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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第23話 森に潜む魔物

 木々が生い茂る森を奥へと進む。

 とはいえ、子供たちがいる状況ではあまり奥まで進むことができない。せいぜいが森の入口を見る事ができる場所までだ。


「あまり、魔物がいませんね」


 俺の隣を歩く男の子が呟く。

 さっきまでは二日酔いに悩まされていた俺だったが、友達を励ます為に妹が活躍していたにも関わらず、その兄が情けない格好をいつまでも晒しているわけにはいかない。気合で抑え込んでいる。


「そういう風に見えるかな?」

「だって、すごく静かですよ」


 森は風によって木々が揺れる音が聞こえるぐらいで、魔物の鳴き声といったものが聞こえない。

 男の子たちにとっては気配を捉えることもできないだろう。


「メリッサ」

「はい」


 杖を振るうメリッサ。

 本来は必要のない動作だが、子供たちに魔法を使った事を分かり易く伝える為に予備動作を行っていた。


 風刃(ウィンドカッター)が杖の動きに沿って放たれる。

 放たれた風の刃は30メートルほど先にある木の上の方にある枝へと飛んで行く。


「キッ!?」


 そこには猿型の魔物――スローチンパー。

 身近にある物を投げ付けて人間に攻撃を仕掛けて来る魔物。周辺に投げられる物がない時には土魔法で作り出した石を投げ付けて来る。


 木の陰などに隠れて、攻撃手段も投擲なため気配を隠すのが非常に上手い。子供たちではスローチンパーが隠れていることに気付けないのも無理ない。

 今も森へ入って来た大量の人間を仕留める為に持っていた石を投げ付けようとしていたが、メリッサの放った風刃がスローチンパーの体を両断する。


 枝の上から落ちて来るスローチンパー。


「……」

「このように森の中には魔物が姿を隠す場所がたくさんある」


 無秩序に育った木は幹が太く、体の小さな魔物なら木の裏に隠れる事も可能だ。


「もしも、森の中を奥まで進むつもりならいつ襲われてもいいように警戒し続ける必要がある」

「木の上とかも注意しないといけないっていう事ですか?」

「そうだな。木の後ろ以外にも隠れられる場所はある」


 木の上の方は葉が生い茂っていて中がどうなっているのかは見ただけでは分からない。

 先ほどのように魔物が襲い掛かって来るかもしれない。

 そう思うと木の生い茂った森が不気味に見えた。


 思わず生徒たちがあちこちへ首を動かしている。


 呆れて溜息を吐きたくなってしまう。

 冒険者になる前の俺なら同じような行動をしていたのかもしれないが、今の俺からあまりにお粗末な警戒だ。


「シルビア」

「分かりました」


 俺に呼ばれたシルビアがナイフを投げる。


 ナイフが投げられた先には何もない。

 しかし、何もないように見える場所でナイフが何かに突き刺さっていた。


「メェ!」


 苦痛からナイフが突き刺さった魔物が声を上げる。

 何もないと思われていた場所に羊型の魔物が姿を現す。


「ハイドシープ――何もない場所でも姿を隠すことができる魔物だ」


 体を保護色で覆うようにすることで自分を見えなくさせる魔物。

 そこに魔物がいると知らずに近付いた者へと襲い掛かり、そのままムシャムシャと捕食してしまう。


 見た目だけなら無害そうな姿をしているのだが、襲い方が残虐な事で有名な魔物だ。


「魔物を警戒してキョロキョロしているようじゃダメだ。本気で探し出すつもりなら魔物の気配を覚える必要がある」

「魔物の気配……」


 現にシルビアは見えていないハイドシープの気配を感じ取ってナイフを投げていた。


 と言ってもハイドシープが相手の場合は攻略法がある。

 ハイドシープのランクはD。姿を隠してしまう能力は厄介だったが、単体の能力はそれほど高くなく、一人が襲われたとしても仲間の救援が間に合えば討伐は十分に可能だった。


 それにハイドシープの隠密能力は動いてしまうと『ブレ』が生じてしまうという欠点があった。

 気配の感知ができず視覚に頼っていたとしても見つけるのは難しくない。


