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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第21章 海底遺跡
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第15話 塔の正体

「教えろ。この施設は一体何なんだ?」

 掴んだ防衛システムに尋ねる。

 合成魔物について噂でしか聞いたことのない迷宮核(ダンジョンコア)よりも防衛システムの方が情報を持っているはずだ。

『貴様らのような盗人に教えるつもりなどな――!』

 自分の立場を分かっていないようなので電撃を流す。

 球体からプスプスと煙が上がっている。

「自分の身が大切なら答えた方がいいぞ」

『……マスター権限のない方には教えられない』

 本来なら拒否と同時に迎撃も行われるはずなのだが、近くにある迎撃を担う物がないために何もできずにいる。

「マスター権限?」

「おそらく迷宮主と同様に、この施設の管理者となれる権利を持っている者でしょう」

「そのマスター権限を手に入れるにはどうすればいい?」

 塔について調べるなら一番手っ取り早いのはマスターになってしまう事だ。

 迷宮主と似たような立場の者の事ならばマスターとなる事で様々な情報が手に入れられるだけでなく、塔にある物の権利を手にすることができるかもしれない。


『マスター権限の上書きはできません。マスター権限の消失は、マスターの自己意思による権限の放棄及び譲渡もしくはマスターの死亡のみとなっております』

「そう上手くはいかないか」


 マスターがいる状態では、マスター権限は手に入らないらしい。


「いえ、ちょっと待って下さい」


 立ち去ろうかと思ったが、何かに気付いたメリッサが遮る。


「マスターは現在いるのですね」

「……!」


 マスター権限を持つ者が他にいる。

 しかも権限が有効という事は、死亡によって無効化されていないということになる。つまり、マスターたる者が生きているという事だ。


『これ以上はお答えできません』

「こいつ……!」


 再び電撃を流そうとする。

 しかし、電撃が流れる直前に赤い目玉から光が消えた。

 振り回したり、力を込めたりするものの反応が全くない。


「どうやら危機を察知して逃げたようです」


 握っている球体の中に防衛システムの意識のような物はない。


「大元は別の場所にあるっていう事か」

「間違いなく」


 自然と全員の視線が上へ向けられる。

 2階の中央には転移魔法陣があるもののマスター権限を持たない俺たちでは起動させることができない。


 上へ行ける階段を探してみるものの見える場所にはない。

 どうやら許可のない者では上へ行けない仕組みになっているらしい。


 おまけに3階があるのは50メートルも先。

 簡単には到達することができない。


「仕方ない。階段がないのなら造ればいい」


 迷宮操作:建築(ビルド)

 迷宮の階層と階層の間を繋いでいる階段を足元から壁伝いに精製。ただし、魔力の消費を抑える為に壁から足場となる石造りの板のような物が壁から突き出しているだけの代物だ。さすがに50メートルも造れば魔力の消費も馬鹿にならない。

 広い空間の外周をグルッと回り込む階段が数分で完成する。


「行くぞ」

「ねえ、本当に大丈夫なの?」


 アイラが心配そうに尋ねて来る。

 さすがに俺も迷宮の外で50メートルもの高さがある階段を生成したのは初めてだ。そのため少し自信がない。

 でも、そんな様子を造った本人が見せてしまうと不安にさせてしまう。


 造った責任を持つ者として最初に階段を昇る。


「たぶん、大丈夫」

「たぶん!?」

「それはちょっと……」


 不安になるアイラとノエル。

 けれども、不安そうにしているのは二人だけでシルビアやメリッサ、イリスは先頭を歩く俺の後を付いて来てくれる。

 メリッサは万が一階段から滑り落ちたとしても自力で飛ぶことができるし、イリスは俺と同じように迷宮操作が使える者として言われなくても階段の強度に理解がある。シルビアに至っては単純に俺の事を無条件で信頼しているだけだ。


