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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第21章 海底遺跡
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第16話 マスタールーム

 3階をさらに奥へ進むと割れた容器の破片、魔法道具に使われていたと思しき金属の部品の欠片、危険な薬品によって変色してしまった床など、様々な実験が行われていたと思わせる痕跡を見つけた。


 3階は実験場兼素材の保管場所で間違いないみたいだ。

 グルッと探索してみたもののそれ以上の成果はない。


 また、4階へ行ける階段のような物もない。

 なので、再び階段を造って4階へ上がる。


「ここは……」


 4階には個室が続いていたと思われる。

 これまで以上に崩壊が激しく、部屋の壁すら足元に少しだけ原形を留める程度でほとんど残されていなかったが、いくつもの部屋があったと思わせるだけの痕跡を見つけることができた。


「どうやら下で行われていた実験の研究施設のような場所みたいです」


 ここで合成魔物の研究が行われていた。


「これ……」


 3階の時と同じように紙の束を差し出してくるシルビア。

 先ほどと同じようにゴミの中から残されていた貴重な資料を見つけ出して来たらしい。そして、先ほどと同様に表情が暗い。


「全然分かりませんでした」


 ただし、理由は違った。

 シルビアから資料を受け取って読んでみる。


 ……すぐにメリッサに渡す。


「二人とも……」


 資料を渡されたメリッサは、自分に回された理由に思い当った。


「俺たちだと何が書かれているのかすら理解できなかった」


 難しい専門用語が羅列されており、細かな数式も描かれており、読んでいる途中で断念せざるを得なかった。


「これは……私でも無理です」

「そっか」


 俺たちの中で一番賢いメリッサに無理なら誰にも理解するのは不可能だ。

 ……そう思っていた。


「いえ、書かれている内容そのものについては時間さえいただければ理解できると思います」

「え~」

「ただ、手に入れる事ができた内容が断片すぎるので、これが読み解けたところで合成魔物に関する研究が実用化できるとは思えません」

「そっか」


 合成魔物の作成が実用化されれば場合によっては迷宮の役に立ったかもしれない。残念に思うものの過程において非道な実験が繰り返されていた事を考えると手にしない方がよかったのかもしれない。


「ただ、最頂部にある水晶の役割については分かりました」

「本当?」

「はい。この都市に必要な結界を維持するだけでなく、実験においても大量のエネルギーを必要とします。あの水晶は、海底に流れる魔力を吸い集めて自分の力だけで必要なエネルギーを賄っているようです」

