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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第37話 誕生

 あれから3時間。


「あぅ、あ」


 シルビアの腕に抱かれた女の子が小さな声を上げていた。

 最初は大きな産声を上げていたのだが、少し経つと落ち着いていた。


「女の子ですね」


 生まれて来たのは女の子だった。

 男の子と女の子、どちらでもよかった。

 ただ、母子共に無事生まれて来てくれただけでよかった。


「お父さんも抱きますか」


 母親であるアイラは、まだ疲れ切っている様子でメリッサに回復魔法を掛けてもらっていた。

 赤ん坊を渡されようとした俺は首を横に振る。


 拒絶。

 その意思が伝わった訳ではないのだろうが、赤ん坊が泣き出してしまった。


「一体どうしてですか?」


 泣き続ける赤ん坊をあやしながらシルビアが尋ねて来る。


「イリス、施しの剣を使ってくれ」


 もう、俺がアイラの手を握り続けている必要はない。

 そこで治療してもらう為に自分の手を見せる。


「了解……って、何これ!?」


 治療しようとしていたイリスだけでなくシルビアまで驚いている。

 手首から先の感覚は既に消失しており、9本の指全てが別方向へ曲がっているうえ、所々が紫色になって腫れ上がってしまっている部分まである……と言うか右手の薬指はどこへ行ったんだ?


