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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第21章 海底遺跡
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第19話 海底都市水没

「本当に持って行っていいんだな」


 塔の最頂部にある水晶玉に触れながら塔に問い掛ける。

 眼下には海底にある都市が見渡せる。


『ええ、敗者は勝者に従うもの。貴方たちが欲しているというのなら譲るよりほかありません』


 随分と素直な奴だ。

 さっきはゴーレムを自分で操作してまで俺たちを排除しようとしていた。とても同じ奴とは思えない。


 もしかして、何かの罠?


 しかし、水晶玉からは怪しい気配を感じない。


「どうする?」


 イリスも同じように感じたらしく尋ねて来る。


「いや、回収しよう」


 結局は回収しないと依頼を終えることができない。

 水晶玉を道具箱に収納する。


『これで、本当に――』


 近くに塔の中で何度も見た球体の防衛システムが現れる。


『――最期ですね』

「そう言いつつも動き回っているじゃねぇか」

『いえ、この体に残された最後の魔力を使って動かしています。長く動けても10分が限界です。状況によっては、もっと短くなるでしょう』


 本当に数分しか動くことができないらしい。


『こんな体で動き回っているのは、単純に私が守り続けていた塔の最期を見たいからです』


 球体の目が上へ向けられる。

 海底遺跡を覆っていた結界が薄くなって行き、水が押し寄せて来る。

 水の侵入を許した都市は、あっという間に建物がペシャンコに潰されて残骸が押し流されて行く。


「結界が消えるのが早いな」

『水晶玉が生み出す魔力は結界の維持だけでなく、合成魔物の実験にも多量に利用されていました。そのうえ年々生み出される魔力の量が減っていたこともあって最近では本当にギリギリのところで現状を維持していただけでしたから』


 供給がなくなっただけで結界は維持でなくなってしまった。

 塔も全ての機能を停止させている頃だろう。


「こうなると悲しいな」


 誰も住んでいなかった都市とはいえ、一時は大災害から逃れる為に避難場所として利用されていた場所だ。人々の希望であったのは間違いない。

 そんな場所が消えていく。


『ここも危険だというのに平然としていますね』

「俺たちはギリギリになれば【転移】で戻ればいいだけだからな」


 せめて最期を訪れさせた者として都市の消え行く姿を覚えていたかった。

 しかし、結界が消えた事でここにも水が上から押し寄せてきた。


「「【迷宮結界】」」


 イリスと協力してこちらは結界を張る。

 押し寄せてきた水が弾かれて下へと落ちて行く。

 これなら水が流れて来ても耐えることができる。


『これが余裕の正体ですか』


 防衛システムの方も自前の防御フィールドを形成して耐えていた。もちろんタダではない。展開させるだけで魔力を消費してしまうので意識を保っていられる時間が短くなる。


「そうまでして観ていたいか」

『はい。私にとっては、この場所こそが世界の全てでしたから』


 都市が完全に水没した。

 後は、待っているだけで塔の最頂部まで水に覆われるはずだ。


「見て」


 アイラの指差した海底を見ると光が上に昇って来た。


「霊体ですか」

『結界は、外から押し寄せる水を押し留めるだけではありません。中から外へ脱出する術も封じていました』


 おかげで海底都市内で亡くなった人は、成仏することもできずに霊体となって都市を彷徨う羽目になった。

 しかし、それも結界が消えた時点で終わり。

 都市から解放された魂は海上を目指す。


 都市で合成魔物の研究をしていた者、大災害から逃れる為に避難してきた者、財宝を求めて都市へ侵入した海賊。

 様々な魂が解放されていた。


「……いえ、多すぎませんか?」


 魂が解放される光景は何度か見た事がある。

 その時は、光に似た煙のような物が上に向かって行くようだった。

 一筋の光、などというレベルではない。光の噴火とでも言うべき光景だった。


『ハハッ、ハハハ―――! やはり計算通りだった』

「どういう事だ?」

『魔物の肉を喰らい続けさせたり、合成させたりした事でその者の魂も強くなっていた。都市には数万という数のそんな強い魂が彷徨っていました。さて、解放された魂に膨大な量の魔力を渡したらどうなるでしょうか?』

「まさか――」


 浮上していた魂が全速力で海上を目指す。


「どこからそんな量の魔力を調達したのですか?」

『ギリギリなんて言葉を本気で信じたのですか? いえ、実際にギリギリではありましたけど、結界が急に機能しなくなった時などに備えて予備の魔力はきちんと確保してあります。それを全て注ぎ込んだだけですよ』


 魂の奔流に結界ごと押し流される。


『私が本当に見たかったのはコレです。さあ、アンデッドのように力を得て魔物として復活しますよ』


 勝ち誇ったような防衛システムの声が微かに聞こえる。


「戻るぞ」


 【転移】を使って屋敷へと戻る。


「お、お兄様!?」


 目の前には夕食の準備をしていたクリス。

 今日はメリルちゃんも屋敷で食べるらしく、リアーナちゃんと一緒に手伝いをしている。


「随分と早いお帰りですね。それに屋敷内へ直接戻って来るなんて」

「悪いが、のんびりと会話している時間はない」


 海底での【転移】だったので咄嗟に拠点へ戻ってしまった。


「メリッサ、俺をあの海へ飛ばせ」

「分かりました」


 意識がフッと消える。

 次に目を覚ました瞬間には森を抜けた先にあった砂浜の上に立っていた。


「【召喚(サモン)】」


 眷属の5人も喚び出す。


「状況は?」

「一目見ただけで分かる……」


 こちらへ戻って来てすぐに見えた海の光景。

 喚び出された彼女たちも海を見て言葉を失っていた。


「あれは……」


 砂浜から遠く離れた海面から巨大な潜水艦が上部だけを出していた。


「おそらく、海底都市に閉じ込められていた影響から『海底から逃げ出したい』という想いが強かったのでしょう。その結果、海底都市の外からやって来た海賊団の所有していた潜水艦を理想の形としたのでしょう」


 魂だけの存在では実態を持たない。

 けれども、そこに膨大な魔力が集まったことで魂が理想とする実体を得た。


 それが――潜水艦。


 潜水艇が砂浜のある西側とは反対方向へ進路を取り始める。


「ちょ、どこへ行くつもりだよ」

「目的などないのでしょう。アンデッドのように本能のまま暴れて――最期には朽ちる。その本能に突き動かされた結果、一番近くにある人が多く集まる場所へと向かっているのでしょう」


 潜水艦が進路を取り始めた先にはイシュガリア公国の港町がある。

 メティス王国側だと人の住んでいる場所まででさえかなりの距離があるし、村に住んでいるのは少数。

 そんな小さな村を相手にするよりも離れた場所にある港町を襲った方が得。


 真っ直ぐにイシュガリア公国へ進んでいる。


「あんな物を放置する訳にはいかないぞ」


 まだ去年のアンデッド騒ぎが完全に落ち着いた訳ではない。

 そんな状況で港町が壊滅するようなダメージを受ければ国全体の復興がさらに遅くなる。

 今後もスムーズな報酬が貰えるようにする為にもイシュガリア公国には健全な国であってもらわなくてはならない。


 俺たちも自分の潜水艇を出す。


「追い付けるの?」

「幸い、向こうは膨大な魔力と魂から巨大な潜水艦を作り出した。スピードはこっちの方が出るはずだから追い付くのは難しくないはずだ」


 潜水艇に魔力を流し込む。

 動力が呻りを上げて幽霊潜水艦を追いかける。


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