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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第10話 魔物の感触

 迷宮の洞窟を進む。

 これまでに何度か攻略した事のある俺たちは後ろから付いて行くだけ。

 今日はあくまでもノエルのレベル上げが目的だ。


「む……」


 正面の曲がり角からゴブリンが現れた。


「ねえ、地下2階に下りて最初に遭遇した魔物もゴブリンなんだけど、ゴブリンしか出て来ないの?」

「洞窟フィールドは本当に初心者向けに造られているからな。弱い魔物を中心に出て来るようになっているんだ」


 ゴブリンしか出て来ないのは地下1階のみ。

 地下2階からは出現する魔物が増えるようになる。


 ノエルが錫杖を構える。


 審杖テミスタッフ。

 杖の先端に取り付けられた大環に6つの小環が取り付けられた神具の一つで、武器として使われる物ではないのだが、元『巫女』だった経緯から気に入ってしまい、カタログから選んでしまった。


 しかし、神具とはいえ威力は抜群。

 棍棒を振りながら近付いて来たゴブリンを柄で一突き。


 体を貫かれたゴブリンが倒れる。


「それなりに戦えるようになってきたな」


 地下1階でゴブリンをさらに5体倒したこともあって錫杖の扱いにも慣れて来た。


「どんどん出て来なさい」


 初めての魔物討伐に興奮したノエルが迷宮の奥へと駆けて行く。

 今回は、ノエルの戦闘経験が目的なため素材の剥ぎ取りなどは行わせていない。


「来た!」


 初めてゴブリン以外の魔物が出現した。


 現れた魔物はファングバット。

 蝙蝠型の魔物で、大きな鋭い牙を以て攻撃してくるのが特徴的。


 ノエルが錫杖を構えるが、これまでと違って戸惑いが見える。

 これまでに遭遇したゴブリンはどれもノエルよりも低い魔物だったため錫杖を下へ向けていたが、ファングバットは洞窟の天井近くを飛んでおり、攻撃の瞬間にのみ下へ降りて来る。

 下から上へと変わったことで戸惑いが見られる。


 一方、ファングバットも武器を構えるノエルを警戒してなかなか降りて来ずに天井付近でノエルの周りを飛んでいた。


 こういう場合、魔法のような遠距離系の攻撃があるなら魔法で仕留めることができるし、牽制として使用することによって一気に距離を詰めることができる。

 しかし、迷宮魔法については簡単な説明しか受けていないノエルではどんな攻撃をすればいいのか分からない。


 そして、自分の周囲を旋回しているだけのファングバットに業を煮やしたノエルが持っていた錫杖を投擲する。


 投擲武器としても使用することが可能な錫杖はスキルの補助もあって真っ直ぐにファングバットへと飛んで行く。


 圧倒的なステータスを持つノエルの投げた錫杖は天井付近を飛んでいたファングバットの体を貫通し、串刺しにして天井に突き刺さる。

 ……突き刺さっていた。


「え……?」


 手ぶらになったノエルが右往左往している。


「あちゃ~」


 最も危惧していた事態になっていた。


 と、戸惑っている間に2体のゴブリンが逆襲に現れた。

 おそらく武器を失って戸惑っている姿を見てチャンスだとでも思ったのだろう。


「てい、やぁ!」


 素手になってしまったノエル。

 それでも相手がゴブリンなら1体目を殴って吹き飛ばし、2体目を蹴って地面に叩き付けていた。


「ギャ」


 最後にダメ押しとして踏み潰すとゴブリンが呻き声を上げる。

 若干、喜んでいた感情が伝わって来たことは踏み潰した者の為にも言わない方がいいだろう。


「うへぇ」


 なぜなら、今でさえ嫌そうな顔をしていたからだ。


「そんな嫌そうな顔をするな」

「だって……」

「素手で戦わざるを得なくなったのはノエルのミスだからね」


 ゴブリンを素手で殴った時の感触に顔を顰めていた。

 ガントレットを装備していた時は金属が間にあったおかげで感触が強く伝わって来ることはなかったが、素手で殴った時はゴブリンの肉が潰れる感触がダイレクトに伝わって来てしまった。


「これで手加減しないといけない理由が痛感できたな」

「うん」


 跳んで天井に突き刺さっていた錫杖を回収してノエルに手渡す。


 今回は洞窟のような閉鎖空間だったからよかったものの草原のような広大な場所で錫杖を投げてしまった時には回収が難しくなる。しかも全力で投げた場合には、どこまでも飛んで行きそうな勢いだ。

