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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第21話 子供たちの初実戦

「では、今日は森へ行きたいと思います」

『はい』


 村の外に整列した子供たち。

 教師に案内されながら村の近くにある森へと向かう。


 森へ向かう目的は、凶悪な魔物の危険性を子供たちに分からせる事にある。


「よろしくお願いしますね」


 そのため魔物に襲われても無事でいられるよう冒険者が同行する。

 しかも護衛対象の人数が多いので依頼に参加している冒険者全員だ。

 実技を教えている教師も最低限の戦闘能力は持っていたが、彼らは引退した冒険者や騎士なので実戦から退いて久しい。あまり頼りにはできない。


 ニーファ先生が冒険者のリーダーである俺……ではなく、ジェスロさんにお願いをしている。


「ええ、冒険者の名に懸けて守り抜いてみせます」

「ありがとうございます」


 昨日の内に学校側にも俺が纏め役である事は伝えてある。

 誰が纏め役であるのか分かっていながら敢えてジェスロさんにお願いしていた。


「……気持ち悪い」


 酒を飲んだ影響で二日酔いになっていた。


「やっぱり天癒を使う?」


 体調を心配したイリスがそう言ってくれる。


「魔力が勿体ないだろ」


 イリスの魔力による天癒なら、どんな怪我や体調不良だろうと癒す事ができる。

 しかし、その代償に現在残っている魔力を全て消費してしまう事になる。使用した時点で今日のイリスは使い物にならなくなるも同然だった。

 一日が始まったばかりの朝から使用させる訳にはいかない。


「回復魔法で癒すことができればよかったんですけど」


 メリッサが回復魔法をかけてくれたおかげで体内から酒の毒素は抜かれているので病気になるようなことはないが、体調不良まで回復される訳ではないので二日酔いから解放されることはなかった。


 吐きそうになる口を押さえる。


「本当に大丈夫か?」

「大丈夫です」


 近付いて来たクレイグさんに答える。


「こんな体調でもスキルや魔法は使用できます」


 【探知】を使えば魔物の気配を捉えることも簡単だ。


「それに俺がダメでもシルビアがいます」


 シルビアの方が【探知】の精度や範囲は上になる。

 最悪、警戒はシルビアに任せておけば問題ないだろう。


「問題ないならいいんだが……」


 それぞれのパーティで列を成して進む生徒の左右前方や後方、といった具合に担当する警戒範囲を分ける。


 話し合った結果、俺たちが担当するのは左側前方になった。

 もちろん他の冒険者が見落とす可能性もあるので自分の担当範囲だけを警戒していればいい、という訳でもない。


「では、出発します」


 教師の一人を先頭に歩き出す。

 情けない話だが、イリスの肩を借りて歩いていた。


「おいおい、あんな冒険者で大丈夫かよ」

「どうせ大した事ない奴なんだぜ」


 子供たちの酷評が二日酔いの頭に響く。


 女性冒険者の肩を借りている男性冒険者。

 子供たちの評価が低くなるのも仕方ない。


「気にするな」

「分かっていますが……」


 今にも子供たちを睨みそうになっていたシルビアたちを宥める。

 相手が子供でも主である俺を馬鹿にするような言葉は眷属として許容できなかったみたいだったので注意させてもらった。


「おっ、森の入口が見えて来たぞ」


 村から森へと続いている道。

 猟師や森でしか採取できない植物を求めて村の人間が森に入る事もあるので自然と出来上がった道の先にある入口。


 薄暗くて奥まで見通せないが、そこだけは何度も人が通ったおかげで草木が押し退けられていた。


「ひっ」


 先頭の方を歩いていた男の子が怯えた声を上げた。


「お、狼……!」


 30メートルほど離れた森の入口にある茂みから一頭の狼が顔を出した。

 急に現れた狼に驚いた男の子だったが、怯えながら腰に差していた剣を抜く。


 列の中でも先頭の方を歩いているグループは、学校を卒業した後は騎士や兵士、冒険者になる事を夢見ている子供たちで授業の中でも戦闘訓練に力を入れている生徒たちだった。


「いいな」

「うん……」


 リーダーシップを発揮した生徒が武器を構えると近くにいた同じグループの生徒たちも武器を抜いていた。


 俺たち大人は後ろへ下がる。


「大丈夫でしょうか?」


 森まで案内していたニーファ先生が近くにいた実技担当の教師に尋ねる。


「……たぶん大丈夫じゃないでしょうね」

「え?」


 ニーファ先生が戸惑っている間にも狼――フォレストウルフは自分のテリトリーを侵略されて怒っているのか毛を逆立てて唸っていた。


 鋭い眼光を向けられてリーダーの男の子が怯む。


「……この野郎ッ!」


 恐怖を必死に抑え込んだ男の子が剣を上から振り下ろしながら斬り掛かる。

 強くなることを目標に剣を振り続けていたことがよく分かる重たい一撃だ。振り下ろされた時の様子からしてフォレストウルフが相手なら一撃で屠れるだけの威力があると伺える。

