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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第29話 森の誘惑

 課外授業10日目。


「なんだ森の探索なんて余裕じゃないか」

「そうだよな」


 軽い足取りでデイトン村を歩くのは騎士志望の男子生徒。


 彼は友達と一緒に村の探索をしていた。

 今日は、これまで頑張っていたという事で自由に行動していい事になっていた。


「また、森へ行こうぜ」

「でも……」


 学校から自由行動が許されていたのは村の中だけ。

 柵で囲われた村から出て行けないと注意されていた。


「俺たちなら楽勝だぜ」

「そうそう」


 一人の男子生徒が陽気に笑うともう一人の男子生徒も同調していた。


 彼らは初めて森で狩りの練習を行った一昨日だけでなく、昨日も森の探索に参加していた。


 探索は基本的に森の入口からそれほど離れていない場所で行われる。

 それに引率者の冒険者も一緒にいたおかげで安全と言えた。


「いや、やっぱり止めよう」

「そうだよな。最初の時みたいに魔物に襲われたら死ぬかもしれないぞ」

「「「……」」」


 二人の男子生徒は反対していた。

 その言葉を聞いて黙り込んでしまう3人。


 街の中で育った彼らにとっては初めて感じた死の恐怖。

 引率者がいてくれたおかげで森に入ることができ、ある程度は慣れて来た。それでも魔物との戦闘は極力避けるように動いていた。


「けど、森の中にはこんな物があるんだぜ」

「持って来たのかよ」


 鞄からある物を取り出す。

 リーダーの男子生徒が呆れていた。


「それって昨日の探索の時に見つけたクリスタルだよな」

「へへっ、そうだぜ」


 昨日の探索では最高ランクのマルスたちとは別のパーティに引率してもらっていた。

 その時に一人が逸れてしまった。

 逸れてしまった者はすぐに見つかったが、その時に見つけていた物があった。


 それが――10センチほどの光り輝く石だ。

 そんな物を見つけていた事を引率してくれた冒険者には言わず仲間のクラスメイトにだけ伝えていた。


 子供にとっては初めて自分の力で見つけた宝物。

 大人には決して渡したくなかった。


「昨日これを見つけた場所は覚えている。今日はみんなで行こうぜ」


 きちんと目印を付けながら帰っていた男子生徒。

 目印を辿ればクリスタルを見つけた場所まで行く事ができる。


「けど――」


 やっぱり森は怖い。


「それに先生の言い付けを破るのはもっとヤバイって」


 子供だけで森へ入った事が知られたらどれだけ怒られるか。


「あら、だったら私が一緒に行ってあげるわよ」

「……!」


 突然、後ろから聞こえて来た声。

 誰にも聞かれていないと思っていた会話が聞かれていた。


 慌てて振り返ると一人の女性が立っていた。


「あなたは?」

「私は、この村の村長の妻よ」

「偉い人なんですね」


 口では『偉い人』と言いつつも偉くは思えていなかった。

 目の前にいる女性からは偉い人特有の気迫が全く感じられなかったからだ。


「あなたたち面白い物を持っているわね」

「や、やらねぇぞ!」


 クリスタルを拾った男子生徒が懐に隠す。


「私だって子供から奪うような真似はしないわよ」


 子供を思っての言動……のように思えるが、実際には男子生徒が手にしていたクリスタルが小さすぎたための言動だった。


 村長の妻――カレンの目的は別にある。


「それ、村の近くにある森の中で見つけたの?」

「そうだけど……」

「だったら探しに行きましょう」

「ダ、ダメに決まっているだろ!」

「あら、どうして?」

「先生に森へ入るのはダメだって言われていたから」


 生徒にとって先生の言葉は絶対とも言えた。

 だから、自分から約束を反故にするような真似はしない。


「それは、保護者がいない場合の話でしょ」

「……」

「だったら、私が一緒に着いて行ってあげるわ」


 大人が一緒なら問題がない、訳ではない。

 先生は子供たちの安全を考えて守ってくれる相手がいるからこそ森の探索を許可してくれていた。


「やっぱり行けないよ」


 男子生徒はキッパリと断った。


 しかし、相手が悪かった。

 カレンは学校などない村で育った大人になり切れていない大人で、今でも自分の我儘を押し通せると考えているところがある。何よりも甘やかされて育ったせいで上からの忠告など気にしないところがあった。


