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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第16話 魔物の襲う理由

 目的地までの道のり。

 子供たちは体力の問題から馬車に乗っての移動になってしまうが、冒険者である俺たちは馬車の周りを走って移動する。


 かれこれ1時間以上は走り続けている。

 目的地はまだ遠いので走ってはいるものの馬車の速度に合わせた移動なのでゆっくりとした移動だ。


「あの――」


 最後尾を走っている馬車の窓から顔を出した一人の男子生徒が声を掛けて来る。

 その馬車にはエルマーも乗っていることから最低学年だということが窺える。


「疲れないんですか?」


 子供たちにしてみれば普段よりもゆっくり走っている馬車でさえ速く感じられてしまう。

 そんな馬車と同等の速度で走る冒険者の姿は純粋に凄いと思えた。


「冒険者は依頼を受けたらあちこちへ移動する必要があるからこれぐらいじゃ疲れないよ」


 近場での薬草採取でさえ最低でも歩いて1、2時間は必要とする。

 この程度の移動で疲れているようではDランクの冒険者になるのも無理だ。


「君たちは街の外へ出るのは初めてかな?」


 暇なので子供たちに話し掛けてみる。


「はい。街の外は危険だから出ちゃいけないって親から言われていて……」

「でも、危険なんてないよな」


 子供たちは馬車から見える景色に目を輝かせていた。

 田舎の村で生まれ育った者や冒険者のように外へ出掛ける者にとっては珍しくない光景だが、街で生まれて外壁の外へ出た事がない子供たちにとっては初めて見る光景だった。


 どこまでも続くように思える広い草原。

 遠くに小さく見える村。


「そんなに珍しい光景かな?」


 同じ馬車に乗っていたエルマーが首を傾げている。

 別の街から来たエルマーは当然のようにアリスターの外にどんな光景が広がっているのか分かっている。


「初めて見る子供たちには綺麗な景色に見えるんだろ」

「でも……」


 エルマーは見える景色が綺麗なばかりでない事を知っている。


「何か揺れているよ」


 列を成して走っている馬車の右側200メートル先にある俺たちの腰ぐらいまでの高さがある草が揺れている。

 一人の男子生徒が気付くと全員の意識が向く。


「ひっ……」


 そこから犬の頭を持つ魔物――コボルトの群れが飛び出して来た。


 冒険者である俺たちは当然のようにコボルトの接近に気付いていたが、馬車を守る必要があったため離れすぎる訳にはいかないので右側を担当していたジェスロさんは防衛する事を選んだ。

 幸い、数も20体と群れとしては小規模な方なので対処は可能だ。


 馬車は止まらない。

 止めるべきかどうか迷ったような気配が先頭方向から伝わって来たが、対処が可能な規模だと判断したリリベルさんがそのまま進む事を伝えたのだろう。


 子供たちは初めて見る本物の魔物に怯えている。

 授業で行われているのは主に基礎訓練や教師から色々と教わりながら同じ生徒との模擬戦ばかりで実戦は行った訳がない。課外授業では不足していた実戦経験を積ませる意味もあるので当然と言えば当然だ。


