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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第25話 土を耕す

 課外授業3日目。


 今日は村から離れた森に近い土地。

 そこで、約100人の生徒たちが鍬を持って土を耕している。


「疲れた……」


 既に時刻は昼。

 朝から耕し続けていたおかげで座り込んでいる生徒まで現れ出した。


 それでも生徒たちの作業は軽い方だ。

 土を耕す為に使っている鍬だが、将来を見越して多めに生産していたおかげで街が50本ほど貸し出してくれた。それでも2人で1本の鍬を使う必要がある。

 そのため二人一組になって交代で耕している。


「うぅ、痛いよ……」


 中には手を赤く腫らした生徒まで現れ出した。

 子供の体力、慣れない作業……と他の要因も重なった結果、数時間も耕していたがあまり進んでいるとは言えなかった。


 そんな光景を離れた場所から見守っていた。


「こんな場所を耕しても大丈夫なんですか?」


 それなりに親しくなったニーファ先生に尋ねる。


「はい。ここなら村に影響を及ぼすような事もありませんし、しばらくしたら森から出て来た魔物によって畑が荒らされる事になるだろう、と他の先生方も予想されていました」


 魔物の出現する場所の近くで畑を耕す場合には畑に魔物が侵入しないよう柵を用意するなどして対策を用意する必要がある。

 しかし、生徒たちが耕している場所の周囲に柵はない。

 開拓の危険性を実感してもらう為だ。


「……ん?」


 畑を耕していた生徒の一人が気付いた。


「どうした?」

「いや……」

「今はお前が耕す番なんだからサボるなよ」


 サボっていると思った相方が咎める。

 耕す手を止められていれば自分が耕さなければならない範囲が増えることになる。


「何か聞こえなかったか?」

「何かって?」


 気付いた男子生徒が音のする方へ視線を向ける。

 すると、ガサガサと音を立てて揺れている茂みがあった。


「きゅ?」


 揺れている茂みの中から現れたのは兎。

 兎は誰もいないと思っていたのか首を傾げて男子生徒を見ている。


「かわいい……」


 首を傾げる姿は男子生徒でも可愛いと思ってしまうほど愛くるしい。


 思わず鍬を手放して近付いてしまう。

 畑を耕す姿を見ていた相方の男子生徒も後に続く。


「きゅ!」


 近付いて来ているのに気付いた兎は飛び跳ねながら自分も近付いて行く。

 そして、手を伸ばしたところまで跳び込めるほど近付くと一気にジャンプする。


「え……」


 てっきり自分の広げた手の中に跳び込んでくるとばかり思っていた男の子は、自分の眼前に兎の足があるのが信じられず呆然としてしまう。


 先ほどまで愛くるしい顔をしていた兎だったが、今は獲物を狙う者の鋭い目付きへと変わっており、後ろ足を大きく振りかぶっていた。


「ひっ!」


 このままだと蹴り飛ばされる。


 昨日、戦闘力に自信のある生徒が魔物を相手に全く戦えず怯えて震えていただけの姿を見ていた。

 だから、自分は気を付けよう。

 そんな風に考えていたけど、甘かった。


 愛くるしい姿で近寄って来た兎。

 ところが、その兎は愛玩動物などではなく魔物。


 蹴り兎という名前で呼ばれている魔物で、小さな子供が相手なら蹴って怪我を負わせてしまい少なくない犠牲者が出ている。

 このまま襲われれば男子生徒も無事では済まされない。


「はい、そこまで」


 襲い掛かろうとしていた蹴り兎の耳を横から片手で掴む。

 耳を掴まれたことで襲い掛かれなくなった蹴り兎が俺の手の中でジタバタと暴れている。


「悪いが人を襲った時点で容赦はしない」


 空いていた手でナイフを抜いて蹴り兎の胸に突き刺す。

 暴れ続けていた蹴り兎の動きが止まる。


「だ、大丈夫なんですか?」


 死を覚悟していた男子生徒。

 後ろの方を見ればペアを組んでいた男子生徒は尻餅をついてしまっている。

 他にも騒ぎを聞き付けたのかこちらをみている生徒が何人もいる。


「蹴り兎は一般人から見れば脅威に思えるかもしれないけど、きちんと装備で身を固めていれば新人冒険者でも大きな怪我を負うようなことはない」


 蹴り兎をそこまで恐れる必要がないと聞いて安心する男子生徒。

 だが、次の瞬間には顔が青褪めていた。


「グルルルルルッッ!」


 森から10頭のフォレストウルフが出て来た。


「ま、出て来るだろうな」


 自分たちの縄張りである森の近くで100人近い人間が作業の為に留まっていれば襲い掛からずにはいられない。


 こちらへ近づきながら唸っている。

 唸り声は生徒たちに恐怖を植え付けるには十分だった。


「さて、みなさん分かりましたね」

「な、何がですか?」

