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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第21章 海底遺跡
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第22話 消えた海底都市

「――以上が今回の顛末になります」


 アリスター家の屋敷へ訪れると今回の顛末を領主であるキース様と次期領主であるエリオットに語る。

 海底に都市があった事。

 中央にある塔で結界が維持されていた事。

 そして、塔で行われていた数々の実験。

 最終的に霊体を逃がしてしまったことでイシュガリア公国に迷惑を掛けてしまった事。


「今回は、ご助力ありがとうございました」

「私もまさかこれほどの事態になるとは思っていませんでした」


 親子が俺の隣に座った女性に頭を下げる。

 今回は、『聖女』であるミシュリナさんに迷惑を掛けてしまったということで謝る為に赴いてもらっていた。


「こちらは何も被害がなかったので構いません」


 やはり、浄化魔法において彼女に敵う者がいないという事だろう。俺たちが苦戦させられた幽霊潜水艦を一撃で浄化してしまった。


「それに彼らに借りがあるのはこちらの方です」


 彼女に協力してもらった対価として以前にイシュガリア公国の危機を救った時の報酬の残りをチャラにした。

 とはいえ、既に十分な額を貰っているのでそれほど困ってもいない。


「私が赴いたのはあくまでも領主である貴方たちへの報告の為です」


 優雅に出された紅茶を楽しみながら言う。


「非公式な訪問ですからそこまで気にする必要はありませんよ」


 彼女が言うように供はクラウディアさんしか連れていなかった。

 港町から急な救援要請が入ってしまったため常に傍に居てくれたクラウディアさんしか連れて来ることができなかった。と言うよりも救援要請のある場所にクラウディアさん以外を連れて行くと邪魔にしかならない。


 それよりも彼女には気になる事があった。


「聞けば、アリスター家の方では例の海岸に港町を作る計画があるという話ではないですか」

「は、はあ……」


 曖昧な返事をするキース様。

 他国ではあるが、相手は伯爵よりも位の高い公爵家の娘。おまけに『聖女』という地位にもいるので重要度は自分たちよりもずっと高いという事を理解している。


「あの場所に港が作られれば我が国との交易もずっとし易くなります。少し計画について聞かせてくれませんか?」


 さすがは『聖女』であっても公爵家の娘。

 自分の立場を利用して色々な情報を聞き出していた。



 ☆ ☆ ☆



「わぁ、かわいい!」


 アリスター家にいた頃の威厳ある雰囲気はどこへ行ったのか?

 非公式に訪れているため伯爵家の屋敷を利用する訳にはいかない。かと言って安全面で不安のある街の宿屋など利用させる訳にもいかない。という訳で我が家で寛いでもらうことになったミシュリナさん。


 彼女は屋敷を訪れると俺の帰りを待っていたシエラを抱き上げた。


「あぅ!」


 好奇心旺盛なシエラは初めて見るミシュリナさんにも気後れしない。

 シエラの性格もそうなのだが、何よりもミシュリナさんの気質にも理由がある。子供は純粋だ。それ故に害意にも敏感であり、純粋な気持ちで触れて来る相手の事は心から受け入れる。


「この子が貴方とアイラさんの子供?」

「そういう事になります」

「よろしくね」


 ミシュリナさんが優しそうに微笑みかけるとシエラも笑い出した。


「実を言うと近い内にこちらを訪れようかとは思っていたんです」


 春に訪れた時はシエラが生まれる前だった。

 そのためシエラの生まれる夏になったらもう一度アリスターをこっそりと訪れようと思っていたらしい。


「この子の名前はシエラ。可愛らしいでしょう」

「ええ、本当ですね。私は『聖女』という役職なため赤ん坊とも触れ合う機会があるのですが、どの子も可愛らしいんです。けど、やっぱり知り合いの子供の方が可愛く見えますね」

「あぅ」


 自分の事を話されているとは分かっていないシエラは首を傾げている。

 赤ん坊と触れ合う機会がある、というのは本当らしく手慣れた手つきで抱いているおかげでシエラの様子は落ち着いたものだった。


「わ、私にも抱かせて下さい」


 我慢できなくなったのかミシュリナさんの後ろにいたクラウディアさんが両手を広げていた。


「でも……」

「大丈夫です」

「分かった」


 そっとクラウディアさんにシエラを渡すミシュリナさん。

 その様子は壊れ物を扱うように慎重だった。


「ふふ、やっぱり子供はいいものですね」

「ふぇ、ふぇあああ!」

「え、どうして……?」


 抱き上げてしばらくは落ち着いていたが、しばらくすると泣き出してしまったシエラ。


「え、えと……」


 ミシュリナさんとは対照的に慌てているクラウディアさん。

 泣いている赤ん坊を抱き上げた経験がないらしく、あたふたしていた。


「だからクラウディアは赤ん坊を抱くのが下手なんです」

「下手とはなんですか、下手とは……」


 聞けば今までもミシュリナさんの仕事に付き添っていて赤ん坊を抱く機会は何度もあったのだが、その度に赤ん坊には泣かれてしまっていたらしい。


 付き人であるクラウディアさんが子供を泣かせてしまう。

 『聖女』のイメージを悪くさせてしまいかねないので、最近ではクラウディアさんが赤ん坊と触れ合う機会は全くなくなってしまったらしい。


「どうしたの?」


 食器を抱えたアイラが姿を現した。


「あらら」


 自分の子供が泣いている姿を見ると食器を置いてシエラを抱いているクラウディアさんに近付く。


「ごめんなさい」

「いいの。これは仕方ない事だから気にしないで」


 シエラを受け取るとリビングを後にするアイラ。

 その時にシエラがアイラの胸を何度も叩いて催促していたのを見た。


「なるほど。シエラは単純にお腹が空いて泣いていたみたいですよ」

「え……」


 つまるところクラウディアさんの抱き方は関係ない。

 単純にタイミングが悪かっただけだ。


「私にはどうして泣いているのか全然分かりませんでした」


 その辺は母親としての経験値の差でしかない。


「赤ん坊は自由だからね」


 アイラの置いた食器をテーブルに並べるノエル。

 その姿は自然であり、いつも通りの光景だった。


「元気そうですね」

「まあ、ね」


 『巫女』の責務から解放されたノエルはのびのびと毎日を過ごしていた。

 簡単に挨拶を済ませるだけで夕食の準備に取り掛かり始めるノエル。我が家は人数が多いので準備をするだけでも大変だ。


「これも自分の目で確認しておきたかった光景です」


 普段通りに過ごしているだけのノエルには意味が分からなかった。

 しかし、こうして食器を並べている光景が普段通りである事こそミシュリナさんが確認したかった事でもある。


「とりあえず座っていて下さい」


 ミシュリナさんとクラウディアさんが食卓に着くとシルビアがお茶を持ってきてくれる。緑茶を煎じた物で心を落ち着けられる。

 まだ、夕食の準備中なのでバタバタしてしまっている。


「それにしても今回は残念でしたね」

「何がですか?」

「話に聞けばかなり苦労したようなのに報酬が少ないような気がします」

「そんな事ないですよ」


 アリスター家からは報酬として金貨50枚を受け取っていた。

 たった1日の探索で金貨50枚なので高い方だと思える。

 報告を終えた後で、きちんと貰っている。


「それに、俺たちにとっての報酬は金貨ではありませんから」


 迷宮の糧になる物こそ俺たちにとって最大の報酬となる。


「一体、何を手に入れて来たんですか?」

「色々ですね。よければ明日でも見て行きますか?」

「迷宮が糧を得る瞬間というのは興味があります。ぜひ見せて下さい」

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