 ……が、当たればの話だ。


 男の子の剣は横に跳んだフォレストウルフには当たらず地面を抉っていた。


「そんな!」


 抉った地面から少し視線を上げた男の子の視線がフォレストウルフと合う。

 フォレストウルフの目はギラギラと輝いていた。


「ひっ……!」


 飛び掛かって来るフォレストウルフ。

 襲われようとしていた男の子は何もできず、同じグループの生徒たちも自分の武器を握っているものの助けに動くことができない。


 フォレストウルフの牙が眼前まで迫る。


「キャウンッ!」


 首に横から矢を受けたフォレストウルフが吹き飛ばされる。


 リリベルさんのパーティメンバーの一人が放った矢が命中していた。

 起き上がったフォレストウルフだったが、その時には上に飛び乗っていた別のメンバーの手によってナイフを背中に深々と突き刺されていた。


「呆けない」

「……」

「ここは危険な魔物が出現する森だっていう危機感を持ちな」


 パーティリーダーであるリリベルさんが男の子たちを叱る。


「それに、どうしてリーダーが攻撃に失敗した後で誰も助けにいかなかったんだい?」

「それは……」

「初めて間近で目にする魔物だ。魔物が怖いのは無理ないよ。けどね、今にも襲われそうな友達を見捨てるような奴にはなるんじゃない」


 自分の実力を過信していた男の子たち。

 魔物が相手でも倒せるという自信があった。

 ところが、実際に相対してみると戦う以前の問題だった。


「さすがに最初がフォレストウルフは可哀想ですよ」

「そうかい?」


 リリベルさんがパーティメンバーと話している。

 単体でならDランク冒険者でも討伐することができる。

 本当に戦闘力に自信があって冒険者になるつもりならフォレストウルフの1体ぐらいは討伐することができないといけない。


「しかし、森に入る前からフォレストウルフが出て来るとか危険な森だね」

「こんなのは最初から予想できた事じゃないですか」

「どういう事ですか?」


 彼女の言葉が気になった一人の男の子が質問する。


 魔物は人の肉を貪って強くなる為に襲って来る。

 しかし、魔力に満ちている森は魔物にとって最高の環境らしく、簡単には森から出て来ることはない。


 それでも森から出て来た事には理由がある。


「あいつらにとって一気に増えた人間は格別の餌にしか見えないっていう事だよ」

「そ、そんな……」


 その時、森の奥から何体ものフォレストウルフが姿を現す。

 少なくとも20体以上はいる。

 たった1体でも苦戦したフォレストウルフが何十体といる光景は子供が恐怖するには十分だった。


 怯える男の子の頭の上にリリベルさんが手を置く。

 頭の上に手を置かれた男の子がリリベルさんを見上げるとニカッとした笑みを浮かべていた。


「たしかに今のアンタたちじゃフォレストウルフ1体にも苦戦するよ。こんな調子じゃ辺境の開拓なんて不可能だろうね」


 将来的な開拓を目的としている事は子供たちも知っていた。


「弱いままが嫌なら強くなればいいだけだよ。それに、アンタたち自身が強くなる必要はないんだよ」

「どういう事ですか」


 森から出て来たフォレストウルフを迎え撃つ為にリリベルさんがパーティメンバーを連れて魔物の前に立ちはだかる。


「魔物の相手なんて強い奴に任せておけばいいんだよ」


 自分たちの手に負えないようなら依頼を出して冒険者を雇えばいい。

 Cランクパーティの彼女たちなら相手が20体いても関係ない。


「任せましたよ」

「ああ、アンタたちは手を出しちゃいけないよ」


 ここではフォレストウルフ程度の魔物が相手なら『Cランクパーティでも十分』だという事を知ってもらう事が重要だ。

 俺たちが討伐してしまうと『Aランク冒険者だから討伐できた』という認識にされてしまう可能性があったため彼女たちに任せることにして下がる。


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