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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第11話 迷宮管理④

 迷宮の地下40階。

 そこは海フィールドの最奥で多くの海棲生物が生息していた。


 広い島の海沿いにある砂浜を進む。

 神獣たちと直接約束をしていた訳ではないが、今日会いに行くことは地下40階の奥にいるボスを通して約束させてもらっていた。


『久しいのう』


 砂浜へ近付くと太陽に当たってのんびりとしていた雷獣と遭遇する。

 迷宮の中に造られた偽物の太陽――熱と光を放つだけの球体――でも日光浴になるらしい。


「待たせたましたか?」

『いや、こちらは何もすることがない生活じゃ。誰かの来訪がある、と分かっているだけでも退屈しないものじゃ』

「そう言ってくれると助かります」


 大きな体を揺らしながら近付いて来る。


「うわ、これが神獣?」


 初めて雷獣を前にしたアイラが目を輝かせながら近付いて行く。


『お、おい……!』


 無警戒に近付いて来るアイラに雷獣が戸惑っている。

 常に雷雲を発生させ、周囲に電撃を落とす雷獣のこれまでにおいて誰かが親しみを込めて近付いて来ることなどなかった。


 しかも魔物の彼でもアイラがどういう状態なのかは一目で分かった。


 思わず後退ってしまう。

 しかし、そんな様子に構わず近付いたアイラに抱き着かれてしまう。


「ふかふか」


 柔らかな雷獣の毛に思わず眠りそうになっている。


「そろそろ慣れたらどうだ?」

『さすがに簡単に慣れるような事はない』


 彼にとって落雷のせいで周囲の者を傷付けてしまうのは日常茶飯事。当たり前の事だった。

 だというのに今は落雷が発生していない。


『迷宮の魔物を通して言わせてもらったが、もう一度改めて礼を言わせてもらう』


 迷宮の管理下にある魔物なら【迷宮同調】によって連絡を取ることができる。

 今の神獣たちは迷宮にいるだけで迷宮の管理下にある訳ではない。そのため迷宮へ来ることができなかったこれまでは迷宮の管理下にある魔物を通して言葉をやり取りさせてもらっていた。


『私からも礼を言わせてもらいます』


 海が割れて巨大な蛇が姿を現す。


『息災のようですね、魔法使いの少女』

「海蛇様もお変わりないようですね」


 海蛇と直接戦ったメリッサだったが、両者の間に確執のようなものはなく穏やかな雰囲気が流れていた。


『ここにいるおかげで私も自分のいる海を荒らすことがなくなりました。心よりの感謝を述べさせてもらいます』


 存在するだけで周囲の海を荒らしていた海蛇。

 しかし、迷宮の海は穏やかな様子だった。

 とてもではないが、メリッサが戦った時のように荒れている様子がない。


 それと、もう一つの影響もなくなっていた。


『私は海を荒らすだけではありません。海に生きる生物の気性すら荒くします』


 メンフィス王国へ行く途中に遭遇した鯨。

 あれは、海蛇の影響を受けて暴れていただけだった。


 ところが、海フィールドにいる魔物は鯨のように荒れることはない。むしろ穏やかな様子でこちらのことを見ていた。


「ここに来てから日数も経っている。そろそろ信用してもらえたか?」

『お主たちのことは信用しておった。じゃが、こうしてワシたちの影響が打ち消されているところを実際に見ると驚かずにおられんのじゃ』


 雷雲が発生せず、海が荒れない理由。


 それは、ここが迷宮だからだ。

 迷宮には階層の環境を保つ機能がある。これは迷宮主が操作しない限りは決して変わることがない。


 神獣たちの持つ落雷や嵐といった特性は、周囲の環境を激変させる。

 そんな強力な能力だったが、迷宮の環境保全能力には勝てず無効化されている。


「これがもっと弱い能力なら上手くはいかなかったんだよな」


 迷宮を訪れる冒険者の中には海の水を操作して海上へ出て来た魔物を討伐するというスタイルを採る者もいる。そういった者の為にある程度の改変なら認められるようになっている。

