいることを確認した直後に膝に手を吐いて荒い息を調えようとしていた。


「……どうしたんですか?」


 明らかに普通ではない様子。


「アイラはいないんですか?」

「今は席を外していますけど……」


 厨房の方を見ると楽しそうにしている。

 おばさんは店へ新たな人が入って来た事には気付いたものの入って来た人物が冒険者ギルドの制服を着た女性で俺たちと話をしている事から店の客ではないと判断していた。

 もちろん不穏な空気という訳でもない。

 あくまでも事情を説明しているだけだ。


「だったら、あなたたちでも構いません!」

「一体、何があったんですか?」

「強制依頼、ですね」

「はい……」


 マルセラさんの様子からイリスは何があったのか気付いたらしい。


「随分と慌てていましたね」

「……魔剣が発掘されました」

『!?』


 その言葉に全員が驚いてしまった。


「それ、どういう事……?」

「アイラ……」


 中でもアイラの驚きは大きい。

 厨房にいたはずなのだが『魔剣』という言葉を拾ってしまったらしい。


「昨日、みなさんが揉めたホプキンスさんを覚えていますか?」

「ああ」

「あの騒ぎの後で鬱憤を晴らす為に迷宮へ潜ったらしいんです。迷宮へ入る姿をギルドの職員が確認しています。中で何があったのかまでは分かりません。ですが、数時間前に出て来た全身が血で真っ赤に染まっていて、手には禍々しいオーラを放つ剣を持っていたようです」


 その姿を見た職員はアイラの父親が魔剣に支配された時と酷似している事に気が付いた。


 ――魔剣に支配されている。


 迷宮の管理員をしていたギルドの職員は、その場を離脱すると急いで街へと戻って救援を呼んだ。


「既に過去の出来事からギルドにいた冒険者全員には強制依頼を出しました。高ランク冒険者であるみなさんにも手伝う義務があります――」

「――ありません」


 マルセラさんの言葉をキッパリと断るイリス。


「たしかに強制依頼は高ランク冒険者なら断ることができない。けど、対象になる冒険者は、その街を拠点にしている冒険者のみ。たまたま街へ立ち寄っただけの冒険者には適用されない」

「ですが――」

「もしも、私たちの協力が得たいのなら『強制依頼』ではなく、『通常依頼』として話を持って来て」


 強制依頼に報酬は出るものの依頼を出しているギルドマスターの裁量次第なのでボランティアに近いような金額が出される場合がある。

 額に対して冒険者が文句を言う事はできない。

 強制依頼とはそういうものであり、冒険者になった時にそういう条件も全て呑み込んでいるということになっているからだ。


 しかし、通常通りに依頼が出されれば高額の報酬を請求することができる。

 Aランク冒険者を雇う報酬。

 決して安くはない。


「アイラ、また魔剣によって故郷に被害が出てもいいの?」

「それは――」

「旅先でアイラが魔剣を破壊した話は私たちまで伝わっているの。だから、今回も同じように助けて欲しいの」


 マルセラさんの言葉を受けたアイラの視線が俺へ向けられる。


 許可を求めている。アイラとしても色々とあった故郷だが、助けてあげたいとは思っている。しかし、魔剣をどうにかするほどの力を発揮するとなると普通ではない力を披露する必要がある。

 そうなると迷宮眷属の力を一端とはいえ見せることになる。

 それを躊躇している。


「好きにしろ」

「え……」

「お前が『助けたい』って思うなら俺たちは全力で助けてあげる――それだけだ」


 俺の決定に仲間の誰一人反対しなかった。

 全員が頷いている。


 後は、アイラの決断次第だ。今は受け入れてもらえているかもしれないが、仕方のなかった事とはいえ幼いアイラが酷い仕打ちを受けたのは事実だ。助けたくないと言うのならそれでも仕方ない。


「迷う必要はないよ」

「おばさん……」

「あたしはマックスとも顔馴染みだったからアイラの事を表立って悪く言った事はないさ。けど、こんな商売をしているからお客様に悪い印象を与える訳にもいかない。だから、味方になってやる事はできない。今さら、騒ぎがあった時に偶然帰って来てくれたアンタに頼るのは虫のいい話さ」

「私も個人的にはそう思うんですけど……」


 マルセラさんが言い淀む。

 おばさんの想いは、帰って来たアイラを受け入れてくれた人全員に共通した想いでもあった。


「それに、今のアンタが一番大切にしないといけない奴がここにいるだろ」


 おばさんの視線の先には眠ったシエラがいる。

 シエラと故郷。どちらを天秤に掛けるかなど考えるまでもない。


「あたしは――」


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