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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第22章 魔剣生産
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第2話 帰郷

 パレント。

 広大な牧草地帯があるおかげで畜産を中心に発達した街。

 ただ、そういった豊かな資源のある場所は魔力に恵まれているため魔物の出現がどうしても多くなってしまう。そのため魔物を退治してくれる冒険者が必要になってくる。


 その中の一人だったのがアイラの父親だ。

 パレントの周囲には魔物が出没する場所だけでなく、どの程度の規模があるのか分からないが迷宮がある。

 迷宮で稼がせ、街に滞在してもらうことで魔物を討伐してもらっていた。


 微妙な調整が必要ではあるもののパレントはそうして発展を遂げる事に成功した。


「ようやく着きましたね」

「だな」


 目の前には魔物の襲撃に備えた壁で囲まれた大きな街があった。

 アリスターからパレントまで5日。アイラのうろ覚えな記憶を頼りに進んできたため少しばかり時間が掛かってしまった。


「仕方ないでしょ。何年も前の話なんだから」


 今回の旅にはパーティメンバー全員が同行している。

 俺とアイラだけで行動する許可が下りず、希望者を募ったところ全員が同行することになった。


 俺としては、もう一人ぐらいいればよかったんだけど……


「わたしたちは既に家族です。ご主人様が挨拶をするのにアイラと同じ立場であるわたしたちが挨拶をしない訳にはいきません」


 シルビアのその一言で全員が同行することになった。


「随分と長閑な場所だな」


 街の門には武器を装備した冒険者の姿がチラホラと見えているが、それと同じくらい街の外では牛や羊を連れた農夫の姿が見える。

 農夫の表情には緊張した様子がない。

 それだけ安心して街の外へ出掛けられるという証拠だ。


 冒険者が滞在していてくれるおかげで街は安全が保たれていた。


「何年振りなの?」

「12歳の時に飛び出したから……5年振りかな?」


 シルビアの問いに答えるアイラ。

 5年程度では大きく変わったところはないだろう。


「あ、ちょっと待って」


 アイラの姿が消える。

 単純に【転移】で屋敷へ戻っただけなので誰も心配していない。


「ただいま」


 3分後、連絡があったので【召喚】で喚び出すとシエラを抱えたアイラがいた。


「おまえ……シエラを連れて来るのは明日にするんじゃなかったのか?」


 今日は既に夕方だ。

 墓参りをするのは明日だと朝の内に決めていた。


「そうなんだけど、どうせなら知り合いに見せてあげようかなって思ったの」

「ま、いいけどな」


 大人しい子なので目の前の景色がいきなり変わっても騒ぎ出すような事もない。

 パレント出身であるアイラを先頭に街の門へ近付く。


「ん、お前たちは見ない顔だな」


 門の前では4人の兵士が警備をしていた。

 パレントのような長閑な街の門なら利用する人は限られている。別の街へ商売の為に出掛ける商人、動物の世話をする為に牧場へ向かう人、魔物を狩る冒険者。

 門番なら利用する人の顔を覚えていても不思議ではない。


「その反応は悲しいかな」

「おまえ……」


 門番の中でも年配の男性が目を細めてアイラを見る。


「久しぶりレドおじさん」

「まさか、アイラか!?」

「正解」

「何年振りだ?」

「5年振りよ」

「そうか。あの事件から5年も経過しているんだな」


 昔を懐かしむレドさん――レドさん。


「隊長。この人は知り合いですか?」


 門番の中でも若い青年が尋ねてきた。


「お前が兵士になる少し前に魔剣騒動があったのは覚えているな」

「はい。結構な被害が出たと聞いています」

「バカ野郎!」


 レドさんが若い門番の頭を叩く。

 若い門番の言葉を聞いてアイラが少しだけ落ち込んでいたので肩に手を置く。

 事件当時は兵士でなかった若い門番はアイラが犯人の娘だとは知らなかった。悪気がなかったとはいえ、若い門番の言葉によってショックを受けている事に気付いたレドさんは若い門番を叱っていた。