 そういった能力まで阻害されてしまうと迷宮を誰も訪れなくなってしまう。


 しかし、神獣の特性は許容範囲を超えてしまった。

 そのため全てが無効化されている。


『この特性ばかりはワシらが意思を強く持ったところで抑えられるようなものではない』

「気にしなくていいですよ。俺たちにできた事なんてこれぐらいなんですから」

『それでも礼を言いたい事には変わりない。何かできる事はないか?』

「……じゃあ、調教(テイム)の話はどうしますか?」


 今の神獣たちは迷宮へ連れて来ただけで迷宮の魔物になった訳ではない。

 迷宮を訪れる余裕がなかったという理由もあるが、無理矢理この世界へ連れて来られただけの神獣たちが拒否するなら迷宮の魔物になる必要もないと考えていた。


調教(テイム)を受け入れた場合にはどうなる?』

「そうですね――」


 メリットとしては、【迷宮同調】を使用することによって俺や眷属との会話が可能になる。【召喚】で迷宮から喚び寄せたり、他の階層へ自由に移動させたりすることができるようになる。

 神獣たち、というよりは俺にメリットがある。


 デメリットとしては、明確に主従の関係が生まれることと自由に迷宮の外へ出ることができなくなるぐらいだ。

 迷宮の魔物となることで迷宮主の命令には逆らうことができなくなるし、自分の意思で敵対することができなくなる。召喚魔法によって自由意思を封じられていた彼らにとっては耐え難い屈辱になるはずだ。


「あれ? さっきまでゴブリンが襲って来たような……」


 説明を聞いていたノエルが疑問を口にする。

 そのルールに従うなら迷宮の魔物であるゴブリンやファングバットが迷宮眷属であるノエルに襲い掛かって来るのはおかしい。


「それは、俺が襲うよう命令していたからだ」


 こちらから命令すれば戦うことはできる。

 命懸けの戦いまで指定することができるが、その状態は敵対とは言えないらしく迷宮的には問題ないらしい。


「問題点としては、それぐらいかな?」

『ふむ……』


 考え込んでいるのか雷獣が俯く。


『分かった。調教を受け入れよう』

「いいんですか?」

『ワシの力を必要とする時が外であるかもしれない。そういった時にお主たちの意思で自由に喚び出せないのは問題だろう?』

「そうかもしれないですけど……」

『では、私もお願いします』


 海蛇まで調教を受け入れ出した。


『これは、このような環境を提供してくれたお礼だと思って下さい。別にレベル上げの為の経験値になれ、などと理不尽な命令をするつもりはないのでしょう?』


 そんな命令をするつもりはない。


『なら私たちは穏やかな生活の対価として力を貸せるようにするだけです』

「分かりました」


 そこまで言われたなら調教するしかない。

 だが、最後に伝えておかなければならない事がある。


「それと、女神様からの伝言です」


 女神様、と言った瞬間に神獣の体が強張る。

 神獣にとって女神様は自分たちを異空間に閉じ込めた張本人。本能的に恐れてしまっても仕方ない。

 ノエルが持つ加護のおかげで彼女本人が来られるはずだが、合わせる顔がないのか来るつもりがないみたいだ。


「あなたたちを異世界に戻す術はないみたいです」


 女神様も当時は力を暴走させるつもりで異空間を発生させた。

 そして、この世界へと来たことによって異空間がどこにあるのか彼女にも分からなくなってしまったため召喚された神獣たちを新たに生み出した異空間へと閉じ込めることはできても、そこは確実に元々いた空間ではないらしい。


 女神様が神としての力を十全に使えたとしても戻すことはできないらしい。


『そういうことか』

「あなたたちもあの世界に残して来た仲間がいるかもしれませんけど……」

『たしかに海蛇のように仲の良かった者もいたが、異空間へと放り込まれた神獣のほとんどが閉じ込められた影響なのか気性の荒い性格をしていた』


 炎鎧のように暴れることを望んでいた者もいたらしい。

 そんな者の多い世界は、平穏を望んでいる雷獣や海蛇にとっては居心地の悪い世界だった。


 どちらかと言うと異端である彼らは故郷への道が断たれた事を悲しんでいなかった。


「では――」


 【迷宮操作:調教】を使用する。

 迷宮を通して俺と神獣たちの間に繋がりが生まれる。


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