第13話 合成魔物―後―
シルビアへと振り上げられたカマ。
カマと短剣。
リーチの差から間違いなくシルビアの方が先に斬られる。
そして、そのままにカマがシルビアの体に触れ……られずに擦り抜けてしまう。
どうやら【壁抜け】を使用して緊急回避したらしい。
さらに合成魔物の体も擦り抜けて地面を転がるようにして俺の近くまで来る。
「うまく魔石を破壊できると思ったんですけど……」
「無茶はするなよ」
空中にいた状態からカマで攻撃されていればシルビアでも無事では済まない。
「魔石は頭部にあるんだな」
「……いえ、正しくは頭部と胴体の中心から感じられます」
「合成したせいか」
二体の魔物が不完全に合成された状態であるために魔石も二つある状態になっている。
「わたしの感覚では、二つの魔石から魔力が全身に供給されているように感じられます」
「二つとも奪う必要があるのか?」
「いいえ、一つだけでは合成された体を維持できないはずです。どちらか一方さえ奪うことができれば活動を停止するはずです」
胴体と頭部。
どちらかの魔石を破壊することができれば機能を停止する。
シルビアが胴体ではなく頭部を狙ったのは彼女の攻撃力では胴体にある魔石まで届かず、頭部の方ならどうにか届くかもしれないと判断したため。
だが、魔物の方も自分の弱点を理解しているが故に頭部への警戒は強くなっている。
「すみません。力になれなくて」
「いや、お前のおかげで限界が見えた」
「限界?」
それに魔石の破壊、という方針も定まった。
『全員、聞け』
念話で狙いを伝える。
『狙いは胴体にある魔石だ』
『でも、近付けるの?』
胴体の方は常に雷撃を放っている。
魔石が二つあるせいか雷獣よりも僅かばかり余裕があるらしい。
『そっちは任せる。俺は魔石を破壊する事に集中する』
手の中で魔力を練り上げる。
一撃に籠められる最大威力で攻撃を放つ必要がある。
「やるぞ」
アイラが横から斬り掛かる。
振り下ろされた剣を受け止めるべく魔物もカマで応戦する。
「【鈍重】」
メリッサの放った闇魔法が魔物の動きを遅くする。
自分の動きが遅くなっている事に気付いた魔物が魔力を一気に放出させる。
鈍重――闇属性の呪いにも似た魔法で、対象の動きを急に重たい物でも持ったように遅くさせる魔法。
これにより合成魔物の動きが止まる。
しかし、相手に干渉するような魔法は魔力抵抗を高めることによって無力化させることが可能になる。
合成魔物は魔力を一気に放出することによって鈍重を無力化させた。
それでも、数秒だけ動きが止まる。
その数秒は致命的な隙となって右腕のカマを切断される。
「浅い!」
腕の半分以上を斬ったもののどうにか繋がっている状態で耐えていた。
けれど、さっきまでのようにカマを振り回して攻撃することは難しくなっている。
『無駄です。当施設には、傷を癒す設備が整っております。その程度の傷は癒してさしあげましょう』
防衛システムが自慢するように言う。
表情がないが、もしも表情があるのなら満面の笑みを浮かべているはずだ。
「ボコボコにしろ」
こちらも腕を切断した程度で終わるとは思っていない。
アイラが腕を切断するよりも早く動き出したイリスとノエルが獅子の胴体に対して攻撃を仕掛ける。
4本の足を斬られ、殴られる合成魔物。
身に纏った雷撃がダメージを和らげてしまうらしく、二人の攻撃を受けても耐えている。
――ドォン!
