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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第3章 報復計画
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第15話 回収

「これだけは確認しておきたいんだが、今後も同じような事が起こると我々としても対応せずにはいられないため困る。森には、どのように対応するつもりでいるのか聞かせてもらえないだろうか」

「え……?」


 森が抱える事情など知らない新村長のリューは困惑していた。


 仕方なく俺の口から森がどれだけ危険な場所だったのかを教える。


「そんな話は聞いたことがない!」


 リューは憤っていたが、俺の説明を聞いた兵士たちは納得した様子だった。


「そうか、だから事情を知っていたクライスさんは俺たちをよく森へ連れて行ったんだな」

「俺、クライスさんから同じことを説明されたけど、こんな事態になるなんて知らなかったから軽く聞き流していたよ」


 俺も森に大発生した魔物を見るまで信じていなかった。

 というか、父も魔物を放置すればどうなるのか具体的には知らなかった。


「この村の兵士諸君の実力は、昨日の門前でのフォレストウルフとの戦闘だけだが、君たちには定期的に森へ入って魔物を退治するだけの実力があるかな?」


 騎士の言葉に兵士たちが首を横に振っていた。


 この村の兵士は、父や兵士長が抜けてしまったために11人で持ち回りをしている。慢性的な人手不足の状態だった。

 しかも、1人1人の練度は低く、数人掛かりでようやくフォレストウルフを退治できるレベルである。はっきり言ってEランクの冒険者を連れて来た方が強い。


「正直言ってクライスさんのように活躍できるとは思えません……」


 兵士の1人が俯きながら答える。

 それだけ父は強かった。なぜ、この村で兵士なんてしていたのか不思議なくらいだ。後で聞いてみよう。


「そんな人物を短絡的に殺してしまったのか……」


 さすがにステータス的に強かった父だが、不意を突かれて後ろから頭を殴られればどうしようもない。

 俺ぐらいのステータスがあれば、兵士長に殴られても逆に兵士長の拳を砕くことぐらいはできただろうけど。


「それで、新村長としてその辺りの問題は、どう考えているのですか?」

「それは……」


 そんな事を今まで考えたことのないリューでは、どれだけ考えたところで答えなど出てくるはずがない。


 新村長にリューが就任することに反対しなかった大人たちの中には、こうなることが予見できただけに誰も反対しなかった。


「こちらから用意できる選択肢は2つです。1つ目は、今回のように冒険者に頼んで定期的に討伐してもらうことです。その際には、今回ほどではないにしても報酬が必要になると考えていてください。2つ目は、周囲一帯の地域の領主であるアリスター家で討伐するというものです」

「それだ、アリスター家での討伐をお願いします」


 領主の抱える兵力による討伐なら報酬も必要ないと考えた。

 実際、村の近くにある森に出没する魔物を討伐したからと言って村から報酬を徴収するようなことはない。


 しかし、その為には必要な物がある。


「その場合、今後は今まで以上の税を納めていただく必要があります。具体的には、他の村と同様に納めていただくだけです」

「え、今までは他の村より安かったんですか?」


 そんなことも知らなかったのかと頭を抱えたくなった。


「この場所は近くの森に魔物も出没することもあって、非常に危険な場所であるため誰も手を付けなかった土地だったんです。それを管理することを条件に開拓の許可を出し、税も最低限まで抑えていました。みなさんが財産として金貨を何枚も持てていたのは、税が極端に少なかったからですよ」


 そんなことになっていたとは知らない村人が驚いていた。


 というか結構な数の村人が驚いているし、なによりその中には大人も含まれているし、開拓直後に生まれた長生きのお爺ちゃんは、なぜ知らない?