 そうして武器を失った場合には素手で戦わなければならなくなる。


「今はゴブリンが相手だったから良かったけど、特殊なゴーレムみたいな防御力が異常な相手に素手で戦うような真似をするなよ」


 相手が悪かった場合には圧倒的な攻撃力を以て破壊することができたとしても自分にダメージが来ることだってある。


「うぅ、だったらどうすれば……」

「その辺は追々説明するつもりだったんだけどな」


 想像以上に堪えられなかったため錫杖を投げてしまった。


「迷宮魔法や審杖テミスタッフの特殊効果については後日説明する。今日のところは、お前の基本となる【棒術】のスキルを使いこなせるようになることだけを考えろ」


 それほど進むつもりもないから基本的な部分だけでいい。

 しかし、ノエルは俺の言葉のある部分が気になってしまったようだ。


「え、特殊効果なんてあるの?」

「あるよ」


 パーティメンバー全員の武器がAランクやSランクだ。

 ノエルの武器だけ低ランクという訳にはいかないので、宝箱(トレジャーボックス)で取り寄せた武器は当然のようにSランクの武器だ。というか、カタログから選んだのはノエルなのだから、てっきり説明文まで読んでいるのかと思ったらデザイン重視で選んだみたいだ。


 それよりも問題なのは素手で殴ることに嫌悪感を抱くノエルだ。

 素手での攻撃が危険な行為であることには変わりないが、冒険者ならば魔物の感触に慣れておかなければならない。


「明日以降にやるつもりだったけど、先にやるか」


 収納リングからノエルがこれまでに倒したゴブリンを取り出す。


 回収はさせなかったが、勿体ないので俺が後から回収させてもらっていた。

 ノエルの倒したゴブリンは頭部や心臓を一突きされただけの死体だったので綺麗な状態で残されているため素材としては優秀な方に分類される。


「冒険者の依頼にある魔物の討伐依頼は、人の住む場所の近くに危険な魔物が現れたから倒して欲しいっていう意味での討伐もあるけど、多くが危険な魔物からしか採取できない貴重な素材を持って帰って来て欲しいっていう理由だ」


 レッドグリズリーの肝は栄養剤の素材として優秀だ。

 フォレストウルフは、肉も美味しければ毛皮も衣類の素材として使われている。


「という訳で倒した魔物の剥ぎ取りをしよう」

「ゴブリンも売れるの?」

「……」


 残念ながらゴブリンでは肉は美味しくなければ、薬の素材として使えるような臓器もない。唯一の売れる素材が魔石ぐらいだ。


 魔石は、魔物ならどんな魔物でも所有しているが、基本的には体内のどこかに所有している。そのため魔物の解体ができなければ冒険者とは呼べない。


「という訳で解体をしよう」


 先に手本を見せる。

 収納リングから取り出したナイフを使ってゴブリンの胸を開くと手を突っ込んで魔石を取り出す。既に手慣れた作業で、どこにナイフを突き立てれば一番効率的なのかが分かっている。


「ほら」

「え~」


 ノエルが嫌々ながら渡されたナイフで胸を切り開いていく。

 見様見真似で切り開かれたゴブリンの胸はズタズタに斬り裂かれていた。これが肉や毛が素材として売れる魔物なら落第だったが、ゴブリンなら解体後の肉は廃棄するしかないので練習にはちょうどいい。

 手を突っ込んで魔石を回収する。


「ベトベトする……」


 用意しておいた布で魔石を綺麗にしたついでに自分の手も綺麗にする。こんな汚れた状態で武器を握ってしまうと滑って落としてしまう可能性があって危険だ。


「もう、帰ろう……」


 解体に辟易したノエルは帰りたくなっていた。


「みんなもこれぐらいできるの?」

「当然」


 頷いたのはアイラとイリス。


 だが、残りの二人はサッと視線を逸らした。


「いえ……私ならこうするだけです」


 メリッサが魔法で生み出した風の刃がゴブリンの胸を必要な分だけ斬り裂いて魔石を宙に浮かせていた。そのまま水を掛けて体液を洗い流す。


「ず、ずるい……!」

「私もゴブリンの体液は触れたくないので工夫しているだけです」


 これはこれでアリかもしれないけど、普通は魔力が勿体ないから絶対にやらない。


「シルビアは?」

「わたしはコレを使う」


 そう言いながらシルビアが耐液グローブを嵌める。

 衣類を溶かしてしまう酸性の液体にも耐えられるうえ、厚手でありながら柔軟性も併せ持っている特製のグローブだ。


「そんな道具があるの?」

「うん。とは言ってもわたしの手製だけどね」


 ゴブリンの体液に悩んだシルビアが自作してしまった。

 野営時なども含めて料理を任せてしまっているため手を綺麗に保っておきたいと言われれば冒険者としては邪道だったとしても認めない訳にはいかなかった。


「こうして工夫することはできるけど、冒険者としてやっていくなら魔物の体液や感触には慣れておくように」

「……分かった」

「とりあえず今日はここまでにしておこう」


 なんだかんだ言って昼食時になっている。


「お前を連れて行くところがあるからそっちで休憩にしよう」


 少なくとも洞窟で休憩するよりはいい。


「どこ?」

「神獣たちのいるところだよ」


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