頭部に受けた爆発と共に合成魔物が仰け反る。
鈍重と同時に用意しておいた爆発が頭部に直撃。しかし、体を仰け反らせるものの致命傷には至っていない。
「そろそろか」
合成魔物が爆発を引き起こしたメリッサを睨み付ける。
しかし、合成魔物の視線はすぐにメリッサではなく、彼女の上へと向けられる。
「よう」
メリッサを跳び越えて合成魔物の正面へ躍り出る。
新たな敵が目の前に出現したことによって合成魔物の意識が俺へ固定される。
膨大な魔力を纏わせた拳を握る。
纏った魔力の量に危機感を覚えたのかカマを振って来る。
「【跳躍】」
確実に斬り殺せる軌道で放たれたカマが空振る。
既に合成魔物の正面にはおらず、【跳躍】によって獅子の体の後ろまで移動している。
広い視野を持つ蟷螂は、すぐに自分の後ろへ移動した俺を見つける。
顔だけを少しだけ後ろへ向けながらカマを振るう。
ただ、残念ながらカマが俺の前を通り過ぎてしまう。
「残念。届かない」
巨大化しているとはいえ、蟷螂のカマでは獅子の体の後ろまで届かせることはできずに空振ってしまった。
頭上から迫るシルビアを攻撃した時にカマの可動範囲は確認している。
強力な斬撃と雷撃を放てる体を持つ魔物を生み出すことにばかり集中していて二つの体を掛け合わせたことによるデメリットにまで意識が行き届いていなかった。
「轟け」
右拳に纏った魔力を獅子の体に叩き付ける。
魔力が衝撃となって獅子の体を駆け巡る。
魔導衝波。魔力を叩き付けることによって衝撃を対象の体内へと伝播させる戦闘技法。
体内をグチャグチャにされるような衝撃によって魔石が砕かれる。
「……はっ!」
魔導衝波は攻撃する瞬間に全ての力を叩き付ける。
それ故に叩き付ける魔力の量が多くなればなるほど負担が大きくなる。
今回は、合成魔物という特殊な魔物が相手だったために硬い体を持つゴーレムを相手にした時よりも遥かに多い量の魔力を叩き付けさせてもらった。
結果――合成魔物の巨体が倒れる。
「……って、まだだ!」
全員が一箇所に集まる。
その後、イリスが全員を守れるように【迷宮結界】を展開する。
倒れた合成魔物の体を中心に起こった爆発が塔の中に響き渡る。
「最後に自爆かよ」
「自分の意思で行ったものではなく、体内にあった魔力が制御できなくなってしまったのでしょう」
魔石一つでは、合成魔物の体を維持することができない。
それでも残った一つの魔石から魔力が精製され続けることによって体内に魔力が渦巻いて暴発してしまった。
「全員、無事だよな」
「……いっつもこんな事をしているの?」
ジト目でこちらを見て来るノエル。
1カ月前の開拓とは比べ物にならない危険度に呆れていた。
「俺たちクラスの冒険者が集まっているんだからこれぐらい危険のある仕事をする必要があるんだよ」
普通の冒険者では手に負えないような依頼。
そういった依頼が今後も回されてくる事になる。
『警告――警告――警告――』
自信のあった合成魔物が倒された事実が受け入れられない防衛システム。
「お前は、少し黙っていろ」
これ以上、面倒な事をされても嫌なので騒いでいる球体を掴む。
「どうだ?」
他の合成魔物が収められた容器を調べているイリス。
「ダメ。やっぱり反応がなくても生きているみたいで道具箱に収納することができない」
「そうなると……」
「結界があるので通常よりも魔力を消費してしまいますが、内側からなら送れるみたいです」
「頼む」
俺の意図を汲んだメリッサが空間魔法で容器を次々と迷宮へ送る。
『何を――』
このままだと全てを奪われる。
そう思った防衛システムの目玉が赤く輝く。
次の瞬間、端に残されていた容器から蛇のように胴の長い魔物が姿を現す。
しかし、イリスの魔法によって氷漬けにされ容器から出られなくなってしまっている。氷の棺から出ようと足掻いていたが、出てきた魔物が迷宮へ送られる番が来る頃には寒さから動けなくなっており、問題なく迷宮へ送られてしまった。
迷宮へ送られた合成魔物の様子を確認してみるものの起き上がる様子はない。
どうやら防衛システムが指示を出せなければ起き上がって来る心配もしなくても済みそうだ。