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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第18話 女性を味方につける

 村が見える場所まで近付くと子供たちが騒ぎ出す。

 ようやく目的地に着いたのだから騒ぐのも仕方ない。


「じゃあ、俺は先に行っているよ」

「お供します」


 メリッサを連れて一緒に列を成している馬車の前へと出て、そのまま村へと向かう。


「む……」


 魔物を警戒する為に村の門の前で立っていた兵士が馬車の集団から先行して走って来る俺に気付いた。


「やあ」

「お前、マルスか」


 村を出てから2年以上が経過しているが、あの頃から身長が少し伸びた程度で外見はそれほど変わっていないからすぐに俺だと気付いてくれた。


「今日はどうしたんだ? それに、あの馬車は……?」

「……村長から聞いていないのか?」


 俺たちが先行して村に来たのはこういう事態を避ける為だった。

 確認の為に来てみれば案の定課外授業の話が伝わっていなかった。


「な、なんだ!?」


 村の方から慌てた青年が現れた。

 青年の両隣には、部下と思しき若い男が立っていた。


 中央にいるのはデイトン村の村長をしているリューだ。


「マルス!? 今度は何をするつもりだ?」


 失礼な。

 まるで俺が騒ぎを起こす為に村へ来たみたいな言い方だな。


「それよりも、あの馬車の集団は何だ!?」

「どうして、お前が覚えていないんだよ」


 村の最高責任者が知らないとか問題だ。

 と言うよりも、こいつだけは絶対に知っていなくてはおかしい。


 事前に学校の方で村を使わせてもらう為の交渉を行っており、その相手がリューだという事は交渉を担当していた先生から聞いて確かめているので間違いない。


「アリスターにある学校が村を使わせてくれって言って来ただろ」

「学校? ……ああっ!」


 今の様子からしてすっかり忘れていたみたいだ。


 こんな奥地にある小さな村なので子供を教育する為の場所なんて存在しない。

 子供は適当に育って、適当に親の仕事を見て学んで、生活する。それを何世代も繰り返して来たので知識を与える場所という物をイメージすることができなかった。


「その様子だと何も用意していないな」

「スマン……」

「謝って済まされるような状況じゃないぞ」


 100人以上の人数を小さな村で受け入れるとなると色々な準備が必要になる。

 食事などの必要物資は全てこちらが持参した物を使わせてもらうから物資に関しては問題ないし、住む場所に関しても事前に用意しておいた空き家を使わせてもらうことになっている。


 問題は、村に住む人々の印象だ。

 俺たち家族が出て行った時もそうだったが、小さな村というのは自分たちだけで生活が完結してしまっているところがあるせいで閉鎖的になりがちだった。

 そのため恥を晒した者や余所者には厳しい目が向けられることになる。


 大人ですら耐えられない場合がある。

 果たして、子供たちが耐えられるのか?


 けれども、そういった事は俺たちが考える事ではない。


「お前は既に村の代表として生徒たちを受け入れる為に金をもらっているんだから責任はそっちにあるぞ」


 学校側から謝礼金が既に支払われている。

 その金には、村の方で子供たちを受け入れられるよう対応する目的も含まれている。

 既に生徒たちは村まで来ており、今さら「できません」なんて言い訳が通用する状況ではない。


 これが数日前なら状況が変わったかもしれない。

 しかし、今の状況でキャンセルするような事があれば、村がキャンセル料を支払わなければならない。


「わ、分かっている……!」


 部下の一人に指示を出す。

 指示を受けた部下は、慌てて村の方へと帰って行った。


「……村長になんかなるんじゃなかった」

「疲れているみたいだな」


 目の下には少し隈ができていた。


「数日前に畑仕事の方がようやく落ち着いたんだ。その後は、村の方で起こっている問題の解決や今後のスケジュール調整……色々とやる事が多すぎる。どうして先代の頃は、あんなに遊んでいるようにしか見えないのに上手く行っていたんだよ!」