 天癒ではなく、施しの剣を要求している理由。

 指が1本欠損してしまっているので天癒では完全回復させる事ができない。


「こんな姿クリスたちには見せられないな」


 出産、という事でサポートとして必要な俺たち。

 それから出産経験のある母とオリビアさん、ノンさんだけが部屋にいた。


 アイラを心配していた妹やエルマーだったが、少し顔を見せただけで部屋から追い出されてしまった。

 今の状態を思えば追い出して正解だったかもしれない。


「頼む」

「分かった」


 【施しの剣】によって両手が光に包まれる。

 失っていた指もきちんとあり、元通りになった両手があった。


「こんなにダメージを負ったのは初めてかもしれないな」

「初めての大ダメージが自分の子供の出産だなんて……」


 イリスが呆れているが逃げる訳にはいかなかった。


「少なくともあと4回は経験する事になるかもしれないからな」


 その時の事を考えれば慣れておく必要があった。


「では、ご主人様」

「ありがとう」


 シルビアから生まれたばかりの赤ん坊を受け取って抱く。

 抱き方については母たちから教えられていたので分かっている。


「ああぅ!」


 だが、気に入らないところがあるのか大きな声で泣き続けていた。


「ええと……」

「貸して」


 困っているとアイラが手を伸ばして来た。

 体力の方もある程度は回復させることができたのか落ち着いていた。


 母親へゆっくりと渡す。


「うぅ……!」

「ごめんね、お父さんの抱き方が下手くそで」

「悪かったな、下手くそで」


 赤ん坊は母親に抱かれたことで安心したのか泣き止んでいた。


「生まれたんですか?」


 と勢いよく部屋の扉を開けて妹たちが入って来た。

 寝ているアイラを囲むように並んで目も開かない赤ん坊の姿を眺めている。


「わたしがクリス『お姉ちゃん』ですよ」

「わたしはリアーナ『お姉ちゃん』だよ」

「私はメリル『お姉様』です」


 3人とも『姉』と呼ばれる事に固執していた。

 血縁的には『姉』ではなく『叔母』になるはずなのだが、さすがに14歳で『叔母さん』などと呼ばれるのは可哀想だ。


 どう呼ぶのかは物心付いた時に本人の意思に任せることにしよう。


「可愛らしい女の子ですね」

「さ、順番だから次の人に譲ってあげることにしよう」


 飽きる様子もなく赤ん坊を見続けるクリスたち。

 生まれたばかりである事を考えて休ませてあげたいので、他の人にも生まれた赤ん坊を見せてあげる。


 子供たちの次は屋敷にいた家族だ。

 3カ月後に出産を控えているアリアンナさんやノエルの家族。

 兄やメリッサの両親も仕事を終えて赤ん坊を見に来ていた。


 みんな、無事に生まれて来た事を喜んでくれていた。


 中でも一番喜んでくれていたのは母だ。


「私もお祖母ちゃんか」

「よかったじゃないですか」


 祖母になれた事を嬉しく思いながら赤ん坊を抱いていた。

 その隣ではオリビアさんやミッシェルさん、ノンさんといった義母にあたる人たちも嬉しそうにしている。


 産んだばかりのアイラを思って男性陣が退出する。

 部屋の中で唯一残っていた男は父親である俺だけだ。


「それにしても、急な出産には焦らされましたけど結果的には屋敷で産んでよかったのかもしれませんね」


 本来の予定では病院で出産するはずだった。

 病院なら医者がいるし、出産に慣れた助産師の人たちもいる。


 ところが、急な陣痛のせいで病院へ運んでいる余裕もなく助産師を呼べるような状況ではなかったせいもあって屋敷で出産するしかなかった。


 だが、アイラの出産は病院では難しかった。

 ベッドに寝かされても壊してしまい、場合によって病院の床すら砕けてしまい、助けてくれるはずの医者すら粉々にしていた可能性が高い。


 そう思えばスキルを隠さずに使える屋敷で補強を行い、俺が全てのダメージを引き受けられる屋敷で出産したのは正しかったのかもしれない。


「よく頑張りましたね」


 母がアイラに赤ん坊を返す。


「私たちは本当の家族のつもりで接して来ました。ですが、血の繋がった家族の代わりになるのが精一杯。この子こそ、あなたが心の底から望んだ血の繋がった家族です」

「そ、そういうつもりじゃ……」


 赤ん坊を抱きながら自分と血の繋がった家族を見る。


「家族……」


 赤ん坊に水滴が落ちる。

 いつの間にかアイラの頬を流れていた涙が赤ん坊に落ちていた。


「あ、あれ?」


 本人もどうして泣いているのか分からないようだった。


「それだけ嬉しかったって事だろ」


 少女の頃に両親と弟を亡くしたアイラ。

 他の血縁者も知らず、天涯孤独になってしまった少女は新たな家族を手に入れた。


「でも、本当にお義母さんたちを家族じゃないなんて思った事は1度もないんです」

「それぐらいの事は分かっていますよ」


 義母たちは気にしていない様子だった。


「それよりも子供の名前は考えてくれていたの?」

「その件か……」


 話題を変えて来たアイラ。


 以前から父親になる俺に名前を考えるよう言われていた。

 それは兄も同じで二人でどんな名前がいいのか頭を悩ませていた。なにせ一生ものなので下手な名前は付けられない。兄は、まだ数カ月先なので余裕があったが、俺は出産時期が近い事もあって焦っていた。


 本当なら依頼を終えた後の休暇中にじっくりと考えるつもりでいた。

 ところが、急な出産によって考える時間は与えられなくなった。


「もしかして、考えていないの?」

「そういう訳じゃない。ただ、この名前でいいのか悩んでいるところだったんだ」


 男の子場合と女の子の場合、両方とも候補は考えていた。


「女の子なら『シエラ』って名前にしたかったんだ」

「それってあたしの名前から取った感じ?」


 アイラとシエラ。

 男の子の場合でも母親に似た名前を付けてあげたかった。


「こういう事を言ったら不満かもしれないけど、たぶんシルビアたちだってこれから俺との子を産むだろ? 区別する訳じゃないけど、やっぱり産んでくれた母親との間にある何らかの繋がりを残しておきたかったんだ」


 姉妹弟とはいえ、母親が違っている。

 5人ともがシエラの母親でいるつもりでいるけど、やっぱりシエラの母親はアイラになる。

 名前にアイラとの繋がりを持たせることで特別な絆を持たせた。


「ダメかな?」

「ううん、ダメじゃない。ね?」


 今はこちらの意思など伝わらない。

 それでも母親の感情は伝わったのかアイラの腕の中で「キャッキャッ」と嬉しそうに声を上げていた。


「本人も気に入ったみたいだし、この子の名前は『シエラ』でいきましょう」


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