「都市の維持に必要な魔法道具って訳か」


 現在でもそういった自己精製可能な魔法道具がない訳ではない。

 しかし、そういった魔法道具で補うことができる広さはせいぜい家一つ分ぐらいが限界だと認識していた。

 機能は同じでも規模が違う。


「持って帰って有益になりそうか?」

「いえ、このような知識を持っている事で逆に疑われる可能性があります」


 一番完成度が高かったみたいだけど、先ほど戦闘した合成魔物は俺たちでさえ少しばかり苦戦させられた。

 そんな魔物が量産可能。

 領主としては放置できないはずだ。


「でも、どうするんですか?」


 遺跡内で手に入れた物については調査依頼を引き受けた者として報告をする義務がある。

 資料についても現物を持ち帰る必要がある。

 だが、最優先目標ではない。


「俺たちが最も優先させなければならない事は、遺跡の無力化だ。少なくともやらないといけない事があるだろ」

「……結界の解除ですか?」


 俺の意図は、結界を維持している水晶玉を確保。

 その瞬間に結界も解除されて途中にあった資料なども最低限しか持ち帰ることができなかった。そのため合成魔物の再現は不可能。


「さすがに施設がどういった場所だったのかは報告しないといけないから研究内容については教えるつもりだけど、研究成果まで教える必要はないだろ」


 迷宮での再現も不可能なら持ち帰る必要性を感じない。


「全ての研究成果は海の底に沈めることにしよう」


 こちらから何かをしなくても水圧が全てをなかった事にしてくれる。

 それに、こんな研究成果は早々に破棄してしまった方がいい。


『失礼な事を言いますね』

「……!」


 塔内に聞き覚えのある声が響き渡る。

 2階で俺たちの前に現れた防衛システムだ。


『この施設は今でも生きています』

「……生きている人間なんていないだろ」

『います。未だにマスターが健在である事が何よりの証拠です』


 そうだった。

 塔へ接近する際に妨害してきた奴もいる。

 誰かがいるのは間違いない。


『マスタールームのある最上階へ来なさい。そこでケリを付けてあげますよ』


 プツッと途切れる声。

 どうにも怒っているような様子だった。


「どうしますか?」

「行くしかないだろ」


 声の様子からして自信満々みたいだ。

 何らかの罠が待ち受けている可能性が高い。



 ☆ ☆ ☆



 最低限の資料だけを持って5階へ上がる。

 5階は、奥に画面のような物が置かれており、その手前にあるイスに後姿しか見えないが誰かが腰掛けている。おそらく、その人物こそがマスターだろう。


『ようこそ、いらっしゃいました』


 球体の防衛システムが現れ、マスターの近くで浮かんでいる。


「悪いが、お前たちの境遇とかには興味がない。さっさと上にある水晶玉を持ち帰らせてもらうことにする」

『そういう訳にはいきません。あの水晶玉は、施設を稼働させる為に欠かせない物です』


 稼働?


「この施設は、もう動いていないだろ」

『まだです。まだ研究は私の手で続けられています』


 人はいなくなっても防衛システム……と言うよりも塔そのものが研究を続けていた。


『私には研究を続ける以外の道がない。研究は続けさせてもらいますよ』


 球体の目玉が赤く光る。

 ついで部屋の奥にある壁が開いてゴーレムが姿を現す。


 防衛システムがゴーレムの頭部に取り付く。


『数百年ぶりに現れた生の肉体を持つ者だから生け捕りにしたかったですけど、ここまで侵入された以上はそんな事は言っていられませんね』


 ゴーレムの両手が向けられる。

 感情なんて持たないはずのゴーレムが相手にも関わらず敵意を向けられているように感じる。

 いや、防衛システムにとっては敵意を向ける相手になったのだろう。


『まったく……上へ昇るには許可を得た者でなければならない。そういう仕組みになっていたはずなのに……許可を持たずにここまで昇って来たのは貴方方が初めてです。ここで排除させてもらいます』


 ゴーレムの腕が飛んで来る。

 横へ跳んで回避すると腕が壁に当たってボロボロに砕ける。


「おい、お前の部下が勝手に戦いを始めたぞ」


 今後の危険度を考えると防衛システムを放置するわけにはいかない。

 この場で処分してしまうのが得策だろう。


 問題は、特製のゴーレムが相手だというところ。面倒臭そうだ。


 話し合いは通用しない。

 咄嗟に管理者権限を持っているはずのマスターに話し掛ける。

 が、全く反応してくれない。


『無駄ですよ』


 塔の壁から管のような物が延びて来てゴーレムの背中に刺さる。

 直後、失われたはずのゴーレムの腕が再生した。


 それだけではない。

 再生された腕の内部から銃が飛び出してくる。


「チッ、全員散開」


 思い思いに走り出す仲間たち。

 ゴーレムの腕から放たれた銃弾が部屋の中を埋め尽くす。

 光属性の魔法による障壁を展開するも3発の弾丸を受け止めただけで砕け散ってしまう。


 反応のないマスターへ駆け寄って椅子ごと振り向かせる。


「なっ……!」

「これは……」


 一緒に付いて来たメリッサ共々言葉を失ってしまった。


「あ、ぁぁ……」


 椅子に座っていたのは肌が茶色く変わったボロ布を纏っただけの男。

 呻き声を上げられる事から生きてはいるのだろうが、見た目は生きているのが不思議になるぐらいの死人顔だった。


『だから無駄だって言ったのです。私のマスターは死など恐れない』


 むしろ死を望みそうな男がそこにいた。


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