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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第27話 天気になぁれ

 雨は翌日の朝になっても降り続けていた。

 豪雨とでも呼ぶべき激しい雨が窓に叩き付けられている。今後の事を考えて作られた家は豪雨が叩き付けられてもビクともしていなかった。


「雨、止まないね」

「うん……」


 暇を持て余した生徒たちがリビングに集まって家の中から窓に張り付いて雨が降る外の景色を見ている。


 課外授業を楽しみにしていた生徒。辺境での活動が予想以上に厳しくて大変な想いはしている。それでも普段では体験できない授業は子供にとっては楽しかった。


 そんな楽しい授業も雨が降っていては中止せざるを得ない。

 雨に濡れたせいで道はぬかるみ、畑を耕すこともできない。

 とても農作業ができるような状態ではない。


 さらに、魔物に襲われた時の危険性は高くなっている。激しい雨と霧によって視界の確保も難しくなっており、迎撃や防御も思うようにできない事から学校側としては中止せざるを得ない。


「このまま雨が止まないと……」


 雨が止めばすぐに外へ出られるという訳でもない。

 太陽が出て地面がある程度は乾かなければ外へ出る許可は出ない。


「皆、外を眺めていても仕方ない。大人しくしていよう」


 エリオットと彼の取り巻きとして傍にいる4人は、雨が降っていてやれる事もないため今後について考えていた。


 取り巻きの4人。

 アリスターの近くにある村や町から長や有力者の子供が次期領主であるエリオットと同い年だからという理由で傍にいられるよう派遣されていた。次期領主から信頼を得られれば彼らの将来も安泰だ。と言うよりも信頼を得られなければ将来はないと言ってもいい。長や有力者の子供、と言っても外に出しても問題のない三男や四男――長男と予備である次男以外が宛がわれていた。


 彼らは頭を悩ませていた。

 昨日は魔物の迎撃まで上手く行ったが、あの作戦はクリスが考えたものだった。

 将来を考える子供たちにとって今の内に功績は欲しかった。


 とはいえ、実戦経験の乏しい彼らでは有効な策が思い付かない。


「明日以降は、僕たちも積極的に戦闘へ参加します」


 結局はそれぐらいの案しか言えなかった。

 それでも少し鍛えているだけの彼らではエルマー以上に活躍する事すら難しいだろう。今のエルマーは数カ月間アイラによって鍛えられたおかげで剣士と呼べるほどの実力を身に着けていた。


「あまり無茶はするなよ」


 エリオットはそんな彼らの感情が分かっていた。

 その瞬間から彼の役割は自分の取り巻きが無茶をしないよう見守ることになった。


「エルマー」

「なんですか?」

「お前は彼らを見守っていろ」

「お姉ちゃんたちはいいんですか?」


 心配、と言えば心配なのだが……


「次はわたしも前線に出ながら指示を出します」


 明日以降の作戦を考えていた。

 頼もしい限りなので、必要以上の心配はいらないだろう。


 まあ、その作戦も――


「そろそろ晴れないかな?」


 天候が回復しない事には実践する事ができない。


「じゃあ、神様にお願いしようか」

「ノエルさん?」


 リビングにいた全員がノエルを見る。


「これは、わたしの故郷に伝わるおまじないなんだけどね」


 要求して来たので道具箱から布と紐を取り出す。


 1枚の布を掴むと子供の拳サイズに丸めて別の布を上から被せて紐で縛り上げる。丸まった布の上にペンで顔を書く。

 紐で吊るされた人のような物が笑顔でノエルを見ている。


「これは『てるてる坊主』。これを家の軒先なんかに吊るしておくと神様に『晴れて欲しい』っていう願いが届いて天気にしてくれるの」

「そうなんですか!」


 早速、ノエルが作った物を見様見真似で作ってみるクリスたち。

 そこに他の女子も加わっていた。

 おまじないを信じ易い女の子たちはすんなりと『てるてる坊主』作りに参加している。


 作り方は簡単だったので見様見真似でも不格好になってしまうもののできた。


「あなたたちは作らないの?」


 しかし、おまじないなど信じていない男子生徒には神頼みするつもりなどないみたいだ。


「そんな物を作ったところで本当に晴れる訳ないだろ」

「いや、面白そうだ」

「エリオット様?」

「暇をしていたところだ。作り方も簡単みたいだし作ってみよう」


 エリオットからそのように言われれば拒むことはできない。


 結局、子供たち全員が『てるてる坊主』を作り上げた。


「明日は晴れますように」


 軒先に吊るして祈りを捧げる子供たち。


「大丈夫。神様はちゃんと皆の事を見ているから本気でお願いすれば届くよ」


 『巫女』だったノエルが言えば本気で子供たちの願いが神様に届くような気がして来た。

 そして、子供たちの願いは届いた。


「わぁ!」


 直前まで雨が降っていたにも関わらず、ピタッと雨が止み、雨雲が晴れて行って太陽の光が届くようになった。


「本当に効果があるんですね」

「もちろん」

「これなら明日は外へ行けそうです」


 外は道が水を吸い込んでいて危ない。

 けれども、朝の内から快晴が続いていれば明日には問題なく作業ができるようになっているはずだ。


「ふむ。異国のおまじないは馬鹿にできない」

「さすがにここまですぐに効果があるのは初めてだね。たぶん、これだけ多くの人が願ったから神様もサービスしてくれたのよ」

「そういうものか」


 ノエルの言葉を考えながら吊るされた『てるてる坊主』を眺めるエリオット。

 ……騙しているようで非常に心が苦しい。


「おい、いいのかよ」


 子供たちに聞かれないよう小声でノエルに確認する。


「えっと……ちょっとお願いを聞いてあげるぐらいの軽い気持ちで『快晴』にしてあげたんだけど、マズかったかな?」


 バレていれば確実にマズい。

 いや、本気で神頼みが成功したと思い込んでいる姿を見ていると違う意味でマズいかもしれない。


「とにかく、お前がスキルで天気を変えた事だけは絶対にバレたらいけない」


 それは子供の夢を壊す行為だ。


「分かった」


 子供たちには神頼みが成功して晴れた、と思い込ませておいた方がいい。


 スキル【天候操作(ウェザーコントロール)】。

 周囲の天気を自在に変更することができるスキル。


 軒先に吊るされた『てるてる坊主』に祈りを捧げている子供たちの姿を後ろから見ながらノエルは背中の錫杖を手にして床を叩いていた。


 スキル発動の為に定めた予備動作。

 このように予備動作を定めておくことでスキルを発動させるイメージを自分の中で明確にする事ができる。


 スキルが発動したことによってアリスター周囲の天気が『雨』から『快晴』に変えられた。


 天気を回復させてくれたのは神様などではない。

 神様に言葉を伝えるはずの『巫女』によるものだ。


「こんなスキルを持っているって知られたら開拓作業に従事させられることになるぞ」

「だけど、子供たちの顔を見ていたらどうしても放っておけなくて」


 ノエルの言いたい事も分かる。

 俺もできるなら何か力になりたかった。


「ま、やっちまったものは仕方ない」


 幸い、子供たちはスキルによるものだと思っていない。

 そもそも天気を変えるスキルなど普通は存在していると思わない。

 ノエルが事前に『おまじない』だと言っていた事もあって子供たちは『てるてる坊主』の力を信じ切っている。


「決して間違った事をした訳じゃない」

「うん」


 フサフサの髪を撫でてあげると顔を綻ばせていた。

 いきなりスキルを使った事には驚いたけど、俺も子供たちに楽しんでもらいたいと思ったのは事実だ。

 叱るような真似はしない。


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