「あたしはもう気にしていないから大丈夫よ」

「そうか?」

「ええ」

「もしかして……」


 アイラとレドさんのやり取りからアイラがどのような立場にいるのか悟った。


「いいか。あの事件は迷宮から出てきた魔剣が原因で起こった悲劇だと分かっている。これ以上、当時を蒸し返すような真似はするなよ」

「ですが……」

「それにアイラは当時12歳の小娘だったんだぞ。何らかの関与をしていたのならともかく、何も知らなかったアイラにまで責任を追及するのは間違っている」


 実際、アイラの日常は普段通りに過ごしていた何気ない日に打ち壊されてしまった。アイラに責任は何もない。


「ここへ帰って来たのは家族の墓参りか?」

「そんなところ」

「魔剣がどうなったのかは冒険者ギルドを通して知っている」


 アイラが仲間になった後で諸々の報告は済ませている。

 冒険者ギルドは、貴重な魔法道具(マジックアイテム)によって遠方の冒険者ギルドと通信が可能だ。賞金首でもあった魔剣使いが討伐された事は、魔法道具を通じて世界各地の冒険者ギルドへと伝えられていた。


「そうか。マックスの奴もようやく報われるんだな」


 アイラがこうして報告の為に帰ってきた事で全てが終わった、と思っている。

 家族を養えるぐらい優秀な冒険者だったアイラの父親は街の門番だったレドさんとも親しかった。


「ところで、どうして何年も経ってから帰って来たんだ? それと、さっきから気になっていたんだが、お前が抱えている子供は誰かの子供を預かっているのか?」

「何を言っているの? 普通にあたしが生んだ子供よ」

「え――」


 アイラの告白に言葉を失うレドさん。

 次いで、アイラの腕に抱えられているシエラを見る。


「あぃ」


 自分が見られていると気付いたシエラが手を上げる。


「ええ~~~!」


 大声を上げて驚くレドさん。

 その声にビックリしたシエラはアイラの胸に顔を押し付けてしまった。


「もう子供が驚いちゃったでしょ」

「す、すまねぇ」

「そんなに驚く事?」

「ああ、そうだな」


 レドさんの視線が今度は俺へと向けられる。


「他の連中は?」

「あたしの冒険者パーティのメンバー」

「ほぅ」


 女性ばかりのパーティ。

 女性だけのパーティならば何の問題もなかったのだが、アイラも含めて女性5人と男性1人のパーティ。

 そして、こんな状況で帰って来た事から俺とシエラの関係性にも予想が付いているのだろう。


 アイラとレドさんのやり取りを見ている限りかなり親しい関係にある事が伺える。

 どうやら父親を相手にしてしまった時のような状況に陥ってしまったらしい。


「くちゅ」


 シエラが小さくくしゃみをした。


「ごめんね。外は寒いよね」


 まだ9月になったばかりなので暖かい方なのだが、赤ん坊にとっては寒いのかもしれない。


「パレントには何日か滞在する予定だから詳しい話は後でするわね」

「……待て、戻って来た訳じゃないのか?」

「今は、他の場所を拠点に冒険者として活動しているの。子供もいるし、そこから離れるつもりはないわ。今回戻って来たのは本当に里帰りの為」

「そうか」


 残念そうに肩を落とすレドさん。

 家出同然に出て行ってしまった娘を心配していたのは間違いなく、ようやく帰って来たと思ったら一時的な帰郷でしかない。

 アイラ自身にアリスターで永住するつもりがある以上、俺たちの方からは何も言えない。


 その後、簡単な手続きを行う。

 冒険者カードを提出してしまえば身分は保証できる。


「え、Aランク?」

「しかも全員……!」


 Aランクともなれば俺たちの身分は複数の冒険者ギルドのギルドマスターが保証してくれている。

 下手な誤魔化しなどできない。


 最後にまだDランクのノエルの冒険者カードを見て安堵していた。


「ようこそパレントへ」

「そして――おかえり」

「ただいま」


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