「では、改めて尋ねます。アリスター伯爵に税を支払いますか? それとも冒険者に報酬を支払いますか?」


 どちらが得かと言われれば、どちらも似たようなものだ。


 税を支払えば森に生まれた魔物を確実に倒せるだけの実力を持った騎士や兵士を派遣してくれる。だが、税は今までの生活を思えば大きな負担だ。


 冒険者へ依頼することによって討伐することを選べば、相手が冒険者本人やギルドが相手なので、報酬をある程度は交渉することができる。しかし、冒険者の実力はピンキリで、確実な討伐を依頼するなら、やはり報酬は高額になる。


 リューが頭を悩ませている。

 村長一人では決定できないようなことには、名士が相談に乗って決めるのが普通なのだが、あいにくと名士も捕まってしまい、後継者もまだ決まっていない。また、村長になったばかりのリューを率先して助ける村人もいない。


 仕方ない。本来は、俺の手で交渉して、この状況に持ってくるつもりだったが、騎士のおかげで上手く行ったので、さっさと助け舟を出すことにするか。


「あの……すぐに答えを出すのは無理だと思うので、半年は俺が冒険者として魔物討伐の依頼を受けたいと思います。他の依頼を受けていて、俺が討伐できない場合には他の冒険者への依頼料を俺が払ってもいいですから」

「今度は、どんな要求をするつもりだ」


 リューが思いっきり訝しんだ視線を向けてきた。

 まあ、そうだろうな。きちんと契約を交わしていたとはいえ、一時的に金貨1000枚も要求されてしまったんだから、俺の要求を不審に思っても仕方ない。


「何も法外な物を要求するつもりはない。村にある物を1つだけ譲ってくれればそれでいい」

「1つだけだな?」

「ああ」


 目的のある場所に向かって歩いて行く。


 右脇に道具箱(アイテムボックス)を抱えながら、左手でペチペチとそれに触る。


「俺が欲しいのはこれだ」

「お前たちが住んでいた家か」


 そう、俺が欲しいのは俺たち家族の想い出の詰まった家。


 村を出た時は、家の中から物を持って行く余裕などなかったし、早く村から出て行きたかったので、そのまま村に置いて来た家。


 だが、今は余裕があって状況も違う。


 昨日の内に村人に話を聞いて知ったが、今は村に訪れる行商人などに寝泊まりする場所として貸し出しているらしい。


「この家を貰ってもいいか?」

「好きにしろ。その程度で半年も魔物討伐を引き受けてくれるなら安いものだ」

「ありがとう」


 きっとリューは俺がこの家に住むものだと思っているのだろう。


 だが、俺はそんなことは一言も言っていない。きちんと『家を欲しい』と言ってある。


 左手で触っていた家が一瞬の内に消える。いや、消えたわけではなく、右脇に抱える道具箱の中に収納されていた。

 家があった場所には、小さく窪んだ地面だけが残されており、それだけがその場に建物があったことを物語っていた。


 その光景を見ていた村人たちが目を丸くしていた。


「さて、先に報酬を貰ったことだし、きちんと依頼はこなさせてもらうよ」


 俺1人ならデイトン村まで数分で走って辿り着くことができる。そこから少数の魔物を倒すだけなら数十分と掛からない。


 魔物退治の為に村に滞在する必要などない。


「ちょっと待て! 家をどうしたんだ!?」

「ああ、この中に入っている」


 既に色々と見せてしまっている。

 道具箱ぐらいなら色々と言い訳が立つだろう。


「お前は、この家に住むんじゃないのか?」

「まさか、色々と想い出のある品々のある家だから、中から持って来るのが面倒くさかったから家ごと回収させてもらっただけだ」

「くそっ……」


 また、騙されたと地面を殴っていた。


 別に騙したつもりなんてないんだけどな。


「きちんと1週間後には魔物退治をして日帰りするし、今日も今から帰ればアリスターの街に日没前には着けそうだしな」


 魔物退治はすぐに終わったのに、その後のゴタゴタの方が時間を使ってしまった。


「兄さん。すまないけど、すぐに追いつくから母さんとクリスを連れて先に帰ってくれるかな? 事情とかは、帰ってから全部説明するから」

「それは構わないけど、お前は何をするつもりなんだ」

「ちょっと忘れ物をしたから、それを回収してから帰るよ」

「分かった。早く合流しろよ」


 デイトン村でやることは終わった。


 後は、戦場に残してきたモーニングスターや魔物の死体を回収しておこう。あれを売るだけでもかなりの収入になる。村に臨時収入など残すつもりはない。


 それよりも、父さんの遺体を回収しなくては。帰って落ち着いたら、きちんとした場所に埋葬してあげよう。


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