「このように魔物が多い場所で何の防備もなしに畑を耕すことは自殺行為に等しいです。授業でもきちんと教えていましたよね」

「あ……!」


 すっかり忘れていた事に気付いた。

 辺境で畑を耕すなら魔物に襲われても問題ないよう柵などを用意してからでなければいけない。


 知識は持っていた。

 しかし、昨日の魔物との遭遇が尾を引いてしまっているのか先生から言われるままに鍬を持って耕していた。


「先生は、どうしてそんなに落ち着いているんですか?」

「大丈夫です。こういう時に備えて雇っている冒険者たちです。魔物の対処は彼らに任せましょう」


 矢と魔法が放たれ4体のフォレストウルフを仕留める。

 攻撃の合間を潜り抜けて来た5体も剣や槍で貫かれていた。

 最後の1体も地面から生えて来た鋭い氷柱によって串刺しにされている。


「私も活躍したい」


 氷柱が消失するとフォレストウルフの死体が地面に転がる。

 昨日のシルビアとメリッサが活躍していた姿に感化されてしまったらしく分かり易い魔法を使っていた。


「生徒たちに怪我はありませんか?」

「はい。全員が無事です」


 真っ先にニーファ先生の元へ駆け付けて安否を確認するジェスロさん。

 これだけ接している姿を何度も見れば、ジェスロさんがどんな思いでいるのか分かる。


「脈はあると思うか?」

「どうでしょうか? 嫌っている訳ではないと思うので脈がない訳ではないと思うのですが、街の中で先生をしているような方だと死と隣り合わせの冒険者と付き合うにはきっかけが必要になるかもしれません」

「きっかけ、ね」


 上手く行ってくれればいいと思う。

 だからこそ、お節介まで焼かない方がいいだろう。

 こういうのは本人たちの気持ちで成功させた方がいい。


「とりあえず、第1波は問題なさそうだな」

「第1波?」


 俺の呟きが聞こえたのだろう。フォレストウルフの迎撃を終えたリリベルさんが盾を構えていた体勢を解きながら振り向く。


「姉御!」

「なっ……!」


 森から現れた30体のフォレストウルフ。

 しかも、その中には額から大きな角を生やした個体も含まれている。


「上位種までいるのかい? ちょっと辺境の魔物を舐めていたね」


 覚悟を決めながら盾を構えるリリベルさん。

 他の冒険者も彼女に続く。


「あの数はアタシたちだけだと犠牲を覚悟する必要がありそうだね」


 決して負けはしないが、数人が怪我を負うなど犠牲になる必要がある。


 護衛依頼はこれからも続く。

 こんなところで脱落者を出す訳にはいかない。


「じゃあ、新たに出て来たフォレストウルフは俺だけでやりますよ」

「そりゃ、Aランク冒険者なら余裕かもしれないけど……」


 こちらへ一斉に駆け出してくるフォレストウルフ。

 メリッサの使用した魔法が地面を隆起させて幅100メートル、高さ3メートルの壁を作る。壁の向こう側でぶつかる音が聞こえる。


「じゃ、こっちは任せた」

「かしこまりました」


 シルビアたちを残して土壁の上を経由して壁の向こう側まで跳躍。



 ☆ ☆ ☆



「終わったぞ」


 俺の周囲には殴り倒されたフォレストウルフの死体が転がっていた。

 素材を綺麗な状態で回収したかったので剣を使わずに討伐させてもらった。


「す、凄い!」


 歓声を上げる生徒たち。

 しかし、その歓声は俺へ向けられた物ではなかった。


「こんな壁が簡単に作れるなんて魔法ってすごいんですね」


 一瞬で巨大な土壁を作り出したメリッサの魔法。

 乗り越えられたり、壊されたりする可能性のある木の柵に比べれば土の壁は街の外壁と同じくらい頼もしく見えた。


 メリッサが土壁を元に戻す。

 今回は、生徒たちの授業が目的なので簡単な方法へは逃げない。


「アンタたち、魔法使いなら簡単にできる訳じゃないよ」

「そうなんですか?」

「そうだよ。わたしでも魔法を使えばこれだけの土壁を用意することはできるけど、それは何時間も掛けた場合の話。今みたいにあっという間に壁を作れるのは本当に一握りの魔法使いだけだからね」


 リリベルさんのパーティメンバーの魔法使いが注意している。


「それに魔法は魔力を消費しているの。だから、皆が思っているほど簡単じゃないからね」

「え~」


 魔法を見て楽ができると思っていた生徒たち。

 けれどもメリッサ以外の魔法使いでは魔法使いを雇ったところで本格的な開拓が始まった時には頼り切りになる訳にはいかない。


「……あれ、また活躍できていない?」


 確実に守る為。そして、防護壁の手本として土壁を作ってしまったせいでフォレストウルフと俺が戦っている姿が誰にも見られなかった。

 結局、子供たちから羨望の眼差しを受けることは今日もなかった。


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