 ただ、何も言わずに付いて来い、などと不安そうにしている二人に言う訳にはいかない。


「安心しろ。階段から落ちた時は必ず受け止めるから」

「本当に?」


 未だに階段の手前にいるアイラが見上げて来る。


「ああ」


 俺からはそんな事しか言えない。


「なら、行く」


 全員で階段を昇る。

 急造で用意した階段に罠が仕掛けられているはずもなく、問題なく3階へと辿り着くことができた。


 ただ、3階へ辿り着いてから俺だけが階段を昇って5人を【召喚】で喚び出せばよかった事に気が付いてしまったのは内緒だ。



 ☆ ☆ ☆



「ここが塔の3階」


 1階は倉庫。

 2階は保管庫。


 3階には頑丈そうな箱が並んでいた。

 大きさは高さが3メートル、幅が20メートルぐらい。そんな箱がいくつも並んでいた。


「この箱は何なんでしょうか?」


 試しに中を覗いてみると奥の方に何かが落ちているのが見えた。


「これは……」

「もしかして――!」


 落ちている棒のような物が何なのか気付いたノエルが声を上げそうになる。

 鑑定が使えなくても少し見ただけで分かる。


「骨、だな」


 奥の方には同じような物がいくつか残っている。

 ほとんどは風化してしまっているが、いくつかは最低限の形を保つことに成功していたらしい。


「おそらく1階にあった『状態保存の箱』と同様に内部の状態を保つ効果があったのでしょう」


 中にいる人間の状態を保つ。

 箱が無事で効果を保っていられた間はよかったが、箱そのものが風化してしまうと効果も切れて状態を保っていることができなくなってしまったらしい。


「これ……」


 大きな箱の中を探索していたシルビアが紙の束を差し出して来た。

 人の骨と同様に風化から免れた部分がいくつかあったらしい。

 ただ、差し出すシルビアの表情が暗いのが気になる。

 その視線は紙の束へと向けられている。俺へ差し出す前に確認したらしい。


「―――――」


 読んだ事を少しばかり後悔してしまった。

 紙の束は、この場で行われていた実験の資料だった。

 大災害が起こる少し前に合成魔物の研究は中止された。しかし、それは表向きの事でしかなく、実際のところは別の目的で造られた海底都市で研究が進められることになる。残念ながら本当の目的については書かれていなかったので分からない。


 海底にあった都市は地上で発生した大災害からも免れることができた。

 しかし、地上が荒れ果ててしまった影響で地上と海底都市を繋いでいた転移魔法陣が機能しなくなってしまう。


 そうした結果、物資の補給がままならなくなってしまう。

 幸いにして自給自足する術もあったが、大災害の折に海底都市の存在を知っていた人々が避難してきた。

 自給自足において想定していた人数を大幅に越えてしまった。

 いつかは破綻する避難生活に怯えた人々は禁忌に手を出してしまった。


「逃げてきた人間の食料化だ」

「それって……」


 数人の人間をそのまま食べたところで飢えを凌げるはずもない。

 そこで、海底都市にいた研究たちは考えた。


「人間を魔物化させたんだ」


 人と魔物を掛け合わせることで人間の肉を肥大化させる。

 この方法を編み出したことによって、たった一人の人間を犠牲にすることで多くの人の飢えを解消することにした。


「けど、そんな方法で飢えを解消できたとしても限界は来る」


 都市にいる人間の数は有限だ。

 どうにかやり繰りして数百年の時を過ごす事には成功したものの。次第に数は尽きて行った。


「そんな時に海賊が現れたらしい」


 生き残りが最後の数人だけになった時、潜水艇を持つ海賊が現れた。

 当時になると大災害の影響も治まっており、財宝を求めた海賊まで現れ出した。


「久しぶりの食糧に歓喜した生き残りたちは合成魔物を嗾けて海賊を次々と捕まえて行ったらしい」


 捕らえられた海賊は、全員がこの場所へ連れて来られて閉じ込められることになる。

 肉は限界まで加工され、骨は都市の防衛システムの一部としてスケルトンにされたうえ利用されることになる。


「酷い……」


 海賊とはいえ、あまりな最期に言葉を失っていた。


「非道な実験が行われていた施設――それが、この塔の正体みたいだな」



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