 訓練を積んで自信を付けてはいたが、実際に初めて魔物を見てしまうと違った反応になる。


「さて、授業と行こうか」

「授業?」


 俺の言葉に子供たちがキョトンとしている。

 コボルトはジェスロさんに任せておけば問題ない。


 暇なので大人として子供たちを相手に授業を行う。


「魔物が人を襲う理由、分かるかな?」

「そんな事をしている場合じゃ……」

「あの程度なら問題ないよ」


 安心させるように微笑みながら言う。


「それに彼らが負けた場合にはここにAランクの冒険者がいるな」


 馬車の中から自信に満ちた声が聞こえて来る。

 どこかで見た事のある顔……と思ったが、成長していてすぐには気付かなかっただけで領主であるキース様の息子――次期領主だ。


「お久しぶりです」

「そんなに畏まる必要はない。僕は次期領主という立場でしかないし、今は課外授業に参加する一生徒であるエリオットだ」

「分かった。この依頼の間は生徒として扱うよ」


 子供相手に敬語を使うのも変な話なので砕けた口調で話す。


「どうして、こんな場所に?」


 まさか列の最後尾にいるとは思わなかった。

 今回の依頼は表向き生徒全員の護衛という事で引き受けているけど、絶対に守り抜かなければならないのは次期領主であるエリオットだ。


「僕も本来なら列の中央にいると聞いていた。だが、出発直前になって最後尾に移動させられた。理由は、目の前にあなたたちがいることを考えれば自ずと分かる」


 最大戦力である俺たちの傍にいた。

 この列の中でどこが一番安全かと問われれば俺たちに一番近い場所だろう。

 依頼に参加する冒険者の情報を事前に聞いていた教師たちには詳しい実力はともかくランクぐらいは正確に伝わっているはずだ。


「それで、魔物が人を襲う理由だったな」

「はい」

「授業では人を襲い喰らうことで魔物は成長する、と聞いている」

「その通りです」


 魔力を持つ生物の肉を喰らうことで魔物は自身の体内に持つ魔石を成長させることができる。

 中でも人間の肉は成長率が高いらしく好んで襲う。


 成長を続けた魔物は進化を果たし、最後には普通の人間では手を付けられないほど強力になっている場合がある。


 そういった理由から人間が襲われる事件が後を断たない。


「人を好んで襲う魔物にとって100人以上の人間が列を成して移動している俺たちはどんな風に見えるかな?」

「どんなって……」

「格好の餌?」

「正解」


 走って来たコボルトがジェスロさんたちの傍まで近付いていた。


 飛び掛かって来たコボルトを紙一重で躱すと右手に持った剣で首を刎ねる。先頭を走っていて真っ先に襲い掛かった仲間が一瞬の内に殺されてしまった光景に残されたコボルトが委縮してしまっている。

 その間にジェスロさんがコボルトの中央を真っ直ぐに駆け抜けて両手に持った2本の剣で次々と斬り捨てて行く。同じく大剣とハンマーを装備した2人がそれぞれ左右を担当して、弓を装備した一人が討ち漏らしたコボルトを射抜いて行った。


 リーダーであるジェスロさんが正面から一直線に斬り込んで仲間が左右と後ろからフォローする。それが彼らのスタイルだ。


 戦闘が始まってから3分もしない内に襲い掛かって来たコボルトの全てが地面に倒れていた。


「知能の低い魔物は『人を襲う』という本能に抗うことはできない。けど、決して考えなしという訳でもない。今回、馬車が襲われたのだって魔物特有の嗅覚や感覚で馬車に乗っているのが戦えない子供ばかりだっていうのを感じ取れたから襲って来たんだ」


 戦闘をできる者が護衛をしている事にも気付いた。

 しかし、考え無しではなかったが馬鹿だった。

 戦闘をできる者とできない者の人数差だけを考えて襲い掛かって来た。


「だから、大人数で移動する時には魔物を簡単に片付けられるだけの実力を持った冒険者を雇うか兵士を連れていないといけないんだ」


 護衛代をケチってしまったばかりに馬車に乗せていた物を全て奪われてしまった。

 そんな話はよく聞く。


 しかも辺境にいる魔物は多い。

 一瞬の油断が死に直結する。


「今は簡単に倒せたけど、それは相手が低ランクの魔物であるコボルトで戦ったのが彼らのようなCランクパーティだったから、っていうのを忘れないように」


 間違っても子供たちだけで戦わせるような真似はさせてはいけない。

 いくら授業で実力を付けて約100人がいるとしても20体のコボルトが同時に襲い掛かって来ては何人が生き残れるのか分からない。


「もしも、魔物を見つけた場合には自分たちで対処するんじゃなくて必ず冒険者の誰かを呼ぶこと」


 俺たちの見ていないところで魔物を見つけてしまった子供たちが自分たちだけで討伐しようなんて考えてしまうと面倒な事にしかならない。

 事前に手を打っておく必要がある。


「分かったかな?」

『はい』


 馬車の中から揃った声が返って来る。

 ……たぶん大丈夫だと思いたい。


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