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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第28話 子供たちの狩り

 森の中を気配を殺しながら進む。

 獣だけでなく魔物までいる森では見つかるだけで危険性が一気に上がる。


 俺たちのパーティが引率しているのは5人。

 騎士になりたいと言っていた男の子を中心としたグループだった。


「なあ、どこまで行くんだ?」

「……静かに」


 ちょうどシルビアが屈んだので男子生徒に静かにするよう言う。


「見つけました」


 シルビアが見つけたのは足跡。

 前日に雨が降っていたおかげで地面に跡が残り易くなっている。


 そこから200メートルほど進んだ先に――兎がいた。


「あれは……!」


 ただの兎ではない。

 数日前にも遭遇した蹴り兎だ。外見のほとんどは普通の兎とそれほど変わらないのでパッと見ただけでは普通の兎だと思い込んで警戒を緩めてしまうのだが、よくよく見ると普通の兎よりも後ろ足が太く、強くなっているので蹴り兎だと分かる。


「で、どうする?」

「決まっている」


 男子生徒が弓を取り出す。

 学校の授業では近距離と遠距離の両方に対応できるよう剣と弓、両方の扱いに力を入れていた。


 男子生徒が矢を番えて――放つ。


 蹴り兎に向かって真っ直ぐに飛んで行く矢。

 仲間の男子生徒も失敗した時に備えて腰に差していた剣を抜いている。


「きゅっ!」


 矢が当たる直前、蹴り兎が自分に近付く矢に気付いた。

 既に矢と蹴り兎の距離は5メートル。今から逃げるのは難しい。


 ――パキン。


 間違いなく当たると思われた矢。

 しかし、その場で宙返りしながら放たれた蹴りが矢を粉々にしていた。


「きゅっ!」


 蹴り兎が矢の放たれた方を見る。

 そこには当然、矢を射った男子生徒がいる訳で……


「ひっ!」


 魔物に見られた男子生徒は怯えていた。


 彼の中では今、ある生徒が数日前に襲われた時の光景が蘇っている。

 見た目だけなら可愛らしい魔物だが、人を殺せるだけの力を持っている。


 自分も襲われればどうなるのか分からない。

 いつしか体が震えていて歯がカタカタと鳴っている。


「ど、どうしよう……!」


 それは仲間の男子生徒たちも同じで、本来なら矢による攻撃が失敗した瞬間に蹴り兎を取り囲んで逃げられないようにするはずだったが、予期せぬ反撃に思わず行動が取れなくなってしまっている。


 そうしている間に蹴り兎が矢を射った男子生徒へと駆けて行く。


「あ……」


 震える手でどうにか剣を抜く。

 しかし、震えた手ではしっかりと握り続けていることができずに手から落としてしまう。


「きゅう!」


 可愛らしい声を上げながら蹴り兎が跳び上がって後ろ足を振り抜く。


 ――グサッ!


 蹴りが届く直前、シルビアの手によってナイフで串刺しにされていた。


「ダメですよ。まったく……」


 男子生徒は目の前にいる美少女の姿が信じられなかった。


 彼にとってシルビアは初日に見せたメイド服姿のイメージが強過ぎた。

 そんな女性が、自分たちでは恐れるしかなかった魔物をナイフで串刺しにして両耳を鷲掴みにして持っている。

 とても強そうには見えていなかった。


「森での狩りも畑での魔物と同じです。皆さんは子供だから仕方ないですけど、実戦で最も大切な事は魔物を前にしても臆さない心です。今のだって仲間の4人で囲んでいれば蹴り兎は標的に迷って、その間に体勢を整える事だってできたはずですよ」