「いいから案内しなさい!」

「……」


 男子生徒たちが一斉に離れる。

 癇癪を起した大人に付き合っていられるほど彼らも暇ではない。


「行こうぜ」


 カレンに背を向けて歩き出した。


「そのクリスタルがもっと手に入れば大金が手に入るわよ」

「大金……」

「そうよ。お金があれば何でもできるようになるわ」


 自分が田舎で燻っているのも全てはお金がないせいだ。

 2年前にお金を巻き上げられた光景を思い出し、さらには数日前にも自分だけが買い物をできなかった事からそんな風に思うようになっていた。


 大金があれば都会へ行ける。


 間違ってはいなかったが、現実を見ていないカレンでは大金を所持して行っても破滅する未来しか待っていない。

 それぐらいの事は周囲の大人たちは分かっていた。


「あなたたちだってやりたい事がないの?」

「ある……」


 騎士になって人々を守りたい。

 特にきっかけなどなかったが、街で育った男の子らしく街を守る騎士の姿に憧れた。


「だったら、その夢を叶える為にも金を手に入れなさい」


 騎士には剣の実力が高いだけではなれない。

 教養や統率力、兵士を率いる為の資質が必要になる。そういった事が分かっていたからこそ男子生徒の両親は無理をしてでも子供を学校に通わせてくれていた。


 けど、騎士について調べた彼らはもっと簡単な方法を知っている。

 献金だ。

 騎士の中には明らかに実力が不足しているにも関わらず騎士になれている者がいた。その人物たちには商人や貴族の子弟という共通事項があった。


 つまり、金を持っている人間は実力が不足していても騎士になれる。


 それに根拠となる事は他にもある。

 エリオットの取り巻きをしている4人。

 彼らは将来的には領主となるエリオットの側近や騎士になる可能性が高かった。


 けど、剣の実力は自分の方が上だった。

 どうして、実力の低い彼らの方が騎士になれる可能性が高いのか。


 その理由は彼らの親が有力者で金を持っていたからだ。


 自分も金があれば確実に騎士になれる。

 そういった方法を採ろうにも平民である男子生徒たちには不可能だった。


「お金、欲しくないの?」

「……欲しい」

「お、おい!」


 手の中にあるクリスタルを大量に手に入れることができれば騎士になる事だって難しくなくなる。

 カレンに誘惑された男子生徒はそんな風に考えるようになっていた。


「お、俺も……」

「そうだな」


 クリスタルを見つけた男子生徒だけでなく、二人の生徒まで着いて行こうとしていた。


「あなたたちはどうするの?」

「俺たちは行かないさ」

「そう」


 付いて来ない相手には興味がなかった。

 カレンにとって大切だったのはクリスタルのある場所を知っている男子生徒だけ。

 残りは荷物持ち程度にしか考えていなかった。


 ――手に入れたクリスタルを売って手に入れた金で都会へ行くのよ。


 無謀な夢を抱いたカレンは子供たちを連れて村の外へと出て行った。



 ☆ ☆ ☆



「お願いしますジェスロさん。森へ行ってしまった子供たちを連れ戻すのを手伝ってください」

「お願いします!」


 二人の男子生徒。

 そして、男子生徒から事情を聞いたニーファ先生が頼れる冒険者に森へ行ってしまった男子生徒を連れ戻してくれるよう頭を下げていた。


「俺も行きたいところではあるんですけど……」


 若い女教師であるニーファに惚れているジェスロとしては直ぐにでも探しに行くと返事をしたいところだった。


 ところが、パーティメンバーから待ったが掛かる。


「……分かっているわよね」

「僕たちは行きませんよ」


 パーティメンバーは森への探索……と言うよりもクリスタルに近付く事に対して反対だった。


「そんな事は分かっている」


 理由はジェスロも分かっていた。


「あの、どういう事なんですか?」

「実は――」


 事情を説明するジェスロ。

 森に落ちていたクリスタルは魔物のクリスタルライノスが生み出した物だった。


 事前に森の脅威度を確認していたリリベルのパーティが森の奥にいるクリスタルライノスの姿を確認しており、その情報は冒険者全員に伝えられていた。


 クリスタルライノスの情報を聞いた瞬間、彼らは森の奥へ行く事を諦めた。


「そ、そんなに危険な魔物なんですか?」

「冒険者でない先生に言っても具体的な事は分からないかもしれませんが、Aランクの魔物なんです」


 自分たちでは討伐どころか傷を付けることすら難しい魔物。


「どうにかなりませんか?」

「……魔物との戦闘を避けて子供たちを連れ戻します」

「ちょっと!?」

「行くのは俺だけだ。魔物に見つからないよう隠密行動するなら少人数の方がいい。これは俺の我儘だからお前らまで付き合わせる必要はない」


 惚れている女性の頼みだから無茶な事でもする。


「お前らは万が一の場合に備えてマルスたちを探せ」

「朝から姿を見ていないじゃない……」


 冒険者も今日は休日ということで自由行動が許されていた。

 それでも全員が一斉に休んでしまうのは問題だったので午前中はマルスとジェスロのパーティが休んでいた。


 親睦でも深めようと朝から姿を探していたのだが、マルスのパーティメンバーは誰も見つからなかった。


「あいつらもプロだ。午後になったら戻って来るはずだ」


 それまでは自分だけで行く。


「わ、私も行きます」

「ですが……」

「生徒を放っておく事はできません!」


 たとえ危険な場所で、自分は足手纏いだったとしても生徒を見捨てることはできなかった。


「……俺から離れないで下さい」

「はい!」

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