 それは上手く行っているように見えて全然上手く行っていなかったからだよ。


「先代たちは自分が楽をする事しか考えていなかった。しかも、その思考が未来へ向くような事はなくて『現在を楽に過ごす』事にばかり向いていた」


 村の近くに危機があっても放置。

 税も先祖たちが功績を残してくれていたおかげで免除されていた。

 そのため納めるべき税の分だけ遊んでいられた。


 そして、今の村長であるリューが直面しているような問題は真面目に働いている部下に丸投げしているような状態で、最も苦労させられていたのが俺の父だ。


「お前は子供の頃から村長になりたいって言っていたじゃないか」

「こんなの俺が望んでいた村長じゃない!」


 リューがなりたいと言っていたのは、遊んでいてばかりいた村長だ。

 決して忙しさのせいで目の下に隈を作るような大人ではない。


「とにかく村の方で子供たちの受け入れをしてくれよ」



 ☆ ☆ ☆



 村に続々と馬車が入って来る。

 馬車は門の近くに造られた(・・・・)空地へと並べられる。


「どうやら上手く行ったみたいだな」


 整地された空地だが、この場所は馬車が来るまでの数分の間に俺とメリッサの二人で用意させてもらった。


「俺が道具箱(アイテムボックス)でこの場所にあった倉庫を収納」

「そして、私が土魔法で一気に整地してしまうだけの簡単なお仕事です」


 迷宮操作でも同じ事ができたが、自分たちの魔力で行ってしまった方が魔力の節約になる。


「では、みなさん。こちらになります」


 馬車から下りて整列していた生徒たちを連れてメリッサが用意された家へと案内して行く。


「あら、いらっしゃい」


 家の中では村の住人である主婦の一人が掃除をしていた。


「本日からお世話になります」

「いえいえ、私たちの方こそ仕事ができて嬉しいです」


 この女性はメリッサが雇った女性。

 先に報酬の金貨を握らせてこれからの2週間で仕事を与えた。


 他にもメリッサが雇った女性は何人もおり、彼女たちは他の家を掃除していた。


「今日は歓迎の意味も込めて腕によりをかけた料理を用意させてもらいます」

「いえ、そういう訳には……」


 話し掛けられた女性教師がたじろいでいた。


「いいんですよ。こんな何もない田舎ですから都会から人が訪れてくれただけで楽しいんです」

「はあ……」


 急に訪れた100人を気持ちよく受け入れている主婦。

 他の村人に関しても同じようなもので、閉鎖的な空気などどこにもない。


「本当に上手く行くんだな」


 メリッサの策には驚かずにはいられない。


「閉鎖的な人間と言うのは現状が変わる事を恐れて余所者には排他的になり易い傾向にあります。ですが、それと同じくらい田舎者は都会に憧れています」


 メリッサは主婦を雇う時に「都会なら主婦でも余った時間で掃除を請け負うような仕事をします」と報酬を渡しながら誘っていた。

 雇われた彼女たちの胸中には、都会にいる主婦みたいな事をしてみたいという欲求があった。

 そこに付け入って彼女たちを誘った。


 さらに田舎では手に入らない都会の物を少しばかり渡していた。

 これは、お試しで渡した物。

 後でバザーを開いて、もっと多くの物を買わせて贅沢をさせる。


 買い物をする為に必要な金を手に入れる為にも彼女たちには仕事が必要だった。


 そして、その品物を提供するのは俺。

 道具箱から適当に出せば彼女たちが欲している物がいくつもある。


「彼女たちは仕事を得て報酬が必要になりました。この状況で仕事を完遂させる為に良い印象を与えておかなければならない子供たちに対して排他的な行動を取る人物はいないはずです」

「他の人たちは?」


 村には男性だっている。

 子供たちは元から排他的になるほど汚れている訳でもないので除外。


「問題ありません。家の中では女性が発言権を持っている場合が多いです。既に村にいる女性の半数以上が私たちの味方になってくれました。この状況で、女性に逆らおうとする男性はいないはずです」


 相手は一致団結した女性陣。

 そんな相手に立ち向かえるような男はいない。

 俺だって女性陣5人の意見を覆すのは不可能だ。


「今回の報酬に掛かる費用は全て村長に負担してもらいましょう」

「あいつが了承するか?」

「彼の意思は関係ありません。事前連絡がされていなかったせいでスムーズな村の協力が得られなかったのです。彼には責任を負う義務があります」


 それに学校側から支払われた謝礼に比べれば報酬は微々たるものだ。


「次はシルビアさんの番です」


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