 それに彼らはきちんとした教育を受けていたおかげで蹴り兎レベルなら倒せるだけの実力を身に着けている。


 今回の課外授業でも最重要課題にされている事だが、今の彼らにとって最も必要な事は目の前に現れた魔物に臆さない心だ。


「ですけど、あなたたちは成長途中です。これから、ゆっくりと魔物と対峙できる心を身に着けて行けばいいです」

「はい」


 森の奥に向かってシルビアが歩き出す。

 男子生徒たちは黙って彼女に付いて行った。


 しばらくすると目の前をアライグマが通り掛かった。

 魔物ではない普通のアライグマ。


 俺たちは魔力探知などによって獣なのか魔物なのか遠くからでも判別することができるが、技術の伴っていない子供たちでは判別することができない。


 魔物を前にしたと思って唾を呑み込んでいた。

 それでも緊張しながら4人が左右に分かれて歩き出す。

 アライグマの正面には男子生徒が剣を抜きながら立つ。


 ゆっくり近付きながら歩いているとアライグマが男子生徒に気付いた。

 男子生徒を警戒したアライグマが毛を逆立てて威嚇してくる。


 それでも近付くのを止めない男子生徒を見て反対方向へと走り出す。


「えいっ」


 アライグマの後ろへと回り込んでいた正面に立っていた男子生徒とは別の男子生徒がナイフを手にして4本の足で走っているアライグマへ飛び込むように攻撃する。

 シュルシュルと巧みに男子生徒を避けて行ったアライグマは男子生徒を踏み越えて森の奥に向かって跳ぶ。


「この……!」


 さらに別の男子生徒が近くに落ちていた石を拾って投げる。

 投擲された石はアライグマの背中に当たり、地面に叩き落としていた。


「へぇ……」


 思わず感心してしまった。

 投げられた石は正確にアライグマへと飛んで行った。

 その正確さは先ほどの弓矢よりも高いほどだった。


「たぶん【投擲】スキルを持っているのかもしれないな」


 ステータスなど毎日のように確認するものではない。

 スキルが増えていたとしても魔物を相手にするような機会がなければ気にされない。


「さて、トドメだ」

「え……」


 目の前には石を受けて弱ったアライグマ。

 まるで命乞いでもするかのようにこちらを見上げて来るアライグマ。


「お前たちは肉を得る為に森へ入っているんだろう。躊躇しているようじゃあ森で生きて行く事はできないぞ」


 男子生徒5人がお互いの顔を見ている。


 やがて一人が決意したのか倒れているアライグマに近付いてナイフを突き刺していた。

 ドクドクと流れて来る血。


 男子生徒が握っていたナイフを捻ると血が一気に噴き出した。

 噴き出した血を顔に被る男の子。


「うっ……」


 初めて見た大量の血と臓物に吐き出しそうになるのを抑える。


「よく、頑張りましたね」

「うん」


 男子生徒が幼い子供のようにシルビアに抱き着いていた。

 少々、精神的に大変だったのかもしれない。


「ここからは狩りではなくて採取に切り替えましょうか」


 森には糧になる物がたくさんある。

 下を見れば食べられる葉やキノコといった食物。上を見上げれば木には実がなっている。子供の身長でも頑張って木を登れば手に入らなくはない。


「お願いします」


 こちらを見ながらシルビアがお願いしてくる。


 シルビアがお願いして来たのは男子生徒たちが倒したアライグマ。

 このままにしておくと傷んでしまうので血抜きをしたり、適切に保管したりする必要があるのだが男子生徒たちにそんな余裕はない。


 彼らに代わって俺がアライグマから血を抜いて収納リングに収納する。

 処理については後で教えれば問題ないだろう。


「さ、行こう」


 シルビアが手を差し伸べるとアライグマにトドメを差した男子生徒が手を握り返していた。

 その歩みに他の男子生徒も続く。


 ゆっくりとした足取りで森の奥へと進んで行く男子生徒たち。

 途中で得られる物を食べられるか食べられないか一つ一つ教えながら進んで行く。


 実際に森での採取経験の少ない俺たちだったが、一通りの知識は迷宮内で実践を通して得られたので間違ってはいないはずだ。


「随分と手に入りましたね」


 デイトン村の狩人しか利用しない森。

 ほとんど手付かずと言っていい森なので半日ほど探索するだけでもかなりの量の木の実やキノコを手に入れることができた。


「頑張ったご褒美です。今日は、わたしがみなさんの手に入れた物を使って美味しい料理を作ってあげます」

「本当ですか!?」


 初日に見たメイド姿。

 それに見ていただけだったが、シルビアの作った料理を見ていた男子生徒たちは夕食に期待していた。


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