 背中にシルビアの握った短剣の刃を突き刺されてハイドシープが息絶える。


「ご苦労様」


 ハイドシープの死骸を引き摺って来たシルビアを迎える。


 スローチンパーとハイドシープを道具箱に収納する。

 素材は後で売れる。


「こちらはお願いします」

「私も残りを殲滅します」

「まさか……」


 森の奥へと駆け出して行くシルビア。

 シルビアが向かっている100メートルほど先には、こちらの様子を伺っていた猪型の魔物――ワイルドボアがいた。


 メリッサが自分の周囲に光の球体を生み出す。

 光の球体はメリッサの操作を受けて勢いよく地面へと飛んで行く。


 隠れて様子を伺っていた猪が咆哮を上げる。

 かなりの距離があったが、大きな体を持つ猪の叫びは離れた場所まで届いた。


「討伐完了」


 地面から光の球体に持ち上げられた土竜が姿を現す。

 得意魔法である石弾(ストーンバレット)を撃ち込む隙を窺っていたモールガンナー。

 普段は地面に隠れていて、攻撃の瞬間にのみ姿を現すせいで討伐が難しい魔物なのだが、メリッサの魔法は地面を掘り進めながらモールガンナーを撃ち抜いていた。


「こちらの収納もお願いします」

「いいけど……」


 言われるままに収納する。


 今日の二人はやる気に満ちている。

 ちょっと戸惑ってしまっていた。


「凄いですお姉様」

「お姉ちゃんも凄い!」


 姉を称賛するメリルちゃんとリアーナちゃん。


「そ、そう?」

「これぐらいはAランク冒険者ならできて当然です」


 照れるシルビアと涼しい顔をしたメリッサ。

 二人とも普段とは違って妹が見ているという理由でやる気を出していた。


「お兄様はどうされますか?」

「そうだな……」


 本当は俺がワイルドボアかモールガンナーの討伐をしたかった。

 しかし、1体の魔物を討伐しただけでは満足できなかった二人によって討伐されてしまった。


 近くに他の魔物がいないか探す。


「はい、みなさん。森がどれだけ危険な場所なのか分かりましたね」


 ニーファ先生がまとめに入ってしまった。


「みなさんにも伝えていますが、しばらくすると森の先を開発する計画が持ち上がる可能性があります。その時に中心となるのはみなさんたちです。みなさんが魔物を討伐する訳ではないかもしれませんが、その時に魔物がどれだけ危険なのか知っているのと知らないのとでは大きな差があります。自分なら大丈夫、などと思っていた子も理解できたと思います」


 魔物の気配探知など実戦で鍛えるしかない。


「魔物は怖かったですか?」

「……怖かった」


 相手は本気の殺気をぶつけて来る。

 街の中で育った彼らが遭遇した事のない気配だ。

 気圧されてしまうのも仕方ない。


「これまでは俺が基本的な事を教えて来た」


 実技を教えている先生が前に出る。


「だが、授業は全て手加減された攻撃だ。もしも、本気で魔物と戦うつもりがあるなら本物の殺気に慣れておく必要がある。クロワ」

「はい」


 一番実力があると言っていた男子生徒――クロワが返事をする。


「お前は騎士志望だったな」

「はい。騎士になって魔物から街を守ります」

「学生の内から本気の殺気に慣れておかなければならない理由はない。けど、こういうのは早ければ早いほどいい。お前が望むなら学校に戻ったら俺がそういう訓練を施してやってもいい」


 授業ではなく訓練。

 これまでのような甘い鍛え方ではない。


「もちろんやります」

「いいだろう」


 クロワの瞳は決意に満ちていた。

 先生も本気で教えるつもりなのだろう。


「今日は魔物を警戒して妙に疲れただろう。村に戻ったら休むことにしよう」


 先生の指示に従って村へと戻る生徒たち。

 途中、左右から猿の魔物が飛び跳ねながら襲い掛かって来たが、メリッサの魔法とシルビアのナイフで倒されていた。


「大丈夫?」


 俺の体調を心配したノエルが近付いて来る。


「……大丈夫じゃない」


 二人がやる気を出すせいで俺の実力を見せる場面が失われてしまった。


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