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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第22章 魔剣生産
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第3話 墓参り

「お父さん、お母さん、それにリック。随分と遅くなったけど、ようやく帰って来る事ができたよ」


 翌日、朝からパレントの郊外にある墓地を訪れていた。

 アイラの家族は犯罪者として裁かれたせいで追いやられるように隅の方で埋葬されていた。いくら魔剣に支配されていたとはいえ、父親が何人もの罪もない人々を手に掛けてしまったのは変わらない。

 そのため墓地の中でもさらに奥にある犯罪者を埋葬する為の場所。その手前で丁重に埋葬されていた。

 アイラ曰く、これでも上等な扱いをされている方らしい。


「お父さんが魔剣に支配されている間に殺しちゃった人たち。その人たちにだって家族はいた訳で、いきなり家族を殺された人にしてみればお父さんにどんな事情があっても恨む対象でしかない。けど、死んだ人をいつまでも恨むなんて効率的じゃないから……」

「その恨みはアイラさんへ向けられたのですね」


 メリッサの問いアイラが頷く。


「事件の後しばらくは、パレントで生活していたあたしだったけど、その間は色々な人から石とかを投げ付けられたり、陰口を叩かれたりしていた。ああ、その前の日までは一緒に遊んでくれていた友達が遊んでくれなくなったのはちょっとショックだったのは覚えている」


 暗い気持ちになって落ち込むアイラ。

 そんな様子になるのを認められない者がいた。


「あぅ」


 ペチペチとアイラの頬を叩くシエラ。

 アイラに抱かれているシエラには母親の暗い表情が見えていた。


「うん。ありがとう」


 元気になって、という想いはアイラに伝わった。


「皆、誰かを恨まずにはいられなかったのよ」

「私もその気持ちは分からなくもないかな」


 イリスは戦争によって家族を全員失った。

 その後、帝国軍を恨む気持ちともう一度同じ事があった時の考えて強くなる事を目標にした。


「そのように誰かを恨み続けるばかりなのは間違っている。けど、恨みを捨てなさい、なんて酷な事は言えない……」


 墓に花を添えながら言うノエル。

 神に仕えていたノエルとしては恨む心からは何も生まれないとしか言えない。


「俺は恨む側の気持ちを否定しないさ」


 報復をした人間としては否定できない。


「もちろんあたしにだって分かっている。だから、あたしに石をぶつけて来た人たちに対して文句を言うような事はないわ」


 それでアイラが納得しているのなら俺から言う事はない。


「はい」


 シルビアは静かに墓を綺麗にする為の掃除道具を差し出すだけ。


「ありがとう」


 二人の付き合いは眷属の中では最も長い。

 それ故に俺でも知らない話をたくさんしていたし、二人にしか分からない信頼関係があった。


 黙々と雑巾で墓を拭いて行く。

 6人で分担すれば掃除なんてあっという間だ。


 墓の前にシエラを抱えたアイラが立つ。

 仲間である俺たちは少し後ろで待機だ。


「えっと……何て言えばいいのかな?」


 いざ挨拶をしようとすると何を言えばいいのか迷ってしまうアイラ。

 これまでの生活はあまり褒められたものではないだろう。父親の犯した罪の責任を取る為に冒険者になって魔剣の情報を集めて旅に出た。そこからの流浪の旅を教えれば親として心配させてしまうのは間違いない。

 俺もシエラが同じような事をしようとしたら全力で止める。


「あぃ!」


 そんな静寂を打ち破ったのは赤ん坊のシエラだ。


「シエラ……?」

「あ、あぃ、あぃ!」


 必死に何かを掴もうと手を伸ばしている。抱えているアイラも自分の腕から零れ落ちてしまわないか心配そうにしている。


「これは……」


 何かに気付いた様子のメリッサ。

 墓に向かって手を掲げると魔法を発動する。


「ああ、俺にも分かった」


 魔力探知に反応があった。

 メリッサが使用した魔法は【死霊術】。死者の魂を支配し、操る事が可能になる魔法。時には生前の意識を保ったまま会話も可能になる魔法なのだが、死者を冒涜しているとして教会からは異端視されている。

 そのため使えても使えないフリをしている者が多い。


 全ての魔法が使用可能なメリッサは当然のように使える。

 そうして【死霊術】を目の前にある墓に対して使用する。


 墓の下にはアイラの両親と弟の遺体が埋葬されている。


「ああ、やはりダメですね」


 さすがに亡くなってから5年が経過している。

 メリッサの魔力をもってしても本人たちの気配を僅かばかり強くするのが精一杯だった。

 だが、確かに『そこにいる』という実感がある。


「えっと……」


 報告をしようとしていたアイラも困っている。

 思わず後ろを振り向いてしまっている。


「亡くなってから5年も経過していれば、いくら私の魔力でもこのように気配を強くする事すら不可能です。にも拘らず、こうして気配を強くする事ができたのは娘の帰郷を察知した両親が魔力の残滓を寄せ集めてくれたからです」


 メリッサが行ったのはあくまでも魂の強化。

 大元である魂は本人たちが自発的に集まっていた。


「後は孫の存在でしょうか」


 子供を抱える娘の姿を見て直感的に自分とシエラの関係を理解したらしい。


「シエラが何かに気付いたのは?」

「子供というのは純粋です。それ故に自分と近しい存在を感じ取ったのでしょう。それと闇属性の才能があるのかもしれません」


 死霊術には、死者の存在を感知する必要がある。そういった能力を得る為には、闇属性の適性が高い必要がある。

 どうやらシエラにはそういった適性があるらしい。


「それで、何を報告しますか?」

「それは……」


 そんなものは最初から決まっていた。

 深呼吸して気分を落ち着かせると抱いていたシエラを墓の前に掲げる。


「見て、お母さん。あたしも母親になって、こんなに可愛い子供に恵まれたよ。それに後ろにいるのが今のあたしの家族。一度は一人ぼっちになったあたしも家族をもう一度手に入れる事ができたんだ。だから、お父さんも安心して眠って。早くに死んだリックの分まであたしが精一杯生きてシエラを育てるから。ね、シエラ」

「あぃ」


 娘と孫の声が届いた訳ではない。

 それでも墓の上に留まっていた気配は、まるで安心したかのようにその場から消えていく。


 ――アトハタノム。


 そんな声が聞こえたような気がした。


「言われなくても……」


 もう心配する必要がなくなった。

 心残りがなくなった事で死者の魂は浄化されたらしい。


「態々付き合ってくれてありがとう」


 振り向いたアイラの目には薄らと涙が滲んでいた。


「あ、あれ……?」


 自分でもどうして涙を流しているのか分からない。

 シルビアがそっと近づく。


「泣きたい時は思いっ切り泣いた方がいいわ。どれだけ強がって口では平気だって言っていても家族を亡くしたことには変わりがないんだから」

「ご、ごめ……」


 抱いていたシエラをシルビアに託すと両手で目を覆ってしまう。

 嗚咽と共にポタポタと地面に落ちる涙。


「やっぱり寂しいよ……生きている内にシエラを見せたかったよ……」


 母親が思いっ切り泣いている姿を見て心配したシエラが手で何度もアイラの体を叩いている。自分が触れる事で少しでも落ち着いて欲しいのだろう。


「シエラ、今は泣かせてあげましょう」

「あぅ?」

「アイラは母親になってもまだ17歳。本当ならシエラみたいに母親を求めたいぐらいなんだから」


 俺たちにできるのは、泣き止むまでこうして傍にいる事だけ。

 こういった問題はアイラが自分の中で折り合いを付けなければならない。


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